拳と林間学校
「なあなあカケル君!」
例の事件以降、仏頂面をしていた俺に、むかつく声で牧野が声をかけてくる。
「なんでもう玲於奈さんと仲良くなっちゃってるわけ!?」
「お前にはあれが仲良く見えたのか?だとしたらそんな頭に生まれたかったよ。」
俺のシマウマ理論その16。
どんな時も周囲に気を付け、危険を察知すべし。
同じ趣味を持つ人がいる。その事実に舞い上がってしまい、失念していたよ。
「被食者と捕食者とか!もうそんなイミシンな関係になっちゃったわけ!?」
殴りたいこの笑顔。
俺の思いを知ってか知らずか、隣の席から目にも止まらぬ、えぐるような拳が飛んできて、彼の頬に炸裂した。ひでぶ!という世紀末的な断末魔をはなち、牧野が吹っ飛ぶ。
「そのパンチで世界狙う気はないか?野蛮娘。」
皮肉をこめた俺の言葉を聞くと、ネコ科女はキッと音が出るほどきつく俺を睨んだ。
「やかましいですよ、葬式カラー男。白と黒の体毛なんて、死ぬために生まれてきたんですか?」
「だれのせいで死んでると思ってんだ!貴様の葬式も今すぐあげてやろうか!?」
煽り耐性なさすぎだな、俺。俺と違って煽り耐性のある彼女はスルーして読書に戻った。
「ところでさ、ところでさ!」
いつのまにか復活していた牧野のハイテンションぶりにおどろきながらも、耳を傾ける。
「明後日、林間学校だぜ!リンカンガッコ―!」
「二年でやるのか。よく考えるとめずらしいな。」
「なんでも二年でぼっち化するやつを減らしたいんだとさー。やさしいよな。」
ここまで気のまわる学校も少ないだろう。ありがたや。
「そんでさ、まず二人組を組めって言われるらしいんだ。そこでカケル君を誘いに来たってわけさ。」
その時点でぼっちにやさしくないよね。
「あぁ、いいよ。お前ぐらいしか組むやついねぇからな。」
俺がそう言った途端、クラスの女子たちがガタッという音を立てざわざわし始めた。
「私はやっぱり牧野君×草原君...」
「いや草原×牧野もありね...」
まじでやめろ。
始業のチャイムが鳴ると、ほどなくして宮崎が教室に現れる。
「この時間で林間学校のペアを決めちまうぞー。適当に決めといてくれてけっこうだが...」
なんでだろう、嫌な予感がする。シマウマのカンがビンビン来ている。宮崎がニカッと体育会系らしい笑顔うをみせると、言葉を続けた。
「志田と草原はペアにしておいた。なにかとそのほうがやりやすいだろうからな!」
...。殴りたいその笑顔。