文化祭三日目その2
「ちょっと待て、緋音。どこら辺から聞いてた?」
恐る恐る聞いてみる。これは俺の今後に関わることだ。
事の次第によれば俺は引きこもりへと変化するかもしれない。
「クラーケンに襲われーみたいなところからだけど」
はい終わり。緋音の俺への好感度が多分0に近づいた。
「あ、うん。そこからか…」
「なんか落ち込んでるみたいだけど何かあったの?」
「落ち込むよ!クラスの女子、しかも比較的仲のいい女子にあんな会話聞かれたらそりゃ落ち込むわ!」
落ち込むよな?というか落ち込むレベルじゃ済まない場合すらあり得るよな?
力強くみっともない雪人の言葉を聞いた緋音は
「前も言ったと思うけど私は別に雪人君の趣味が少し一般人の考えから離れた18禁でも否定するつもりは無いし別にそれが悪いことだとも思わないよ。しかも今日に限っては緊張してた私を解してくれたんだし」
緋音っていいお嫁さんになれると思うんだ。
思ったがこの場で言うのは違う気がしてやめる。
「…聞かれたのが緋音で本当に良かったよ。他の人だったら終わってた」
近くにクノアがいたけどそれは言わないでおいてあげようかな。今ここで雪人君のメンタルが壊れたら駄目だし。
「それより雪人君。後夜祭って来る?」
雪人にとって高校生活を左右するかもしれなかった会話よりも後夜祭に来るかどうかの方が気になられるのかと思うと1人で舞い上がっていたのが恥ずかしくなる。
「んー、多分いるかな。どうせ悠斗が行こうって言ってくるだろうし。でもそれがどうかした?」
「いや、別にー」
「なんだよ、なんか気になるな」
「何もないよ本当に。聞いてみただけ。それよりちょっとだけ練習しない?やっぱり少し緊張してきちゃった」
「それじゃ練習するか」
『何もないよ本当に』がアニメのヒロインが告白を躊躇って誤魔化す時の声にすごく似ていてドキッとしてしまった雪人は鼓動を気にしながら返事を返した。
「また緊張してきた…」
緋音が小さく呟く。雪人の劇があと少しで始まるところだった。
「大丈夫か?」
「う、うん」
「顔青いけど本当に大丈夫か?」
そう言うと緋音は少し俯いた後
「ねぇ雪人君。劇が上手くいったら1つだけお願い聞いてくれない?」
舞台裏で小さく話される会話は今進行中の劇により他の人には聞こえていない。
「え、いいけど…何?」
「…内緒」
何それかわいい。そういえば最近したギャルゲーに同じようなシチュあったな。これは…告白の流れか!緋音に限ってそれはないな。なんだろ…。
「じゃあとりあえず頑張るか」
「うん」
少しの後、雪人達1年3組の劇が始まった——
「お疲れ様九条君!すっっごく良かったよ!」
知佳はすごく興奮した様子で雪人に話しかけている。
「お疲れさん。なかなか良かったぞ」
そこに悠斗も加わり3人になる。
「ありがとな。台詞を忘れた時はどうしようかと思った」
「俺が舞台前にいて良かっただろ?」
「あぁ。あれはまじで助かった」
雪人が台詞を忘れた時、悠斗が用意していたテロップを見せていた。
「へぇ…そんなことがあったんだ」
「俺の位置をわかったのは多分雪人だけだし仕方ないと思うぜ」
「そんなにわかりにくいところにいたの?」
「そうだな——」
悠斗と知佳が話しているのを軽く流しながら少し離れたところで同じクラスの女子に集われている緋音の方を見る。
周りの女子は嬉しそうにはしゃいでいるが何を言ってるかは聞き取れない。
緋音は笑顔で何かを言っているが同じく雪人には聞こえない。
所々で女子特有の『キャー!』とかいう黄色い声が上がっているが中にいる緋音だけはその時は少し恥ずかしそうだった。
「雪人、着替えたらどうだ?」
横から悠斗が言って
「そうだな、そうする」
答えると劇終了組待機室に設定された教室から出て多目的室に戻る。
途中で数回女子——おそらく他校の——に写真を一緒に撮って欲しいと頼まれその度笑顔を作った。
「疲れたー」
着替え終わった雪人が多目的室にまだ敷かれている布団で1人寝転んでいるとドアが開いた。
「雪人君、お疲れ様」
緋音が多目的室へと入ってくる。
「緋音もお疲れ。どうしたんだ?こんなところに」
