高校の二学期の有名テンプレイベントの序章
お祭りの夜、たこ焼きや焼きそばを食べた俺達(鶴海には琴湖が焼きそばをあげた)はベランダに出て花火を見る者、部屋の中で騒ぐ者、椅子に座ってくつろぐ者にわかれていた。
花火を見る者はベランダで、静かに。
皐月とクノアと琴湖だ。
部屋の中で騒ぐ者は部屋で、騒がしく。
悠斗と梨乃だ。
どうやら悠斗と梨乃は昨日あった恋愛ドラマの話でものすごく盛り上がってるらしかった。
椅子に座ってくつろぐ者はお茶で、落ち着いて。
鶴海だ。
縁日とかのイベントには親戚が屋台を出しているらしくてその手伝いをしてたら疲れた、だってさ。もちろんお金は出るらしい。
その中で俺はというと…
まぁもちろん鶴海の向かいに座ってお茶をすすっていた訳だけど…
いや、そもそも鶴海一人でくつろいでるとかちょっとかわいそうだろ!
まぁそんな理由で俺が椅子に座ってくつろいでるっていうわけではないんだけど…
まぁ普通に疲れたから、っていうシンプルな理由であって…
とりあえず花火が終わるまではずっとそんな感じだった。
そして花火が終わったら梨乃が
「私そろそろ帰るね」
と言って、それに連鎖して琴湖以外が一斉に帰った。
その後は琴湖と屋台を回って終わりだな。
とりわけ何かイベントが起きた訳ではないしただただヨーヨーをすくったりしただけだ。
楽しんでくれたようだから良かったよ。
と、起きてから歯を磨き終わるまでに昨日あったことを思い出す。
今日は少し早起きだ。それには理由があって…
夏休みがあと2日で終わる。二学期が始まるわけだ。ところで高校生の二学期というと何を想像するだろうか?
まぁだいたいの人は文化祭や体育祭とか、そういう行事を想像するんだと思うけど、間違ってないよ。
そう、今俺が着替えて家から出たのには学校に行くためだ。
どうやら文化祭の準備というものがあるらしい。
俺のクラスが何をするか、とか俺にどんな役割が当てられてる、とかは全く知らない。
そんな俺がどうしてこの準備に参加するのかというと…
昨日クラスメイトから一通のRINEが届いた。
内容は簡潔に言うとこうだ。
『二学期から奴隷になりたくないなら明日は来い』
もう少し具体的に言うと
『お前夏休み中文化祭の準備1日も来てないんだから最後の日くらい来い。もし来ないなら先生にあいつだけ準備してませんって言って二学期からの準備で奴隷みたいな扱いにしてやる』
そういう訳で今日は強制で出席だ。
とりあえずは3時までということだから昼ごはんは終わってから食べるか…
どこで食べよう。流石に家で作ってたら遅くなるからな…ラーメンでも食べに行くか…
そんなことを考えていた矢先に
「あ、雪人君おはよー」
この天使みたいな声は…
振り返って挨拶を返す。
「おはよう鶴海、通学の時に会うなんて珍しいな」
「そんなことないよ?」
「えっ?」
普通に驚いた。
なんたって通学の時に会うのはこれが初めてなんだぞ?珍しいだろ!
「やっぱ気づいてなかったよね。一学期の間、ちょくちょく見かけてたよ」
相変わらずの天使みたいな声で発生される言葉はすぅーっと耳に入ってくる。
もうこいつ声優でも目指せばいいのに。
俺こいつがエロゲの声優してたら…あーだめだめ、クラスメイトの喘ぎ声なんて聞きたくない。
「そうなのか、声かけてくれればよかったのに」
「いやいや、私達こうやって話すようになったの海からだし、それは無理でしょ」
確かにそうだな…
「あー、そう言えばそうだったな」
「ねぇ雪人君、ひとついい?」
いつも通りのトーンでいつも通りの口調で話しかけてくる。
いつも通りじゃないのは首を少し傾けていることくらいか。
「何?」
「5月ちゃんとか梨乃とかは名前なのになんで私だけ上の名前なの?」
「あー…なんか鶴海って呼びやすいんだよな。なんか不満だったか?」
「いや、不満とかはないんだけどさ…なんか私だけ仲間はずれにされてる…って感じがしなくもないんだよね」
なんだこいつ可愛いこと言うじゃん。
声だけじゃなくてこういうところも良いな。
「なるほど…なら緋音って呼べばいいか?俺は緋音でもいいけど」
「そうしてくれたらちょっと嬉しいかな…ちょっと恥ずかしいけど」
少し顔を赤らめる緋音。
なんだこいつ。可愛いな。なんでこんなに可愛いのに存在感ないんだ?
「じゃあ今度からは緋音で。でもまだ慣れてなくて鶴海って呼ぶこともあるかもしれないぞ」
「それはいいよ別に。いきなり呼び方変えるのってけっこう難しいもんね」
「ところでさ…」
「ん?」
今まで俺の中で渦巻いていた疑問を解決すべくために今度はこちらから会話を作る。
「いつきちゃんって誰?」
「あ、ごめんごめん。皐月ちゃんのことだよ」
え?いや、月は合ってるけど『い』はどっから出てきたんだ?
