来客と味見
「お邪魔します」
玲於奈はそういうと行儀よく靴を並べ、育ちの良さを見せつけるかのようにキョロキョロとしたりせず、真っ直ぐに食堂に入っていった。
「っておい!俺についていけよ!まず!」
「私に指図しないでください!」
お前は二号機パイロットかよ。
俺は買ってきた食材をドサドサ食卓に置いて、一息ついた。
「よし、ちゃっちゃと作ろうぜ?妹の分も。」
そう俺が言うと、キョトンとした顔で見てきた。
「えっ...私も作るんですか?」
「当たり前だろ!?練習だ練習!」
全く、客に料理を作らせるとはどんな家ですか。とブツブツ文句を言っていたが今は俺の渡したエプロンに身を包んでいた。
「よし、じゃあはじめるぞ!」
結果から言おう。
あのライオン女、料理は点でダメだった。
8割以上俺が作った。
「う、うるさいですよ!料理なんてできなくても、出来る人と家庭を作ればいいんですから!」
彼女曰くそうらしい。そんないるもんかねぇ、できるやつ。
で、今。
俺らは試食の時間を迎えていた。
「なぁ、玲於奈さん。」
「なにどさくさに紛れて名前で呼んでるんですか。まぁこれからそう呼んでくれて構いませんが...なんですか?草原君」
「おれも駆でいいよ。君から食べてみてくれないか?」
俺は冷や汗ダラダラ。
いやいや、普通のカレーを作っていたはずなんだ。
ただ片方は茶色と赤で構成されたカレー、片方はほとんど緑だ。
どうしてこうなった...
「いや、駆君が肉カレーを食べるべきです。きっと美味しくて泣けてきますよ?」
違う意味で泣けそうだよ。何事もやりすぎは良くないよ。
「じゃあ、一緒にパクっといこうぜ?な?」
「それは名案ですね!じゃあ、いきましょう。」
「せーのっ。」
お互いスプーンにすくうものの、口にしていない。
「食えよ!約束破るなよ!」
「それならあなたもでしょう!?私に責任を押し付けないでください!」
ていうか!と続ける。
「これをハーフ&ハーフで食べさせられる妹さんが一番気の毒ですよ!鬼畜兄!」
確かにそうだ。これには反論できないな。
「仕方ねぇ、食ってやる。」
ヤケクソだった。パクパクと食べていくと、段々と視界がぼやけてきた。あぁ、涙だ、これは。
「なぁ、玲於奈?これが何の涙か、わかるか?」
「なんでしょう...やっぱり、美味しくない...?」
俺は横に頭を振った。
「意外と普通で、安堵の涙だよ...」