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火魂と青年の事変①

 青年は、その昔悪魔に助けられた。




 人間でないものと会話する、現実と空想の区別がつかないような子ども。

 その子がいると、周りで恐ろしい事故ばかりが起きる。

 気味悪がられ、親から棄てられた。


 幼い子どもが連れて行かれたのは、王都から離れた郊外の、鬱蒼とした暗い森の中だった。

 何か良くないモノが棲むと、昔から避けられる場所だった。


 確かに、良くないモノは棲んでいた。


 最初に、目がたくさん付いた狼がその幼子を捕食しようと襲い掛かった。

 ────四肢が弾け飛んだ。


 犬の大きさ程もあるネズミが、彼の足をかじろうと歯を剥いた。

 ────樹木に叩きつけられた。


 おいしそうな匂いをまき散らす花が、彼を飲み込もうとした。

 ────一瞬で枯れた。


 魔に汚染された動物たちを退けども、食べ物の実らない森を彷徨い続ける子どもは、ついに力尽きた。


 乾いた唇は水を欲したが、かすかに動くだけだ。

 骨と皮だけになった身体は、いよいよ限界を迎えようとしていた。もう指先一本動かせない。

 少年は死が迫ってくるのを感じた。




「いよう、少年。死ぬのか?」


 そんな彼の耳に、場違いに明るい声が届く。

 目だけで必死に追うと、艶やかなブーツの先が視界に入る。


 死にたくない、と少年は心の中で呟く。

 しかし、声の主には届かない。「ん~?」と何かオモチャを見つけて面白がるような声音で呟くと、少年の頭を鷲掴みにして持ち上げた。

 力の入らない身体が無理やり起こされる。


「きったねぇなー。いや、でもなんか別のいい匂いすんな?なんだ?魔力持ちか?」


 少年は、汚れた全身を舐め回すように見られる。

 しゃがんで自分の頭と同じ高さに来たその顔を眺めて、少年は残った力で目を見開いた。

 赤いルビーの瞳が、目に焼き付いた。


「よし、育ててやるから、俺を助けろ。」


 そうして、少年は悪魔に助けられた。





 少年は、幼い頃から自分の周りで起きた事故が、制御されていない自分の力のせいだと知る。

 喧嘩した友達がかまいたちに遭って怪我をするのも、大好きなお母さんを暖めてあげたくて薪をくべると暖炉が火を噴いたことも、忙しいお父さんの助けになればと思っていたら目の前の人の財布がちぎれてお父さんが疑われたことも。


 その力の制御を、悪魔は少年に教えた。


 少年は、教わる一つ一つを確実に身に付け、やがて自分でも魔法を創造するようになる。

 自分の成長を確かに感じて、少年の喜びとなった。その感情は、親に棄てられたというどうしようもない悲しみを、忘れ去らせた。

 ────うまくできれば、師匠が喜んでくれる。もっともっと、自分はできる。力の制御を知っていれば、もっとうまくやれたのに。それだけが残念だ。

 悪魔からは「下手くそ」、とか「んなこともわかんねーのかよ、もう一度棄ててきてやろーか」などと罵倒されることも多かったが、出来るようになると誇らしげにする悪魔の顔が見たくて、修行に精を出すのだった。


 少年の成長と反比例するように、悪魔はほとんど起きていられる時間が少なくなっていった。




「師匠、どうして最近そんなに起きていられないの」


「ふわぁ~、ねみー。魂が足りねぇー。」


「魂?それなら、いま森の魔物を狩ってきますよ」


「んにゃ、あんなんじゃ腹の足しにもならねぇ。もっと複雑な────人間の魂じゃねぇとな」


 少年は首を傾げた。

 今の今まで、少年が聞くまで悪魔はそんな話を一言もしたことがなかった。


「師匠は、人間の魂がないと眠くなるんですか?」


「おう、このまま行くと死ぬな」


「えっ?」


「でも俺はこの森から出られねぇ」


「えっ?」


「つまりだ、お前が人間を連れて来い。」


 悪魔は、その昔戦争を引き起こし、それに乗じて人間の魂を食べ過ぎて討伐されてしまったらしい。封印され存在だけは残ったものの、人間の魂が無ければこのまま消滅するだけだという。死を待つだけだった悪魔の元に、放り込まれたのが少年だった。


