孤独な狼と小さな少女
※創作新選組(ベースは我が家の)、SS、沖田総司
動乱は多くの英雄と同時に、多くの孤独を生み出す。
武士の世も終わりを告げようとしていた時代に、本物の武士であろうとした集団がいた。
――会津藩御預り、新選組。
「弱ったなぁ、俺、これから見回りなんですよ」
沖田総司は少女の目線に合わせて、中腰になると困ったように眉を寄せた。
壬生寺の一角、いつも子供たちと遊ぶ場所。
巡察の時間が迫っている為、この辺りで終わりにしようと子供たちを帰らせていた。
ひとり残った少女は、総司ともよく遊ぶ友達だ。
六歳程で桜色の着物を着た丸い目の少女。
彼女は泣きそうな顔をして、帰りたくないと珍しく駄々を捏ねた。
どうしたのかと聞き返せば、家に誰もいないから帰りたくないと言うのだ。
「皆と遊んできたらいいじゃないですか。皆もまだ帰るには早いでしょうから、どこかで遊んでいると思いますが」
そう提案してみるものの、女の子は総司の袖を掴んで離そうともしない。
嫌だとばかりに首を横に振り、更にぎゅっと女の子は袖を強く握る。
片手で後頭部を掻き、息をつけば呼ばれる声に気づいた。
此方へ歩み寄ってきたのは永倉新八だ。
横目で睨みつつ、状況を説明すると新八は感心したように言葉を続ける。
「総司ィ! いい加減に……って、どうしたよ?」
「新八さん、それがですねぇ、他の皆とは別れたんですが、この子は家に誰もいないから帰りたくないと言いまして」
「本当、子供には懐かれてるなぁ。普段は飄々として、よく分からんってのによ」
「ひと言多いですよ」
褒めてるのかけなしてるのか、よく分からない言い方に総司は一応の釘を刺す。
改めて女の子へと視線を向ければ、やはり俯いて動こうとしない。
こうなってしまえば、もう仕方ない。
「屯所で待っていますか? 早く帰れるとは限りませんから…夕方になったらちゃんと帰るという条件付きで」
総司が小さな頭を撫でながらそう告げれば、女の子は嬉しそうに顔をあげて頷いた。
武士道。
人に囲まれているようで、その道は酷く孤独だ。
まして明日をも知れぬ世で歩む先に見るものが、この小さな少女の笑顔のような明るいものであったなら。
今はただ、そう願うのみ。
了