真夏の夜の悪夢と真夏の朝の輝夢からの悪夢
遅くなった割には短いです…
「いやぁ、なかなかいい温泉だったな」
「だな、雪人結構長くつかってたな」
「あぁ、思ったよりも気持ちよくてな」
これは心からの本心だ。本当に気持ち良かった。
「あいつらもう部屋にいるかな?」
「さすがにいるだろ。俺が長く入りすぎたからな。」
「だったらできるだけはやく部屋に戻ろう」
ん?どうしてだ?なぜ悠斗は慌てているんだ?せっかく温泉に入って心も体もリフレッシュしたところなのに。
「あいつら、お菓子食べてるよな、多分」
「そりゃそうだろ。お風呂行く前に帰ってきたら食べていいって言ったのはお前じゃないか」
こいつは1時間ほど前に自分が言ったことを忘れるのか?勉強できるだけの馬鹿なんじゃないのかこいつは。
「大丈夫だったらいいけど…」
「遅くなったな、すまん」
「あぁ〜雪人だぁ〜」
ん?皐月の声だったよな?
「あは、あはははは…」
なんだ?不気味な笑いをあげながらこっちへ来る。怖すぎるぞ。
「遅かったか…」
「なっ…貴様悠斗、どういうことだこれは!何をした!?」
「いや、お菓子の中にウイスキーボンボンが確かあったはずなんだ。おそらくそれ…」
「あほかお前は!そんなアニメみたいな展開はアニメの中だけでいいんだよ!!」
久々に叫んだな。酒だけに。お、今の上手い。もしかしたら俺はこういうのに才能があるかもしれないな。はは、ははははは。…………現実を見よう。皐月は酔っている。他の女子もおそらく酔って…
「皐月ちゃ〜ん。私も雪人くんと遊びたいぃ」
梨乃もアウト。…いや待て、琴湖はチョコが嫌いだったはず…酔ってないんじゃないか?
「お兄ちゃ〜ん、助けてぇぇぇぇ」
視界に飛び込んできたのは想像を絶する光景だった。琴湖が布団の上に寝かされ、いや、倒され、その上にクノアが乗っているのだ。しかも服がはだけている。これはダメなやつだ。ここで俺には2つの選択肢がある。琴湖を助けるか逃げるか、だ。もちろん逃げる時には戦犯の悠斗を投げ捨ててやる。どうする俺…
「お兄ちゃぁぁぁん」
「琴湖、今助けてやる!」
何を考えていたんだ俺は。妹のピンチを兄が助けなくて誰が助ける!
そう言ってクノアを引き剥がそうとはするが…なんだ、全然離れないじゃないか!どうなってるんだ?
「雪人ぉぉ、あたしとあ〜そ〜ぼ〜」
「ダメだよ皐月ちゃん。雪人君と遊ぶのは私だよぉ」
まるでバイ〇ハザードのゾンビみたいに近づいてくる。
「おい悠斗、少しの間だけそいつらを止めてくれ!」
助けを酔っていない悠斗に求める。
「悠斗…?」
そこでようやく悠斗が倒れているのを発見する。
「悠斗ぉぉぉぉぉ、誰にやられたんだ」
「雪人さっきからうるさーいー」
ついに皐月に捕まってしまう。すまない琴湖。お前を助けられそうに…ない…。
「さぁ、邪魔者も消えたことですし始めましょう琴湖さん。思い出作りですわっ!」
そう言ってクノアが琴湖の服を脱がせ始めたところまでは見えた。だがそのことを心配する余裕はなかった…自分のことで精一杯だった。
「ねぇ雪人ぉ、あたしのこと好き?ねぇ、好き?」
「皐月ちゃんずる〜い。ねぇ雪人く〜ん私のことの方が好きだよねぇ」
何を言ってるんだこいつら。
「ちょっと梨乃ぉ、今は私の質問の方が先なの〜ねぇ雪人」
「とりあえず落ち着けお前ら!俺の上からどけろ!」
騎乗位の体勢を取っている皐月は本当に危ない。あるところがあるところに触れていて服…今は旅館の浴衣だが、がなかったら完全に新しい生が芽生えているところだった。既に皐月も梨乃もだいぶアウトな服装になっている。顔の上にも梨乃の2つのふくよかなものがほぼ服なしで存在している。このままだと俺の貞操が危ない…いや、今ですらもう危ないけども。仕方ない、少しつらいかも知れないけど我慢しろよ、皐月、梨乃!
