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その他短編

届くことのないメール

作者: seia

診断メーカー【お題ひねり出してみた】http://shindanmaker.com/392860から『届くことのないメール】というお題をいただいたので即興で。


※内容的に、ちょっと重い部分もあります。すいません※

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

結婚おめでとう。

風の噂で秋ごろに結婚するって聞いたよ。

ちゃんと彼女さんを幸せにするんだよ( ´ ▽ ` )ノ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



……。

なにやってるんだろう。元カレが結婚するからなんか羨ましいのかな。

別れてからずっと連絡取ってないのに急に送るのも変だよね。

……。やっぱりこんなメール送るのはやめておこう。それにこの五年で向こうのアドレスだって変わってるだろうし。



ブッブッブッブッ


未送信メールを削除してベッド横に置いてある小さい机に置いた途端、バイブレーターの音が響いて飛び跳ねそうになった。

夜中のメールなんて滅多にこないから。こんな時間に誰だろう。友達だったら嫌味で電話かけちゃうぞ。



折り畳み携帯を開くと――――。



「嘘でしょ?」


思わず声をもらしてしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オッスー(*・ω・*∩

間宮、ひさしぶりー。めっちゃ久しぶりだけど元気にしてる?

あのさ、どっかから聞いたかもしれないけど、俺今度結婚するんだわ。

予定空いてたら、結婚式に出席してもらえると嬉しいんだけど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


五年の歳月なんてあったのかな? って思うくらい気軽なノリで元カレからのメールが届いた。


「アドレス変わってないんだ」


嬉しいような、そうじゃないような。

一体彼はどういう気持ちで送ってきたのだろう。

あの頃お互い別れて正解だよね? っていう感じなのだろうか。あのときのしがらみは忘れて、祝ってね! っていう感じなのかな?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

久しぶりじゃないよ、とーや。

五年も音沙汰なしで急に結婚なんてビックリ!

行けるかわからないけど、結婚式の日時教えて?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


メールの返信ボタンを押すと、勝手に指が動き出した。

私も彼に合わせて何気なく返せばいいのかな? そうじゃないよね。

クリアボタンを押しながら内容をあっという間に消した。でも、やっぱり一言いいたくなって文字を打ってしまう。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あれから五年。

私のほうは色々あったんだよ?

とーやが海外で音楽勉強するから、もう別れようって一方的に言われてどのくらい傷ついたかわかる?

しかも面と向かってじゃなくて、電話でお別れ、ってどういうこと?

悲しかったし、突然なことで私、とーやの家まで行っちゃったよ。そうしたらおじさんもおばさんも「困ったのよー」ってのほほんと返されて……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



なに打ってるんだろう。今更ぐちぐち言ったってどうにもならないのに。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

海外のどこの国に行ったかわからないで三ヶ月目、生理不順になってるなーって思って産婦人科行ったら「妊娠してます」って言われたんだよ。

ビックリしたのと同時に、困った! って思った。

だってそうでしょ? 父親のとーやがどこにいるかわからないんだもん。だから、ご両親のところに相談しに行ったんだよ。ものすごい勇気振り絞って。

私、家族いないじゃない? そのことご両親も知ってるからお金を無心しに来たって思われたみたいで。

私の話しなんか聞いてくれなかったの。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


当時のことを思いだして思わずポロリと涙が出てしまった。そのせいで画面が濡れて少し見えづらい。それなのに私は打つ指が止められない。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

すごく迷ったよ。

とーやに相談したくてもできない。ご両親は力になってくれそうもない。

そんな状況で子どもを産んでいいのか、って。

それにまだ十代だったし。十九歳の私が産んでもいいのかな? って。財力のない私が育てることができるのかな? って。

すごい葛藤をしたよ。とーやにはわからないよね?

日に日に大きくなっていく赤ちゃんの命がどれほど愛おしいかって。愛おしい反面、自分の愚かさを感じながら毎日を過ごすって。

私が「いりません」って決断してしまえば、消えてしまう命。

いっときの快楽で新しい命を授かってしまった私の浅はかさ。

でもね、思ったの。

もしかすると、とーやは私に新しい命が芽生えるかもしれない、っていう危険を察知して高飛びしたのかな? って。

そう考えるとなんだか納得してしまう節が幾つもあったんだ。

ねぇ、本当は音楽の勉強なんかしてなかったんじゃないの?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そこまで打って、私はまた全部消去してしまった。

バカだなぁ。

今更赤ちゃんがどーのこーの言ったって始まらないのに。

そう。

今頃とーやに言ったって今のこの小さな幸せは変わらない。

むしろ伝えたところで変に同情されたり、この幸せを壊されてしまいそうだ。それは嫌で、怖い。そして避けたい。


だからもう、とーやのことは忘れよう。

今ある小さな幸せを守っていこう。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とーや、一つだけ感謝してるよ。

私に守るべき命を、家族を与えてくれてありがとう。


そして、さようなら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



未送信ボックスにその言葉だけ保存して、とーやのアドレスを削除した。


そして私は携帯を閉じ、ベッドにゆっくりと潜り込んだ。

まだ私より全然小さい手。でも確実に大きくなっている幼い手をそっと握りながら私は目を閉じた。




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― 新着の感想 ―
[一言] こちらの短編を読ませていただきました、masa-kyでございます。 昔の彼氏のメールから始まる、ちょっぴり複雑で悲観してしまいそうな展開。とはいえ、主人公のひたむきな強さと勇気がどこか気持ち…
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