高校の二学期の有名テンプレイベントの序章3
朝7時、目覚ましが部屋に鳴り響く。
と言っても目覚ましというのも典型的な『ジリリリリリリリ』と鳴る目覚まし時計ではなく携帯に予め設定しておいた、言わばアラームだ。
携帯の画面をタップすると音はすぐに鳴りやむ。
まだほぼ閉じたままの眼を擦りベッドから出る。
今日から二学期が始まる。高校生にとって最も行く気が出ない…いや、行きたくない日だろう。
まだ夏休みを満喫していたい。そんな思いの高校生は俺以外にもたくさんいるだろう。
それでも行かなければならない。
歯を磨き顔を洗うことで眠気を飛ばす。
琴瑚が来ない日の朝はいつもこんな感じだ。
ダラダラとし、朝ごはんも食べない。
ダラダラしても時間に余裕があるのは朝ごはんを食べないからだ。
琴瑚がいるとダラダラしないが朝ごはんを食べるから結局かかる時間はいつもほぼ同じだ。
今日は初日だから持っていくものが少ない。
夏休みの宿題はそれぞれの授業で提出だが不知火高校では始業式の後はホームルームがあって終わりになっている。
夏休み明けの実力テストなんていうのも無く、高校生からしてみればなかなかの良物件だ。
学校の方針が一応文武両道だけど文の方が怪しいよな。
そんなことを考えながら必要そうな財布、筆記用具を鞄に入れ玄関に向かい靴を履き学校に向かう。
学校までは歩いて15分ほどで大した距離ではない。
そもそも歩くのが嫌いでない俺はなかなかこの距離を気に入っている。
この前はこの通学路で皐月や鶴う…緋音に出会ったけど他の人とは会わない。
クノアと梨乃は電車通学だし悠斗は高校から見て俺の家とは逆方向だ。
皐月は案外近くに住んでいて俺の家から7分くらいのところに家がある。
緋音の家は……どこら辺なんだろう…
そんなことを考えながら通学路を歩いていく。
夏休みが始まるのが早かったからか終わるのも早く今の通学路には不知火高校の制服を着た生徒かスーツ姿のサラリーマン数人くらいしか見当たらない。
まだ夏休みが明けたばかりの暑さが十分に残っているこの時期は、やはり家でクーラーをつけてゴロゴロしたいものだ。
帰りたい…そんなことを思っていると前方に知ってる人が目に入る。
その人はそこまで歩くペースが速くはなくすぐに追いついた。
声をかけようとして先に気付かれ先に声をかけられる。
「あら、おはよう九条君」
「珍しいなこんな時間に登校なんて」
そう。この時間にいるのは珍しいのだ。
なんでかって?そりゃいつもはもっと早いからだよ。
「まぁね。さすがに明日から文化祭が一段落つくまではまた一学期のように6時起きなりそうだけど」
「やっぱ大変そうだな、生徒会長って」
「そうね。でもやりがいはあるわよ」
「ふーん」
そう。この人こそ不知火高校の生徒会長。
不知火高校がかなりの自由度の高さで何でもできるのは生徒会の頑張りがあるからだ。
そのことは周知の事実であり生徒会役員は校内でも人気が高い。
とりわけその生徒会の指揮を執っている生徒会長は校内からものすごく尊敬視されている。しかもこの生徒会長は容姿端麗才色兼備、人柄の良さもあり男女共々に人気がすごい。おそらく歴代生徒会長の中でもトップと言っても構わないだろう。
そんな生徒会長とどうして俺が知り合いかと言うと……その時のことを実況しながら紹介しよう。
校門には大きく
『不知火高校第27回入学式』
作られてまだ半世紀もたっていない綺麗な校舎。
これは俺の入学式。新たな生活のスタートだ!
朝の7時に起き、今の生活とは違うテキパキさですぐに用意をし新たな制服に身を包む!
家から出て学校への道を歩いていくが…
おぉーっとここで曲がり角から女の子が走って来ている!
当時の俺、もちろん見えていないしそのまままっすぐ突き進む!
これはもしかしてテンプレイベントか!曲がり角での衝突という学園モノのお約束か!?
「やば…これ間に合わないかも…」
おっとここで女の子の視線が腕の時計へと向けられる!
その時ついに女の子の2mほど先に曲がり角が!
そしてそこには歩いている俺の姿!
これは……
『ドンッ』
ぶつかったああああああ!なんということでしょう!
こんなことは二次元の中だけの出来事だと思っていた当時の俺、混乱しています!
そして混乱しているからか、自分の手がその女の子の胸に触れていることに気付いていません!
ラッキースケベというのにこれはもったいない!……あ、いや、もったいないことなんてないよ?許可なしに触ったら犯罪だからね?
女の子の方は徐々に顔が赤くなっていく!
その時ようやく当時の俺は手が胸に触れていることに気付く!