「うおおおおおおおお!!」
大きな声をあげてまず皐月を振りほどく。そのまま皐月の首を手刀で軽く叩く。布団に倒れ込む皐月。昔習っていた護身術がこんなところで役に立つとはな…教えてくれたのが親でそれも強制的だったけどな…
「よし。皐月はもう大丈夫だ。次は梨乃だ…」
「あれぇ、皐月ちゃん寝ちゃったぁ?それじゃぁ雪人くん、2人であ〜そ〜ぼ〜」
またまたバ〇オハザードのゾンビみたいに近づいてくる。
「梨乃も、ごめん…」
皐月にしたのと同様のことを梨乃にも行い梨乃も布団に倒れる。
「ふぅ…」
とりあえず落ち着いた。さて、こいつらどうする…
「お兄ちゃぁぁぁぁん」
既に涙している妹からの叫び声が俺の耳に入る。
「琴湖ぉぉぉ!!今助けてや…」
俺が助けに行こうとした時だった。転がっていた死体に足を取られ体が前かがみに…そしてこっちを向いていないクノアの頭が近づいてきて…ついには…
『ゴツンッ』…ゴツンッ
2コンボだった。俺の頭とクノアの頭がぶつかり、そしてクノアの頭と琴湖の頭がぶつかったのだ……あれ、大事なところが何か頭みたいなところに当たっているような…
「ん…っ」
どうやら気絶していたようだ………ぁぁぁぁ?右手が何か柔らかなものに触れている。……とりあえず一揉み。
「……何をやってるんだ俺は!!」すぐに手を離そうとする。
梨乃の胸を揉む機会なんてこの先あるのだろうか…?そのような言葉が俺の頭をよぎる。
……これは…不可抗力だっ…!!
もう一揉み。
少し梨乃の体がビクンッとした気がしたがまだ寝ているようだ…気のせいだったらしい。
こんなところを他の誰かにでも見られたら俺の人生はおしまいだ。寝ている人達を見る。1、2……4。よし、全員寝ているな……ん?4人?いや、違う。琴湖が来ることになったから5人のはず……誰がいないっ!?その時後ろからただならぬ殺気が体へと覆いかぶさってくる。恐る恐る振り向…く暇はなかった。どうやら踵が振りかかってきたようだった。そのまま俺は死亡した。
ガサガサと布団が動く。
「あら梨乃、おはよ」
「あ、おはよう皐月ちゃん」
「早く顔洗ってきなさい」
「うん。そうするよ」
そう答える梨乃の顔が赤かったことに皐月は気付かなかった。
「海だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なぁ雪人、女の子達、どんな水着来てくるかな?俺、起きてからそれが楽しみすぎてやばいぜ!!」
なんだこいつは…気持ち悪いな。…おっと、友達の悪口はそこまでだ。
「普通のだろ。しかし遅いな…」
ふと考える。どうして女子は着替えが遅いんだ?脱ぐ作業も俺達より1つだけ胸を覆うものが多いだけ…着るのも1つ多いだけ…それほどあの小さな布地は着るのに手間取るものなのか?
「そりゃあ女子なんだから仕方ないだろ」
「…あぁ、そうだな」
どこか釈然としない態度で答える。
「ごめん、待った?」
「いや、今来たところだよ」
皐月の問いかけに悠斗が答える。
なぜ今来たところだ、などと答えるのだろうか。俺なら正直に待ったと言うぞ。これがモテる男とモテない男との違いなのか…つまり俺もそう言うとモテるのだろうか…
そう思いながらモテる悠斗のことをジロジロと見る。悠斗はモテる。顔もかっこいいし性格もいい。ただ彼女はいない。その理由なら分かっている。あいつは本当にメイド、妹、ロシア人以外に興味が無いのだ。もったいない。本当、もったいない。
そのような考えを巡らしていたところに…
「お待たせ、雪人君」
「おぉ、梨乃か」
「その、どうかな?」
ん?何がだ?……あ、水着か!
「あぁ、よく似合ってる、かわいいよ」
「か、かわいいっ…!?そ、そんな…」
なんだ今の俺。やけにリア充男みたいな発言だったじゃないか。いや、だが本当にかわいいのだ。背は小さいが出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。その体に覆いかぶさっている白をベースとしてところどころに水玉が描かれたビキニ。すこしフリフリしているのが付いていて…紛れもなくかわいい。よく似合っている。
モジモジしている梨乃の後ろからクノアと琴湖が歩いてくる。ずいぶんと仲良さげだがクノアは覚えてないとして、琴湖は昨日の事を許したのだろうか…あれを許すとか相当心がもはや地球規模では表せないくらいの大きさかもしくは…琴湖も!満更ではなかった!??
「お待ちになりまして?」
「いや…今来たばっかだよ」
おぉ、俺も言えるじゃないか。これで俺もモテる男に昇格だな。いや、今はそんなことはどうでもいい。
「ところで琴湖、昨日のこと覚えてないのか?」
「…っ!!」
「昨日のこと?」
なんだ?覚えていないのか?琴湖は酔ってなかったはずだぞ…?