多目的室は男子の寝部屋で女子が入って来るのは劇が終わった今では至って珍しい。
「特に用事はないんだけど…」
そう言いながら雪人が寝転んでいる横に座る。
「そっか」
少しの間静かな時間が流れる。
その時間はいつも緋音といる時よりもさらに落ち着きのあるものだった。
「雪人君はさ」
閉じていた目を開けて言う。
「彼女欲しいとか思わないの?」
「いきなりだな」
女子ってこんなに急に恋話しだすものなのか?女子ってそういう話好きって言うしそうなのかもな。
「そだね。ちょっと気になって」
「うーん…欲しいと思う人は思うと思うけど俺はそこまでかな」
俺には葵がいるしな。恥ずかしがり屋で画面から出てこないけど。
「つまり俺と付き合いたいなら振り向かせてみろってこと?」
「緋音…それだと俺がすごく上から目線ってことになるからその言い方はちょっと。でもあながち間違ってもないな」
これって俺が緋音にそういう態度のやつって思われてるってことじゃないよな?俺そんなに上から目線な態度してないよな?…あっ、悠斗に対しては知らん。
「あ、ごめん。なるほど、雪人君のことを好きになった人は大変そうだね」
緋音は苦笑いしていた。
「俺のことを好きになる人なんてそうそういないから大丈夫だろ。高校でできた女友達緋音とクノアと藤宮と生徒会長だけだぞ?」
緋音はため息をつくと
「その中にも好きになる人くらいいるかもしれないよ?もっと自分に自信持ったらいいのに。雪人君って女子からの人気高いんだよ?」
女子からの人気ってことは男子からは?そこ気になるんだけど。女子の緋音が知ってるわけないか。
「…そ、そういえば頼み事って何だ?劇終わったけど」
緋音に直球に言われ恥ずかしくなり話題を変える。
「雪人君は馬鹿だなぁ」
「えっ、何か言った?」
「うんうん、言ってないよ。頼み事ね…うん。明日の後夜祭の時、予定空けといてくれない?」
別に後夜祭で何かしたいとか思わないし別にいいけど…。
「構わないけど何か用事か?」
「それはRINEで教えるかな。よいしょっと」
緋音はゆっくりと立ち上がった。
「そういえば琴湖ちゃんが探してたっぽいよ」
それだけ言うと緋音は部屋から出ていった。
「琴湖が?探しに行くか」
王子の服から制服に着替え部屋から出るとそこには悠斗がいた。
「おっ、いたいた。琴湖ちゃんが昇降口で待ってるから早く行ってやれ」
「連れてきてくれればいいのに」
「もしここにお前以外の男子がいて、そいつが着替え中だったらどうするんだよ。琴湖ちゃんに他の男の裸を見せてお前は何も思わないのか?」
「そ、そうだな」
何故悠斗がそこまで気を回すのかはわからないけれど確かにそうだ。琴湖に他の男の裸なんて見せられるわけがない。見せた奴全員あの世に送ってやる。
「じゃあ早く行ってやれよ」
そう言って雪人と入れ替わるように部屋に入っていく。
悠斗に言われた通りに昇降口に行くとそこには女子の小さな人だかりができていた。
何なんだあれ。こんなところで何してるんだ?というかあの女子同じクラスじゃないか?
軽い興味で近付くと中に見覚えがありすぎる顔が見えた。
「琴湖?」
中にいた琴湖はその声を聞き即座に中から出てきた。
「どうしたんだ?なんか人集めてたみたいだけど」
「それが学校に来る途中で梨乃ちゃんのお母さんに会って、服を着替えさせられたんだけどそれが今すごく人気のほとんど手に入らないような服で…」
なるほど…それは大変だったな。
「そっか。お疲れ様」
頭をポンとしてやると嬉しそうに笑う。
かわいい。かわいいかわいい。
『ええと…九条、その子は?』
ああそっか、琴湖のこと知ってるわけないか。誤解されるのは癪…癪ではないけどめんどくさいからちゃんと言っとくか。
「こいつは琴湖。俺と半同棲みたいなことしている」
『ええええ!?』
「お兄ちゃん!?それ多分誤解を招いちゃうよ!?」
「えっ!?」
「というかもう招いちゃってるよ!」
『半同棲ってそれつまりあれでしょ?』
『そうそうあれだよね』
『ありゃ…これは知佳に勝ち目なしか?』
何を言ってるかは聞き取れないけど確かに誤解されてそうだな。どうしてだ…俺の完璧な説明をわからないとかもしかして頭悪いんじゃないのか?