「ぼくの命ではダメですか?」


「お前一つの命じゃ大して生き延びられるわけがねぇ。それに、もう試した」


 少年の他にも、同じような理由で森に放棄された者は居た。飢えた悪魔は、それを見つけるや否や、貪り食った。しかし、それで飢えに飢えた身体は満たされなかった。むしろ、もっと欲しいと空腹が身体を蝕んだ。

 やがて空腹はピークを越えて、もはや麻痺し感じなくなっていた。

 されど、自分の消滅までの時間は刻一刻と迫ってくることだけはわかってしまう。


 少年は、その話を聞いて任せてほしいと頷いた。

 ────育ててくれた師匠のためなら、何だってできる。




 最初に連れて来たのは、娼婦だった。

 郊外に屋敷を持つ主人が会いたがっている、と嘘をついて。

 あまり頭の良くない娼婦だったので、疑いもせず付いて来た。

 

 悪魔が口付けると、糸が切れたように動かなくなった。

 死んでいた。


 その動かない身体を燃やしながら、少年が考えていたのは次はどうやって連れて来ようかという事だった。


 次に連れて来たのは、罪人だった。

 送還される馬車を襲って、5人まとめて連れて来た。

 悪魔は「男かよ」と言いながらも、頭に手を翳すと、次々魂を抜いて飲み込んでいった。


「口付けなくてもできるのですか」

「その方が楽だが、嫌だろ!こんなオッサンたちに俺が口付けんの!!よく考えろ」


 少年は灰になった彼らを見送りながら、人間を大量に捕まえる方法を考えていた。


 近くの村、街道の宿場、王都。様々な場所から様々な人間を攫った。

 年老いた夫婦、旅人、露天商、貴族の使用人。うまく行けば、旅団丸ごと。

 どれも鍛え上げられた魔法の力をもつ少年には、簡単なことだった。

 ただ、人懐っこい子どもだと思われるように、笑顔を張り付けた。

 警戒心をなくさせ、近づく。意識を奪う。風に乗って森まで運ぶ。そんな一連の作業となっていった。


 魂を得られた悪魔は、感心して少年を褒めた。この調子なら、結界を破いて森から出れる日も遠くはないだろう、と言う。

 役に立っているという希望に、少年は俄然やる気になっていった。




 森に不穏な空気が漂った。

 少年が気づいたときには、敷いた警戒の魔法の外を、ぐるりと何かが取り巻いていた。

 王都から来た僧侶と騎士の一団だった。

 人を攫う悪魔を退治しに来たという。

 

 少年は、湖畔で眠る悪魔に近づけさせまいと戦った。

 肩に、腹に、左足に、血が流れていく。右手は吹き飛ばされた。

 まだ完全に力を取り戻していない悪魔に、この一団を会わせるわけにはいかない。


 目を覚ました悪魔が「もうやめろ」と言った。

 少年は、地に伏され、首を跳ね飛ばされる寸前だった。

 どちらにしろ、血が流れ過ぎた。今死ぬか、あと少しの猶予があるかの違いだった。


「お前達は悪魔を退治した。王にそう報告しろ。」


 赤い目をギラつかせ、悪魔が高らかに言うと、僧侶と騎士たちは武器を持ち掲げていた手を、ぶらんと落とした。戦意を失い、悪魔の言葉に喜びを滲ませていく。


 撤退していく僧侶たちの背を見ながら、少年は悔しくて泣いた。


 折角戻ってきた悪魔の力を、大勢の人間へと使わせてしまったのだ。


「お前なー、無理しすぎ」


「師匠、すみません、師匠、」


 もう、こんな身体ではあなたに魂を捧げられません。


 霞む目で悪魔を見るが、輪郭がぼやけて表情がわからない。

 頬を伝う涙の感触も、少年にはわからなかった。

 死が迫って来る。

 あの時、森で行き倒れたときに感じたものが再び。

 動かそうにも、そもそも右手は既にない。


「おい、死ぬのか?」


 初めて森で出会ったときと同じ声音で、悪魔が言う。


 死にたくない、と心の中では呟いた。

 しかし、代わりに出た言葉は、最期の言葉だった。


「育てて、く、れて──────────ありが、……ございました」






「バーカ。勝手に死んでんじゃねぇ」



 