「どうなったらそんな名前になるんだ?」
気になることは聞くのが一番。聞いてみる。
「んーとね、皐月って5月のことじゃん?で、最初は5月ちゃんって呼ぼうとしてたんだけどさ、なんかダサいかなぁ…と思って。そしたら5って5つの時とか『いつ』って読むってことを閃いてさ。だからいつきちゃんってなった」
「はいはいはい、なるほどなるほど。うん。めんどくさいな」
心から思ったことが思わず口に出てしまった。
いや、思わずではないな。普通に言ったな。
「でもまぁいいあだ名でしょ?」
「まぁ……多分。それより皐月といつの間にそんな仲良くなったんだ?」
海の時とかあんまりだったような気がしたんだけどな…
「あー…まぁいろいろとね」
「ふーん。まぁいっか」
そんな会話をしてる間に学校に到着する。
昇降口で靴を履き替え廊下を歩き自分の教室へと入る。
そこで鶴う…緋音とは『じゃあ』という挨拶だけして自分の席へと座る。
それにしても今朝の緋音はなかなか可愛かったな……あれ、なんであんなに影薄いんだ?
普通あれだけ普通に可愛くてなおかつ声が天使でそれなのに名前がかっこよかったら話題になってもおかしくないだろ…うーん…
気になる!!!
『そろそろ役割決めるから静かにしてー』
ザワザワしていた教室がシンと静まり返る。
なんで影が薄いんだ…?
『えぇーと、まだ決まってないのが王子と姫なんだけど…やっぱりやりたい人いない?』
そこに挙がる手はない。
『仕方ないね、誰か推薦とかはある?なかったらくじ引きになりそうなんだけど…』
教室内がザワザワする。
『あんたやったら?』『無理だよー』『あいつやればいいのに』『それ思ってた』
ところどころ言葉が聞き取れる。
なんであんなに影薄いんだよ…全くわからん…
「はいはーい、王子に雪人を推薦する!」
この発言をしたのは悠斗だ。
『九条君か…他に誰か推薦したい人いるって人は手挙げてー……』
『まぁ九条君ならね』『九条君の王子見れるんだ!楽しみ』『私は紺野君の方が見たいかな…』
『いないね……じゃあ九条君、やってもらえるかな?』
「あー、うん」
影が薄くなる理由………わからん…
『ありがと、それじゃ王子は九条君ってことで!あとは姫なんだけど…いないならくじ引きだけどやっぱりいない?』
影が薄くなるには…発言しないことか?あいつの声で周りが気にかけないわけがない!つまりあいつ他の人と全然話してないんじゃ?
そのまま視線を右の方へと送る。
………思いっきり喋ってるじゃねーか!!!
まじで理由がわからん…なんでだ?
『意見ないことだし、姫はくじ引きってことで』
『えー』『もしかして当たったら九条君と手つなげたりするんじゃ?』『なんかそれ嬉しいけど舞台の姫っていうの恥ずかしいし微妙だね』
雪人はこの会話聞いてないのか?聞いてたらもう少し周りに対する態度変わると思うんだが…
そう思い悠斗は一番左列の一番後ろの席の人物に目をやる。
…………あ、あれは周りのこと全然聞こえてないな。
もしかして王子になったのも気づいてなさそうだな…まぁもう決まったことだし、変えることはできないけどな!俺のせいだとしてもそんなこと知らないし!
『えぇーと、くじ引きの結果姫は鶴海さんに決まりました』
『緋音頑張れ!』『緋音ずるいなー』
「私が当たるなんて…まあそれなりに頑張るよ」
『それじゃ後は各自の仕事に戻ってください!文化祭はあと2週間なので一度どれほど進んでるかだけ聞きたいので各班のリーダーは残って下さい!』
『じゃあやろっか』『九条君と緋音に合わせて衣装作らないとね』『買い出し行くけど買ってきて欲しい物とかあるなら言ってくれ』
あぁ…気になる。なんで影が…
「おい雪人!」
「うわぁっ」
いきなり机を叩かれて我に返る。
叩いたのはもちろん悠斗だ。
「今日すごいぼーっとしてるけど大丈夫か?」
「あぁ、ちょっと考え事しててな。で、何のようだ?」
「これ」
そう言いながら悠斗は紙束を机の上に置く。
「…なにこれ?」
置かれたものにはなんの覚えもない。
「文化祭でやる劇の台本だよ」
「へぇー…俺らのクラスは劇やるのか、で、なんで俺にこれ渡すんだ?」
「クラス全員に配ってるよ!お前は今日が初めてだからもらってなかっただろうけどな」
ちょっと怒ってる?
「お前もしかしてクラスの集まり全部来てたのか?」
「当たり前だろ。これでも一応学級委員補佐なんだから」
そういえばこいつそんなやつやってたな。
俺は一番楽で有名な保健委員だからほとんど仕事とかないけど。
「そんなことよりこれ、覚えろよ」
「え?なんで俺が」
何言ってんだ?俺は覚える必要ないだろ。なんで出もしない舞台の台詞を覚えないといけないんだ。こいつ馬鹿じゃないのか?
「やっぱりか…そんなことだろうと思ったけど…」
どんなことだよ。気になるだろ!
「いいか、お前はこの劇の王子役だ!だから台詞は覚えないとダメだからな!」
「は?」
このあとすぐに気付くことになる。
馬鹿は俺だったんだと…
一度目線を紙束へと下ろす。
そこには
『1人姫の物語 王子用』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
今回は投稿ペース早くなりました!
書いてたらスラスラと書けたので!
『いつきちゃん』のところでまた新キャラ登場かよ…みたいに思われた方、残念です。新キャラじゃありません。
ところで高校の二学期のイベントといえばやっぱり代表的なのは文化祭ですよね。夏休みからコツコツと準備をして…
今回からはその文化祭が舞台となります!
読者の方は『今回はヒロインが緋音ちゃんか』となるかもですがそんな簡単にその話のヒロインが分かったら面白くないですし…
言いたいことはわかりますよね。
では次を楽しみにしてください!
ここまで読んでくださった方ありがとうございます!これからもぜひよろしくお願いします!
あ、それから、評価とブックマークが増えていたの、やばいです。テンションあがりまくりでした!ありがとうございました!!
ではまた次の話でお会いしましょう!