文化祭一日目その2
朝9時10分。全校生徒は講堂へと集まっていた。。
私立ということもあり全校生徒が入ってもまだ収容人数的には余裕がある。
さすがは私立だな。そんなことを思いながら舞台の上で理事長がよくわからない話をしている間時間をつぶす。
こういう話を真剣に聞いている人ってどれくらいいるんだろ…
そんなことを考え始めたと同時に理事長のありがたいお話が終わる。
そして理事長が舞台の上からいなくなると司会であろう女子生徒が
『それでは生徒会長、お願いします』
舞台の上へと一同の視線が集まる。
そこには既に生徒会長の姿があった。
「みなさん、おはようございます!
今日から待ちに待った文化祭が始まります!
みなさんが夏休みの間もこの四日間のために学校に来て準備してくださっていた文化祭です!
楽しくないわけがありません!
ですのでこの四日間、精一杯楽しみましょう!
短いですがこれで私の挨拶とさせていただきます」
盛大な拍手が起こる。
この拍手からも生徒会長の人気がわかる。
『ありがとうございました。では生徒会長、お願いします!』
「それでは今をもちまして、第27回不知火高校文化祭の開催を宣言します!みなさん、盛り上がっていきましょう!!」
『うおおおおおおおおおおおおお!!!!』
文化祭が開催されると周りは一気に熱気と喧騒に包まれる。
たいていの人はすぐに自分たちのクラスの準備へと向かう者、そのまま講堂に残って友達たちとバカ騒ぎする者、どこに行こうかと話している者へと分類される。
ただそれ以外の行動をする者もいる。
例えば…俺だ。
料理、何を作ろうか…
そんなことを考えている。
どこに行くでもなく、ただ立ったまま。
そして最終結論にたどり着いた。
「適当に作るか」
「何を適当に作るの?」
後ろから声をかけられたが声で誰かわかる。
振り返って
「おはよう緋音。料理コンテストだよ」
「おはよ雪人君。あー、あったねそんなの」
「あったねって…男女混合じゃなかったらお前が出てたはずのやつだぞ」
「いやー、ほんと男女混合でよかったよ」
「なんで?」
「まぁ、出たくなかったからね」
なんか意外だな。
緋音って自分からすすんで何かに出るってことはあんまりしないけど出たくないことはないと思ってたんだけどな。
「なんかあるのか?」
「あれ、皐月達から聞いてない?」
「ん?あ、料理苦手って本当だったのか」
「苦手…うん。得意じゃない、が正しいね」
「あれ嘘だと思ってた」
「そんな、私そんな嘘つきに見える?」
「見えないな」
話す口調、顔の表情はずっと一定なのに顔を傾けたりする。最近はこの単調な会話がけっこう好きだったりする。
「よかった。私は正直が取り柄なのに」
いや、お前の取り柄は声だろ!
そう言いたくなったが言わずにやめる。
「それより料理適当って…あれって作る料理決められてるんじゃなかったっけ?」
「去年までは四品全部決められてたんだけどな。今年は三品だけ決められて余った材料でもう一品なんだとさ」
「へぇー…それで雪人君がそれの担当になったと」
「そういうこと」
「それは大変だね。ますます出なくてよかったよ」
「でもまぁその時がきたら適当に作ることにした」
「そんな適当でいいの?」
「んー…まぁいいだろ」
「そっか。まぁ雪人君がいいならいいんだろね」
「それより雪人君、今日誰とまわるの?」
「いや、特に決めてないけど?どうせ悠斗は一人ではしゃぎまわってるだろうし」
「そーなんだ。なら料理コンテストまで一緒にまわろうよ」
「ああいいぞ。どこ行く?」
ここで
お前は誰かと一緒にまわらないのか?
なんてことは言ってはいけない。
傷つくかもしれないからな。
俺は昨日それでとある女の子のルートを失敗した。
くそっ…葵……
「とりあえず時間あんまりないしぶらついてみようよ。今日と明後日は一般の人も来てるし明日と最終日にまわれるようにしとこうよ」
「それじゃそうしとこうか」
「もうそろそろ時間だね」
時計を見て緋音が言う。
「はやいな。何もできてないのに」
「まぁまぁ、この混雑じゃ仕方ないよ」
そう言うと周りを見る。
人!人!人!
「これ明日になるとどうなるんだろ」
「これの1/3くらいになるらしいよ」
「随分減るんだな…」
「なんか、この高校って地域との関係がすごい濃いらしいよ。できてからあんまり経ってないのに」
どうでもいいと言わんばかりの単調な口調だ。
最近わかってきた。
緋音はほとんどずっと単調な口調だけど、その単調にも色々ある。
言葉で説明するのは難しいから言わないけどな。
「へぇー。じゃあとりあえず俺は体育館へ向かうよ」
「うん。いってらっしゃい。頑張ってね」
声だけ聞くといくらでも頑張れちゃいそうになる。
いや、声の主が緋音だから頑張れないとかじゃないからな?