「頭悪いのはお前だぞ雪人」
後ろから頭を軽く叩かれる。
『あっ紺野』
「さっきのは誤解だ。こいつの説明が悪かった。琴湖ちゃんは雪人の妹だ。こいつが一人暮らしでその家に琴湖ちゃんがよく行くから半同棲とか言ったんだろな。半同棲でも何でもないぞ本来」
『なんだそうなんだ』
『九条ややこしすぎ』
『さすがにあの説明は馬鹿だね』
悠斗の言葉で誤解が解けてるから多分そうなんだけど俺がおかしかったのか…。納得しかねるなぁ。
「そうだよお兄ちゃん!もっとちゃんと言ってくれないと!」
俺が悪かったんだな。反省反省っと。
「悪い。今度からは半同棲じゃなくてちゃんと血のつながった妹って言うことにする。それにしても琴湖、俺を探してたんだって?どうした?」
頭を撫でながら聞くと
「うん。一緒に残りの文化祭回りたいなって思って」
「そういうことか。じゃあ回るか」
「うん!」
その後琴湖と一緒に文化祭を回り、度々投げかけられる『どういう関係?』を主に琴湖がうまく対処しながら楽しんだ。琴湖は皐月のメイド姿と梨乃のお嬢様服が見れて更に満足そうだった。
「じゃあお兄ちゃん、私は帰るね」
「おう、気をつけて帰れよー。知らない人にはついて行くなよ」
「もう、わかってるよそれくらい!今日夜いらないみたいだし今日じゃなくて明日家に行くね!」
「りょうかーい。じゃあな」
琴湖が校門から出ていくのを見送ると自分のクラスに戻る。この後に打ち上げがありそれのために1回集まるのだという。
クラスに戻るとそこにはまだあまり人はいなかった。その中には1人で窓の外を見ている緋音がいた。
「緋音」
びくりと体が震えてからゆっくりこっちを向く。
「もう、びっくりしたよ」
振り向いた時に位置がずれ夕日の輝きが緋音の表情を隠す。
「なんかごめん」
「いいよ」
緋音の横に並んで窓際にもたれかかる。それに合わせて緋音の顔が少し下がる。
「終わったね」
緋音がぽつりと呟いた。
「そうだな。案外呆気なかったな」
少しの間静かな空気が流れる。夕日が差し込むせいか緋音の頬は紅潮しているように見えた。
「友達に聞いたけど私達の劇が1番だったらしいよ」
「なんだそれ」
「さぁね。私にはよくわからないかな」
また少しの間二人の間に静けさが満ちた。
「私ってさ、あんまり劇とかそういうので大役をすることってないんだ。自分から言うことなんてないしみんなからあんまり覚えてもらえるような人柄でもないし。今回やってみて思ったけどこういうのってやれる人ほんとにすごいね。台詞とか動きとか覚えるの結構いっぱいあって大変だし本番は緊張するしなんかもうすごいとしか言えないよ。」
緋音、台詞すぐに覚えてただろ。確かに緊張はしてたけど…。
「終わったあとの喪失感みたいなものも大きいし。達成感でも満たされないくらいの大きな喪失感が心をもやもやさせて変な気分だし。こういうのを何回もしようと思う人ってこういう気分にはならないのかな?」
淡々と言葉を紡ぐ緋音はいつもと違い少し力強かった。
「そういう人は喪失感より達成感の方が大きいんじゃないか?」
「そういうことなのかな?私ずれてるのかな?」
「そんなことはないと思うぞ。人それぞれだと思う。緋音は緋音の考え方があってそういう人はそういう人での考え方があるんだろ。かく言う俺も喪失感の方が大きいし」
「そうなの?あんまりそういう風には見えなかったけど」
まぁ確かに緋音は表面に表れていたな。俺は琴湖がいたからそういうことを考えずにいられたけど。
「まぁな。隠すのが上手いだけじゃないか?」
「琴湖ちゃんがいたからじゃないの?」
「何故バレた!?」
「雪人君の琴湖ちゃん溺愛ぶりを見るとね…ちょっと羨ましいよ」
えっ、今羨ましいって…。
「でもさすがにちょっとシスコンすぎない?」
「ぶふっ!ちょっと直球過ぎないか!?」
もうちょっと遠まわしにだな…。
「まぁそういうところもいいと思うけどね」
なんか認められたし!
「あ、そうそう。話変わるけどこの後の打ち上げどこに行くか知ってる?」
いきなり話題変わるじゃん。まぁそこまでしたい話じゃなかったからいいけど。
「知らないぞ。悠斗なら知ってると思うけど、聞いてみようか?」
あいつが知らなかったらクラスの誰も知らなさそうだな。
「んー…いや、別にいいよ。そこまでしてもらってまで知りたいことじゃないし」
『緋音ーこれ着て写真撮ろー』
「あーうん。今行くね…ってことで行ってくるね」
「おう」
呼ばれた方へと軽く駆け寄っていく緋音を見ながら少し考える。
俺ってそこまでシスコンか?
遅くなりましたすいません!
投稿ペースをあげるつもりだったのに全然変わらなくて…
もうペース上げるとか言わないでおこうと思います。願望ということにしときます!
そしていきなりですが願望を言わせてもらうと1週間に1、少なくとも2週間に1回は投稿したいと思います!
待ってくださる方、その時が来たらまたよろしくお願いします!
では!