 





 恐らく、一瞬だった。

 悪魔が力を使ったことがわかった。


「俺の力は癒やし向けじゃねぇから、時間がかかるかもしれねぇ」


 遠のく意識に、ブレーキがかかる。


 悪魔が、少年の身体が元に戻るよう、力を使った。

 そして、それは僅かに残った悪魔の力を使い果たす要因となった。

 悪魔の末端から青白い光が放たれていく。悪魔が崩れ始める感覚が、ぼやけた視界に映った。


「だ、だめだ…………師匠、やめ、」


「かわいい弟子を死なそうなんざ、その師匠は風上にもおけねぇな?」


「オレが、勝手に………やったこと………」


「んじゃ、これも俺がやったことだ。」


 悪魔の手が、少年のまぶたを閉じさせる。


「今はゆっくり休め。目覚めたら、もう無理せず、自由に生きろよ」


 少年の閉じたまぶたから涙が溢れ出た。

 恐らく、目を覚ましたらこの悪魔はいなくなっているだろう。


 イヤだ、嫌だ。

 お別れなんて絶対に嫌だ。

 オレは、この人に何も、恩返しができていない。


 身体に流れ込んで、足りない血や骨や皮膚をゆっくり修復しようとする力を、少年は類い希なる魔力の感性で、掴んだ。

 そして、悪魔へと投げつける。千切れたのはほんの少しだったけれど。


「何してんだお前!」


「ふ、ふふ……師匠こそ、勝手に消えるなんてずる、い」


 存在が消えかかった悪魔が、何のことだと眉をしかめる。


「次は、生命延長を一緒に考えてくれるって、言ったじゃないか」


 そうすれば、ずっと一緒にいられる。

 目の前の悪魔の復活を、この目で見れる日まで。


 なんだコイツ、と変なモノでも見るかのような表情の悪魔に、少年は笑い出しそうになった。


 悪魔のこんな顔、今まで見たことがない。死にかけてみるのもたまにはいいもんだ───そう思いながら、少年は意識を手放した。







 次に目覚めたのは、大岩の裂け目の中だった。

 いつも悪魔が眠りについていた場所に、少年も横たわっていた。


 見ると、以前と変わりのない悪魔が、自分の横に死んだように眠っている。


「師匠!」


 慌てて上半身を揺り動かすが、死んだようにというよりも、生きていなかった。

 動かない。冷たい。目覚めない。


 ────間に合わなかったんだ。


 悪魔の消えかけた命は、少年が投げつけた力ごときでは。

 目から涙が溢れた。


「おい、だらしねぇな。なーに泣いてんだよ」


 頭に響いた声に、驚いて辺りを見回す。


 背後にいたのは、青白い火魂だった。


「師匠………?」


「お、よくわかったな。って、魔力の波動でわかるか。まあ、なんだ。久しぶりだな」


 火魂からするのは、紛れもなく、あの人をくったような悪魔の声だった。


「なんて情けないお姿に……………」


「いやいや、そこは泣いて喜べよ!最期のときはあんなにメソメソかわいく泣いてたくせに!」


 火魂は、抗議するように炎を激しくちらつかせた。

 泣き顔や嫌がる顔を至上の喜びとする悪魔の性癖を思い出して、まさか自分を助けたのはそれに満足したからじゃないかと疑念が湧く。

 