慌てて手をどけて土下座!
「すいませんすいませんすいません!」
女の子はゆっくりと立ち上がり鞄を拾う!
…………実況はやめて普通に話そう。疲れた。
「ごめんなさい、急いでいたもので。大丈夫?」
土下座していた俺に手を差し出す。
胸を触られたのにこの対応、神すぎる。
差し伸べられた手を取って立ち上がる。
「あなた…新入生?」
「あ、はい!」
「学校までの道はわかる?」
「はい、わかります!」
「そか、なら私急がないとだから」
それだけ言うとその女の人は走り出した。
この時の俺はこんな二次元イベントが自分に起こるなんて思ってもいなかった。
これが女の子、柊菫との出会いだった。
そしてその日、校内でたまたま会ったときに
「今朝はすいませんでした!」
という俺の発言から少し話すようになりそこからある程度仲良くなり今に至る。
「ところで九条君……」
「何?」
菫さんの手が頬へと伸びてくる。
そしてつままれる。
「私は上級生よ?敬語、使いなさい」
どこか優しさを含んだ言い方で怒られる。
「んー…へもはんまりひょうひゅうへいにほもへはいんはほへー」
頬から手が離れる。
「もう一回言ってくれる?」
やっぱり理解出来なかったか。
「あんまり上級生に思えないんだよねって言ったんだよ」
意外そうな顔をする菫さん。
「あら、私ってそんなに年下に見えるかしら?」
「いや、なんていうか……でもまぁ、お母さんって感じはするかな。だから敬語を使わないのかも」
「九条君、女の人にお母さんって感じはする、なんて言っちゃだめよ…」
そうかしまった…さすがにデリカシーがなさすぎたか…
無意識に発言してしまったことに少し反省する。
「まぁいいわ。それはそうと九条君、これ知ってる?」
そう言うと鞄から一枚のプリントを取り出す。
「コスプレ…?」
「そう。今年の文化祭の目玉イベント、と言ってもいいわね」
「へぇー、こんなんあるんだ」
「で、あなた出てみない?」
「は?なんで俺が!」
菫さんの予想外の発言に驚きを隠せない。
「あなただったらいい線いけると思うのよね」
「いやいや、無理だろ」
「そうかしら?あなた普通にかっこいいと思うし、執事の衣装でも着ていたら女子はホイホイ票を入れてくれると思うわよ?」
かっこいいと言われたのは嬉しいけどそれなら…
「それなら菫さんも出たら?菫さんの方がいい線いけると思う」
全校生徒から人気のある菫さんなら優勝だって難しくないはずだし…
「私は無理よ。生徒会開催だし、生徒会役員は出られないわ」
「そうなのか…なら来年だな」
「え?……確かに来年なら出られるかもだけど…来年あるかどうかわからないし」
「え?」
このイベント来年にはなくなるかもしれないのか?
「そもそもこのイベントは私が提案したものだし、来年まであるかどうかは今年の盛り上がり方次第でしょうね」
「ふーん……それじゃこの優勝景品の学食無料券とかは?」
「それは理事長に頼んだわよ。さすが私立って感じね、あっさり承諾してくれたわ」
「私立すごいな……それで、このクラスの鍵ってなんだ?」
「あー…それね。それはまぁ色々な人用よ」
どういうことだ?
菫さんがここまで率直に答えないのはなかなか珍しかったりもする。
「どうゆうこと?」
気になるから聞いてみる。
「まぁ、乙女のための決戦場の提供よ」
???よくわからないけどとりあえず菫さんが学校の女子のことを考えているのは分かった。
よくわからないまま学校に着いたからそのまま菫さんとは別れ自分の教室へと向かう。
教室に入るとほとんどの人が既に登校しており朝のホームルームまでガヤガヤと騒いでいる。
夏休み明けだといつもより一層笑い声が響き、教室がより賑やかになる。
席に座るとお馴染みの奴が声をかけてくる。
「おう雪人!今日は朝からデートか?」
こんなことを開口一番に言ってくるなんてこいつ頭悪いだろ。
「んなわけないだろ。だいたいなんで俺が菫さんとデートなんだよ。むしろ付き添いの方がしっくりくる」
「まぁお相手があの生徒会長だからな…そこら辺の有象無象なんかが隣に並んでいたらいじめに発展するレベルの人気だし。でも雪人だとなんというか執事みたいに見えなくもなかったぞ?」
『執事』という単語が俺の数分前の記憶を蘇らせる。
「そういえば悠斗、お前コスプレコンテスト知ってるか?」
「へぇー、雪人もそんなんに興味あったんだな」
「いや、俺はメイドが出ていたらいいなと思ってな」
「メイド服ぐらいなら少なくとも1人はいるんじゃね?」
「メイド服じゃない!メイドだ!」
「いや、大して変わらないだろ」
こいつ…メイドが好き何じゃなくてメイド服が好きなだけじゃないか!
