ポルターガイスト ~友達が体験した実話~
『ポルターガイスト』
貴方は知っているだろうか?
私は知っている。
あの時感じた恐怖を、忘れることはない。
それは、ある日の出来事だった。
ガチャンと、物音がした。
睡眠は軽く10時間と多くとっていて、浅い眠りだった私が起きるのには十分な物音だった。
何か食器でも崩れたのだろうか。物音は、ガラス同士がぶつかるような感じに聞こえた。
重たい体を起こしてベットから降りる。まだ、ぼんやりしている視界。目を擦りながら、物音のした台所へ向かう。
時間は9時くらいだっただろうか。仕事に行っている親は勿論いない。夏休み、家には1人だ。
ついでに何か飲み物でも漁ろうと考えながら、食器棚を覗く。ガラスのコップがひとつ倒れていた。
さっきの物音は、コップが倒れた音か。
倒れているコップを手にとり、冷蔵庫から麦茶を取り出した。コップに注いだ麦茶を一気に飲み干すと、リビングへ向かう。
特にやることがなかったため、適当にテレビをつけてみた。これといって面白いものはなかったが、よく見ているチャンネルにした。何もしてないよりはマシだった。
しかし案の定すぐに飽きてしまった私は、本でも読もうかと立ち上がる。部屋から本を持ってきたら、またリビングに戻ってくる気でいた。
数ある本の中から小説や漫画を適当に選び、リビングへと戻る。カーテンを閉めているため、本を読むのには少し薄暗い。電気をつけて座椅子に座った。
静かな環境で本を読むと、集中して内容に入り込める。微かに聞こえる蝉の声が、心地よいBGMとなっていた。
何十分座っていただろうか。時計を見たら10時を完全に過ぎていた。内容に入り込むほど、時の流れは早い。
ふと、テレビに目を移す。真っ暗な画面の中に反射して映されているのは、自分の姿。気にせず本に視線を戻したところで、胸の奥がスッと冷えたのを感じた。
あれ? 私、いつテレビ消したっけ?
本を取りにいくときは、すぐ戻るからと付けたままにしていた。だけど、戻ってきてからは電気をつけて本を読み始めただけのはずで。
無意識のうちに消したのかな。そういうことにして、深く考えないようにした。変に考えすぎても、怖くなってしまうだけだったから。
思わず再び見てしまったテレビから視線を外した時。
隣で音がした。
小さく体が跳ねた。恐々と隣を見る。積んでおいた本が崩れていた。肘が何かが当たったのか?
でも視線を動かしていただけで、あまり動いていない。肘に何かが当たった感じもしなかった。
違う。分からなかっただけで腕が当たったんだ。
そう自己暗示をする。消えてたテレビのせいで、少し考えすぎているだけなんだ、と。
だけど追い打ちをかけるかのように、後ろのほうからガチャンと音がした。
最初のコップの音ではない。
ドアノブを回したときのような……そう、ドアを開ける音。
振り向きたくない。万が一ドアが開いていたら、もう自分に言い訳できる気がしなかった。
だって私は、ドアから少し離れた場所で、ドアに背を向けて座っているのだ。
家に1人。ドアを開ける人なんて誰もいない。帰ってくる物音はしなかったから、親が早退して帰ってきたわけじゃない。
じゃあ、ドアを開けたのは誰?
体が固まってしまった。動こうとしても、指先を動かすのが精一杯だった。
ありえないんだ。突然ドアが開くなんて。絶対に。
もしかしたら何かの音と聞き間違えたのかもしれない。ドアが勝手に開くわけがない。
だから私は確認した。動かない体を無理矢理動かして、ドアのほうを見た。
開いてるわけなんてない。そう思いながら。
ドアは半分程開かれ、静かに、そして不気味に、
開いたり閉じたりを繰り返していた。
誰も手を触れていないドアが。
風なんて吹いてるはずのない室内で。
ゆっくりと、一定の動きを繰り返す。
叫び声なんて出ない。悲鳴をあげて逃げるなんて出来ない。真っ白になった脳内は、恐怖に埋めつくされていく。見たくないのに、視線だって動かない。
持ったままだった本が、静寂の中、音をたてて落ちた。そのおかげか、何か吹っ切れたかのように動けるようになり、まず視線を外す。
もうリビングにいるのが怖くて、本を持って部屋に帰ろうと立ち上がる。動いているドアを通らなければいけないが、止まっているわけにはいかなかった。
ドアに対して、震えながらも一歩踏み出した瞬間、台所から甲高い物音が響いた。
ガラスのコップが粉々に砕け散る音。反射的に目を瞑る。と同時に、私は言葉にならない叫びを上げることになった。
目を開けても誰の姿もない。なのに私は、突然誰かに足を掴まれ、引っ張られた。
転倒しても尚、強力な力で床を引きずられる。
誰もいないのに。
私以外、誰もいるはずがないのに。
頭はぶつけなかったが、背中は転倒したときに思い切り打ち付けてしまった。
呼吸ができなくなり、必死に酸素を求めていると、気付けば玄関の前にいて。もう引きずられていなかった。
なんとか呼吸を整えた私は、本などには見向きもせず部屋に向かった。''見えない何か'' が、凄く怖くて。
親が帰ってくるまで、ただひたすら布団の中で震えていた。
これが、私の友達が話してくれた実話。
友達は、この体験が今でもトラウマになっていて、少しの物音にも敏感になっているらしい。独りで家にいるのは、怖くて出来ないって。
ーー皆さんも、独りで過ごしているときの物音には、気を付けて下さいね……?