緋音が単調な口調だからだぞ?
決して緋音がかわいくないとかそんなんじゃないからな?
「適当に頑張るよ」
体育館は既に熱気に包まれていた。
二つの意味で。
一つ目は文字通りだ。
料理コンテストの前に料理同好会がパフォーマンス的なことをやっていたらしくてその時の熱が篭ったままだった。
そして二つ目の意味は…まぁ言葉通りかな。
観客も料理同好会も燃え上がってたって感じだ。
物理的じゃなくて感情的にだからな?
そんな中を歩いて指定されていた場所へと足を運ぶ。
そこには既にチームの三人が集まっていた。
「あ、来た来た!」
「遅かったか?」
「うんうん、私達も今来たところだよ!」
「それより雪人、何作るか考えたの?」
「いや」
「考えてないの!?」
「うん。やっぱり残りの材料を見ないと何にも思いつかなくてな」
「それはそうかもだけど…」
「まぁ俺は大丈夫だから、三人とも自分のことに集中してくれ」
「雪人がそう言うなら…」
「それより…」
さっきからやけに静かな少女を見る。
どことなく顔色が悪いような…
そんな気がしなくもない。
「クノア…どうかしたのか?」
「い、いえ!なんともありませんわ!」
台詞とは裏腹に声が震えている。
「クノアちゃんね、緊張してるみたいなんだよ」
「緊張ね…まぁさすがにあれだけ人が多いと緊張するか」
「そりゃそうだよ!私だって緊張してるし!ねっ!皐月ちゃん」
そんなこと言ってる梨乃は全く緊張してないように見えるんだけど…
「私はしてないよ。人の前で何かするの慣れてるし」
「あーそっか。皐月ちゃんメイド喫茶でバイトしてるし、そういうの慣れてるのか…」
「そういう梨乃も、全然緊張してないように見えるんだけど?」
あ、皐月にもそう見えてたか。
良かった。俺だけじゃなかった。
「え?緊張してるよ?まぁクノアちゃん程じゃないけど」
「そ?それよりクノア、ほんとに大丈夫?」
「とりあえずクノアの出番は三番だからそれまでにもうちょっと落ち着いてもらうしかないな。最初のチーム紹介だけ頑張ってもらうしかないけど」
「いけますわ…私、もう大丈夫ですわ」
「無理するなよ」
「大丈夫ですわ。それよりそろそろ時間ですわ。行きましょう」
まだ震えている手は見なかったことにした。
ここでクノアの頑張りを無にするのは最低だと思ったから。
「よし、それじゃまぁ適当に頑張りますか」
「適当に、じゃなくて本気だよ!雪人君!」
「そうね。オムライスでは負けないからあんたたち負けたら何か奢ってよね」
「はいはい。本気で頑張りますよ」
「わ、私も、本気で、頑張りますわっ!」
早口になっているクノアに苦笑しながら開会式の始まりを待った。
『みんな、盛り上がってるかい!?』
『うおおおおおおおおおおお!!!!』
『料理は好きかい!?』
『うおおおおおおおおおおお!!!!』
『美味しい料理、食べたいかい!?』
『うおおおおおおおおおおお!!!!』
『不知火高校文化祭、料理コンテストの開幕だぁぁ!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
『とりあえず最初に司会&実況との挨拶をしとくぜ!司会は私、料理同好会部長こと、ナベブタだ!!本名じゃないからな!!』
『そして実況は私ナベブタと、新聞部のルーキーエース、狭間の盗撮者こと、柄粋紅莉栖だ!!!』
『いえええええええい!!料理実況、もりあげていくぞぉぉぉ!!』
『うおおおおおおおおおおお!!!!』
『それではルールを説明を始めます!料理コンテストは一チーム四人のチーム戦で行われます。四人には予め決められた料理を作ってもらいます!観客の皆様には一点、生徒会の皆様には五点が最初から与えられております。観客の皆様には参加者の料理の手際、完成品の見た目などでどのチームかに投票してもらいます。生徒会の皆様には完成品を試食してもらいそれも含めて五点をどのチームに配点するかを決めてから投票してもらいます。優勝は一番点数を獲得したチームになります。そして優勝賞品は…なんと……何もありません!!!』
『えええええ!?』
『まぁ強いて言うなら名誉、くらいですかね!』
観客がざわつく。
『それでは一回戦、料理はオムライス、始めたいと思いますので参加者の方は準備をお願いします!!』
「それじゃ皐月、頑張れよ!」
「皐月ちゃん、頑張ってね!」
「さ、皐月さん!が、頑張ってください!」
「任せて。クノアは少し休んどきなよ?」
「は、はい。私の出番までには…」
「それじゃ行ってくるね」
そうして料理コンテストがついに始まった。
12話です!
投稿は2日か3日に1回のペースになると思います!
少し遅いですがこれからもよろしくお願いします!
では!