全然わかってなかったようだな…
俺が今からメイドというものを骨の髄まで教え込んでやる。
「お前は何にもわかってない。メイドとメイド服を着た女とは全然違うだろ!!そもそもメイドというのは心から御主人様に仕えて御主人様に心からのご奉仕を出来る崇高な存在だ。それをただのメイド服を着ただけの誰にでも『おかえりなさいませ、御主人様』なんて言ってる奴と同じにするな!!」
「でもお前皐月に家でメイド服着せてるじゃん」
「あれは目の保養」
即答だった。
悠斗はどうやら自分の言葉で俺を怯ませることが出来るとでも考えていたのだろうが俺はそんな浅はかな考えなどお見通しだ!
残念だったな、悠斗!
「メイド喫茶よく行って『最高!!』とか言ってるじゃん」
「うっ…」
「メイドもののエロゲで御主人様がいるのに無理矢理犯してご奉仕させてるじゃん」
「………」
「何か反論は?」
「………」
少しの間が空き……
俺は額を机の上におろした。
「そのとおりでございます。御主人様」
「誰がお前の御主人様だ!」
「まぁ冗談は置いといて、この優勝景品のクラスの鍵って何なんだろな。菫さんに聞いてもよくわからなくて」
「なんて言われたんだ?」
今朝の記憶を頑張って蘇らせる。
「確か……乙女のための決戦場の提供…だったかな?」
「ほぉーなるほどな。俺の予想通りか」
小さな声だったから全然聞き取れなかった。
「え?なんか言ったか?」
「いや、別に、何でもない。それよりお前はコンテスト出ないのか?」
「あぁ。めんどくさいし、そもそも予選で落ちたりしたら悲しいしな」
いつも思っていた。こういう系に出る人って勇気あるよなって。
「お前ならある程度までいけると思うけどな」
「お前も菫さんみたいなこと言うんだな」
「生徒会長もそんなことを?」
「あぁ、今朝言われた。だから菫さんが出た方がいい線いけると思うって言った」
「そしたら?」
「生徒会開催だから生徒会役員は出られないってさ」
「ふぅーん…でもまぁたしかに生徒会長が出ないのは良いかもな」
なんでだ?普通に盛り上がるだろ。
「出た方が盛り上がるくないか?」
「いやいや、生徒会長の独壇場になるだろ」
「あ……確かに」
菫さんは人気が高い。それもこの校内ではトップだろう。女子になりたい人No.1を聞いたら間違いなく菫さん。男子には…もう言うまでもないな。そんな菫さんが出たら間違いなく優勝はかっさらってしまうだろう。
『はーい、席ついてー!出席とるよー!』
その時担任の先生が入ってきてクラスのざわつきが一瞬にして消える。
そこからホームルームが始まり途中途中文化祭のことが話されたがあまりよく聞いてなかったから覚えていない。
ホームルームが終わり下校しても良い時間になる。
だが帰る人はほとんどいない。文化祭の準備で残っている。
ただ昼時ということもあり友達と食べに行く人達も少なくない。
かく言う俺もそのうちの1人だ。俺の場合は2人だけど。
相手はそう、緋音だ。
なぜこんなことになっているのかというと……
「お腹空いたなぁ…」
朝ごはんを食べてない俺は11時半頃にそう言った。
「確かにお腹空いたよね」
答えてくれたのは緋音だ。ていうか答えてくれる人が緋音以外にいなかった。
それは劇の練習で屋上へと続く階段の踊り場にいたからだ。
人が沢山いる教室だと少し恥ずかしいしなによりお互いの声が聞こえにくいから、ということでここに移動した。
「食べに行くのオッケーだし食べに行く?」
「そうだな…なんか食べに行こうか。緋音は弁当とか持ってきてないのか?」
「うん。今日は持ってきてないんだよ。雪人君は…まぁ持ってきてないよね」
「まぁってなんだよ」
「まぁはまぁだよ」
「ふーん…まぁいいけど」
……まぁって使い勝手いいよな。
というわけで二人でお出かけだ。
何を食べようか、そんなことを考えているのは隣の緋音も同じだろう。
歩きながらの会話は何を食べるか、とかどこらへんまで行くか、とかそんなことだった。
その頃教室では姫の衣装作りがちょうど峠に差し掛かっていた。
第9話です!!
ここ数日毎日投稿してましたが次からは少し空く…気がします!
少し忙しくなりそうなので…
それでも明後日くらいには(もしかしたら明日)投稿出来ると思うのでその時はよろしくお願いします!
内容の方は…まだ序章ですね。今回は新キャラが出てきただけでストーリー的には全くと言っていいほど進んでないです。
でもまぁ学園モノの重要人物、生徒会長が出てきたので許してください。←?
では今回はこのあたりで。
次回でまたお会いしましょう!