「あ、そういえば昨日のお風呂上がってからの記憶がないんだよねぇ…なんかあった?」
「いや…なんでもない」
それほどまでのトラウマだったのか…!?
「ふ〜ん。変なお兄ちゃん」
そう言うと喋っていた皐月と悠斗のところへと駆け寄って行った。ふぅ…
「ところでさクノア」
クノアの体がびくりと反応する。
「ど、どうかされまして?」
「もしかしてクノアさ、昨日のこと覚えてないか?」
そう。さっき俺が皐月に昨日のことを聞いた時、クノアの体が反応したことを見逃さなかった。
「なっ、なんのことですか?」
「お前、覚えてるだろ!皐月と梨乃は完全に覚えていなさそうだった!今日の朝に少しそれとなく聞いてみたが2人とも何も反応もしなかった!けれどお前は少し反応した…それだけでも十分怪しい…」
「で、ですから私は酔っていて何も覚えていないんです!」
「へぇ、酔ったのは覚えているんだ。皐月と梨乃は覚えていなかったのに?」
「そ、それは…そう、部屋にウイスキーボンボンのゴミが残されてありましたもの!」
「部屋にゴミ?いつ見たんだ?」
「…今朝ですわ。7時くらいに起きたときに…」
「それは嘘だ。あのゴミは皐月が片付けたんだからな!朝の6時から6時半の間にな!」
そう…俺がおそらく踵落としをくらったのがだいたい6時。その時はまだ部屋にゴミは散らかっていた。その後気が付いたのが6時半。その時には既に皐月が片付けてくれてた。部屋にゴミが多くなったからってフロントまで行って捨てに行ってくれたらしい…俺の顔を見た時にものすごく赤くなってたけどあれはなんだったんだろう…
「なっ…」
「皐月に聞いたらすべてわかることだぞ!」
「で、ですが…」
「まだ何かあるのか?」
「いえ…何も…」
とうとう観念したようだな。
「どうしてだ?」
こんなこと聞いていいのかと思いながらも聞かずにはいられないことっていうのがあるだろ?これがそれだ。俺は聞かなくてはいけない。妹のために。俺のために。そして…クノアのために。
「…一目惚れ…ですわ」
「………………は?」
「ですから、一目惚れ、ですわ」
「ちょっと待て、ちょっと待ってくれ」
これってもしかしてクノアがそういう趣味だったっていう………………
「……まじ?」
「はい…」
「…………」
「…………」
「……………」
「……あの、雪人さん?」
二次にはたくさんいるよ?百合とか甘いよ?余裕よ?でも、現実にもいるんだ…こういう人って……
「…あ、あぁすまない。いや、なんでもない。昨日のことは琴湖には黙っておくことにするよ」
これは、琴湖のため、そして…クノアのため。
「ありがとうございます…雪人さん。私、あなたの妹さんに…」
クノアなりの申し訳なさそうな顔が視界に入る。
「琴湖も、知らない方がいいかもしれないからな…」
「そう…ですわね」
そう言ってクノアも悠斗たちの方へと向かっていく。
そこにただ1人だけ棒立ちになっている俺という存在を置いて…
どうして、かも、と付けたかには少し理由があるわけで…それは昨日の電車の中での話なわけで。
「ねぇ、お兄ちゃん」
そう耳元で囁きかけてくるのは琴湖だ。まぁお兄ちゃんと言っている時点で他のメンバーなら大惨事だが…
「どうした?」
「女の人に抱かれるって、結構落ち着くね」
「なっ、おまえ…そっち系な」
「違うよお兄ちゃん!もう……私ってさ、お母さんに抱かれたの覚えてないんだ。だからさ、女の人に抱きつかれるのって新鮮な経験だったわけ」
「まぁ両親共働きだし、小さい頃は俺とずっと遊んでただけだったもんな…」
「まぁそれがあったからおに…ゃんの…がす…んだけどね」
「ん?なんか言ったか?」
「…っ!なんでもないよ!とにかく、だからクノアさんに抱きつかれた時、新鮮な気持ちになったというか…幸せだったというか…」
「なるほどな…まぁ仕方ないよな…母さんが悪いんだから」
ここでさりげなく母親をディスってるのは琴湖が旅行に来るのを簡単に許したからとかそんなんじゃないんだからな?
そんなことを思い出しつつもとにかく海に来たんだし遊ばなければもったいないと、そんな気分に切り替えてとうとう俺も重たかった足を前へと出して悠斗の方へと進んでいく。
重いってのは心情だからな?気持ちだからな?体重じゃないからな?
次も少し間が空くかと思いますが、その時もぜひ。