「最期くらい、いいじゃないですか。それも、師匠のせいで台無しですけど」


「助けてやったのに何て言いぐさだ」


「頼んでません。それよりも、久しぶりというのは?」


 自分の記憶は消えかかる悪魔に看取られるところで終わっているのだ。

 1日前だといわれても、納得ができる。

 しかし、たった1日で久しぶりは、いくら悪魔でもないだろう。


「いや、お前が意識失ってから十年経ったからよー。暇で暇で」


 さらりと言われる言葉に、「ああ、たった十年……」と言いかけて、少年は固まる。


「俺に力を分けたせいと、その腕を修復する時間だな。ったく最期に余計なことしやがって」


 吹き飛ばされたはずの腕に目をやると、確かに何事もなかったかのように存在していた。


 手を開いたり閉じたりして、感覚を確かめる。以前と同じ、自分の腕だった。


 さらに、悪魔の命の灯火で使われた力の影響で、少年の髪は悪魔と同じ黒、瞳の色もすっかりルビー色に染まってしまった。


「師匠とおそろいだなんて恥ずかしいですよ」


「バーカなに言ってんだ、すげぇ色男だぞ。かっけー」




 身体の修復で止まっていた少年の時が動き出した。

 悪魔を復活させるための準備を整え始める。

 前回は、急ぐあまり人間の魂を乱獲しようとしたのがいけなかったのだ。

 次からは、おおっぴらにはわからぬよう、工夫する必要がある。

 そこで、人間たちが自ら魂を差し出すよう、噂を流した。


 ────魂と交換に、人の願いを叶えてくれる悪魔がいるという。


 人が立ち入りやすいよう、森を整備した。魔物を駆除し(悪魔の力は弱まっていたので、もうほとんどいなかったが)、人が来ればわかるように魔法をかけ、悪魔の身体が見つからぬよう、大岩に結界を張った。


 ただし、人間の多種多様な欲望、願いを叶えるだなんて、少年の力ではどうしようもない事案もある。

 悪魔の力を使えば簡単だが、力を無償で使えば貯めることができない。

 そこで人間の魂から願いの強さの分、力を使い、余った魂を悪魔へと送ることにした。

 ただし、願いを言った人間がすぐに事切れてしまっては、また以前のように国が攻めて来かねい。残りの魂が寿命を全うすると、ここへ来るように契約を交わすのだ。


 その提案を聞いた火魂は、呆れた声を響かせた。


「うわー。だりぃー。人間が死ぬまでおあずけってことか?なげーよ、壮大だよ。よくそんな面倒なこと思い付くよな。お前、天才か?」


 これっぽっちも褒めている響きはない。


「懲りないよな、お前も」


 ただ、嬉しそうな色を、声音に滲ませて。




 少年の地道な普及活動により、悪魔産業は軌道に乗り始めた。

 一年、二年、…五年、十年と時が経った。

 少年は、青年になった。

 しかし、生命延長の魔法を少しずつ完成に近づけた青年は、未だ若い姿を保っている。


 悪魔は、少しの間なら身体に戻って活動することもできるようになった。まだまだ、起き上がるのがやっとだったが。


 悪魔の魂の研究も進め、青年の身体に入れば森を抜け出せることに気付いてからは、若い娘の生気を吸いに街へ出かけることもあった。

 悪魔好みの生気は、僅かだが魂補完の一助となるためだ。

 悪魔に身体を貸すことに異論はない青年だったが、調子に乗って若い娘に色々やらかす行為には、呆れ返ってしまう。

 帰っては「もうあの店には行けない」だの「もっと継続性を保てる関係を築け」だの説くが、悪魔は聞く耳をもたないのだった。


 しかし、何年かけても必ず復活させる、その強い思いは、青年の歩みを遅らせることはなかった。





 何年経った頃だろうか。


 あの少女が現れたのは。




「悪魔ダンタリオン様、お願いでございます。どうかわたくしを、貴方様の花嫁にしていただきたいのです。」


 


