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第二十話 「公爵令嬢は可能性を考える」

 いつも通りの一日がはじまる筈だったのに突如、人の言葉をしゃべり出した白鳥によって、平和な朝の一時は吹き飛んだ。白鳥は人の言葉をしゃべるばかりか自分は本来、人間なのだと語り、このような姿になってしまったのは弟に呪いをかけられたからなのだと語った。何故、そのような呪いをかけられたのか私は即座に尋ねた。


「弟さんに……!? どうして?」


「色々、事情があってな……」


 白鳥は俯いて言いよどむ。込み入った家庭の事情などが絡んで、言い難いのかも知れない。


「呪いをかけられたって言ってたけど、解く方法は?」


「……」


 白鳥は、まぶたを閉じて静かに首を左右に振った。


「そんな! 呪いを解く方法が無いなんて……! いいえ、喋れるようになったんですもの! きっと何か方法がある筈よ!」


「……」


「あ、貴方の名前は?」


「すまないが……」


 名乗りたく無いらしい。恐らく自分が名乗ることで、実家や弟の情報が漏れてしまうのを懸念しているのだろう。そういえば先日、湖で出会った筋肉質で長身のマリウス様も、本当の名前は名乗れないと言っていた。


 この所、私の周囲は名前を名乗れない者が多いなと考えながら、話したくないなら無理に聞く必要も無いと思い、寝台の上で申し訳なさそうに項垂れる白鳥の頭をなでる。


「事情があるのね……。まぁ、別に名前なんて構わないわ」


「しかし……」


「いいのよ。大事なのは、あなたの名前じゃないわ」


「え」


「あなたは私にとって、大切な白鳥よ。一緒に寝台を共にしても良いと思うくらいにね」


「!」


 首を上げる白鳥を見て、私は笑顔になる。


「だって、あなたは私にとって最高の羽毛布団ですもの!」


 私がいたずらめいた表情でそういうと白鳥はガックリと肩を落とした。



「……とりあえず、俺が言葉を話せるようになった事は一切、秘密にしておいてくれないか?」


「え? 別に、この屋敷内なら普通に話してもいいんじゃ?」


「弟に知られたら、不味い……。俺は奴から逃げて湖にいたんだ」


「あ……」


「俺の事は身内の問題だが、君が呪いをかけられでもしたら……」


「そ、そうね……。確かに」


 言葉を話す白鳥なんて聞いた事が無いのだから、呪いをかけたという弟の耳に入れば、すぐに自分の兄だと見当がつくだろう。私だって、呪いなどという得体の知れない力を使う相手から目を付けられたくは無い。


「君と二人だけになった時しか、俺は言葉を話さない……。君も今まで通り、俺の事を普通の白鳥として扱ってくれ」


「わ、分かったわ」



 その後も何故、呪いをかけられたかに関しては、白鳥は口を噤んだままだった。居室の窓際で、ぼんやりと遠くを見つめる白鳥の哀愁ある後姿を見ていると、何だか胸が切なくなる思いだった。


 優美な白鳥の姿である事を差し引いても、彼はどことなく気品がある。本来はどこぞの貴族の子息であると言われても違和感は無い。



 白鳥が貴族なら兄弟間、血縁者同士で相続問題がこじれた末に……。という話はいかにもありそうだ。兄弟ゆえに殺すのは忍びないが、邪魔な相手の存在を消す手段として、言葉を話せない白鳥にしてしまったのかも知れない……。


 自分の名前や、弟の名前が言えないのも、なまじ肉親の情があるだけに、本気で強く弟を糾弾できず、白鳥も思い悩んでいるに違いない。


 しかし、弟が居るという事は、他にも身内が居るだろう。私と出会ってから、それなりに日にちが経過している。行方が知れないとなれば、彼のご両親など、ご家族も心配しているのではなかろうか?


 行方知れずと言えば、私の元婚約者のアルヴィン王子も行方知れずだが、元婚約者殿に弟はいない。少なくとも、白鳥が私の探していた人物という、都合の良い展開は無いようだ。



「弟……。といえば、アルヴィン王子には兄が二人いたわね……。フィリップの話では、第二王子ディートリヒ様は行方不明の弟を探して現在、王都を出ていた筈だけど……」


 以前、クラスメイトが第二王子のディートリヒ様は神秘的な青い瞳をしていたと言っていたのを、ふと思い出す。


「あの白鳥の瞳も、青みがかっているけど……。まさか……。いや、弟がいる碧眼の男性なんて、ごまんと居るはずよね……」

 

 何事も決めつけは良くない。肩の力を抜き、自重して一つ息を吐く。ともあれ、白鳥は自分の事を話したがらないが、やはり個人的に気になる。念の為、第二王子ディートリヒ様と、第一王子ジークフリート様が現在どこに居るのかだけでもフィリップに調べてもらおう。


「それにしても、こんな辺境の屋敷内でも、私以外とは話さないなんて異常に警戒しているような気がするわ……。もしかして意外と身近に、呪いをかけた弟とやらが居たりするのかしら?」


 小首を傾げて考えていると、自室のキャビネットの上に置いてある書類が目に入る。この辺境にやって来た当日、屋敷で雇った者の詳細な経歴について明記してあると、セバスティアンに手渡された物だ。


「ここに来た当日は長旅で疲れて、見る気力が無かったから、目を通さず置きっ放しにして、その後も目を通してなかったわね……」


 何気なく書類をめくって私は驚愕した。

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