少女を迎えに(2)
潮の匂いを感じながら、川を登る。
俺たちが通う学校は、二つとも海沿いの街に建てられた学校だ。
片方は海沿いに、もう片方は山の上にある。
都心部の学校は戦争に巻き込まれやすく、安心して授業を行うことがままならなくなっていた。そのため、都心の多くの学生は電車を乗り継ぎ、都心から一時間程度の土地に学びに通う。
「そんな面倒なことしないでも、こっちに暮らしたらいいだろう。」
ここら辺の土地の人は、そう声をかけてくれる。住めるならここに住みたい。
しかし、都心でなければ、僕たちは生き残れない。
宇宙に旅立つ船の搭乗権は、都心部から優先的に与えられる。
疎開が始まった頃、都心部のみに突然起きた噂は、外部に漏れることなく密やかに伝わった。
官僚が生き残るためか、優秀な人々は都心部に多いという先入観からかはわからない。
俺らはほんの少しの望みを信じ、都心部から学校に通うことになった。
山を小一時間ほどで登り終え、柚子葉の学校の校門につく。
時刻は14時55分、終了まで20分ほど時間がある。
時間はまだ早いが、校門脇の守衛室のインターホンを押す。
「光宙さんお疲れ様です。柚子葉を迎えに来ました」
受付のマジックミラーの窓が横に開き、年老いた守衛さんが顔を出した。
「おお、お疲れ様。すまんな、まだ終わるまでもう少し時間がかかる。」
守衛さんの名前は光宙さんと言い、非常に珍しい名前の方だ。
「大丈夫です。学校が早く終わったので早めにきただけですから。」
「うむ、そうか……。感心感心……」
「 感心って……。ただ退校時間の為に、学校にいられなかっただけですよ」
孫を見るような目が少し照れ臭く、ついつい、余計なことをいってしまう。
「はっはっは、素直に褒められればいいものを」
「あはは、すいません。」
光宙さんは笑いながら、汗をぬぐった。
「まったく……。しかし、今日はやけに暑いな」
「本当にそうですね……。」
時計の温度計を見る。
「うわっ! 43℃ですって!」
環境汚染で30度後半が当たり前とはいえ、さすがに40度を超えると猛暑と言われる。
「なんとそんなにか! さすがに外は辛いだろう。守衛室に入って待っとるか?」
「いいんですか?」
「まぁ、お前さんくらいしか来ないしな。ちょっとまっとれ。」
「ありがとうございます」
受付を閉めると、光宙さんは裏の扉に向かった。
「ほれ、こっちにおいで。」
少しして、表に出てきた光宙さんと裏の扉に回り込む。
俺が入り扉を閉めると、自動で鍵が閉まった。
「暑かったろう、今麦茶を入れてやるからな。」
「いろいろとすいません。」
「なぁに気にするな。この暑さじゃやることもできんからな。」
そういうと、光宙さんは小さな給湯室に入っていった。