 そう潤んだ瞳で述べるのは、薄汚れた格好をした令嬢だった。

 森の中を一心不乱に突き進んできたのは、侵入を知らせる魔法でわかっていた。汚れているのはそのせいだ。


 どんな我が儘な願いでその命を差し出すのかと、半ば生暖かい目で見ていた青年は、呆気にとられて言葉を出すのを忘れてしまう。

 少女は、言葉を発しない悪魔の出で立ちの青年へ、首を傾げている。


「え?」


 思わず、間抜けな返事をしてしまう青年に、青白い火魂は「おい、魂タダみたいなもじゃねーか!契約して生気吸ってやりたい放題できるぜ」と喜びの声を上げるが、青年はそんな言葉を聞いている暇はなかった。


 少女の目は、真摯で。

 冗談で言っているようには全く見えない。

 熱に浮かされたその瞳は、何か得体の知れない恋情をこちらへと伝えているのだ。

 少女は全身で、「見捨てないで」と訴えてくる。

 白い肌に、薄紅色の唇が、自分へと必死に言葉を紡ぐ様子に青年は目を奪われて、動揺が僅かに声音に漏れてしまう。

 生きてきた中で、悪魔以外から初めて向けられた好意と呼べるものに、揺らいだのかもしれない。


 そんな青年に焦れたのか、火魂が横で大きく揺らめく。


「あー?早く契約しろよ。何やってんだよ」


「いや師匠、これは何か罠かもしれません。」


 少女に聞こえぬよう、火魂へ囁く。


「罠……だと」


「ええ、もしかしたら王国の差し金で、オレたちを偵察に来た可能性が」


「ああ?そうは見えねーけど?」


「演技かもしれません。もしかしたら、契約をすると呪いがかかる魔法を仕掛けられているかも。オレはそのあたりの対策はまだ万全とはいえませんから」


 青年が調べた限り、この国にはそんな魔法技術はまだ生まれていない。しかし、遠い国には悪魔に対抗する手段があるという。他に研究することもあるので、詳しく手を付けていない分野なのだ。


 そうこうしているうちに、少女がとんでもないことを言い出した。


「わかりました。───それではわたくしの魂を献上いたします。せめて、この命がダンタリオン様のお力の一助になりますよう。」


 さあどうぞ、とシャルレーヌは目を閉じて、手を胸の前で組む。


「え~…何この子、自殺志願者なんですけど………。」


 気が抜けた青年は、思わず星の結界を解いていた。



 青白い火魂が、青年へ体当たり攻撃で抗議をしてくる。


「おい、何してんだバカ弟子!」


「うっ、師匠落ち着いて……!仕方ないでしょう。願いも叶えないで魂とれな………!」


「あああ?何言ってんの?バカか?アホか?何見たこともない呪いにビビってんだよバーカ!」


「……そうは言っても未知は恐怖ですよ!とりあえず、追い返すにも、よく見るとこんなかわいい子を路頭に迷わせるのは可哀想………」


「おい!それが本音かよ。惚れたのか?惚れたのか?」


 テンションの上がった火魂に顔を叩き付けられて、思わず熱っ!と声を上げる。


 今まで女性(というよりも人間)に興味を示さず、師匠師匠と付いて回った青年の心の変容を感じ、火魂は一人ヒャホーイと浮かれていた。


 身体がでかくなっても、ほぼ悪魔としか接せず、生命延長なんて考え実行し人間をやめかけていく青年の、「人間としての成長」を心ばかりか心配していた火魂なのだった。


 何より、その執着心が鬱陶しいほどなのだから。

 復活に協力してくれることは青年を拾った甲斐があったというものだが、このままでは復活後も小姑のように口うるさく言われる未来が見える。

 もし、この束縛が緩和するならそれに越したことはない。




「ほんとに花嫁になる?」


 そんな火魂を背後に、青年は少女に問いかけていた。


 魂を捧げる契約は、していない。

 側に置いてほしいと願う、その少女の願いは「青年」が叶えよう、と。


 悪魔らしさを演出する動物の頭蓋骨を取って、


「これからよろしくね、花嫁さん」


 久しぶりに表情筋を動かして笑顔を見せたが。




 少女は失意と絶望を表情に浮かべて、卒倒した。




「────師匠、もしかして……………今、オレの笑顔はおかしかったですか?」




 火魂は後ろで大笑いしていた。



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