ばけもの姫を愛した騎士
※創作SS、設定適当、ばけもの姫、騎士
森の奥深くにぽつんと佇み、その高さが目立つのは、茨に蝕まれた石とレンガ造りの塔だ。
金具が錆びた木製の両開きのドアは、ギィっと耳障りな音を立てて開く。
人気も灯りもない螺旋階段をひたすら上り続け、漸く着いた最上階に姫は住んでいた。
脳裏に浮かぶのは、真っ直ぐにこちらを見やるあの人の顔。
それを正面から受け止めきれない、自分の今の顔。
焼け爛れ、歪んだ顔は昔のそれと同じではない。
花も置物もなく、殺風景な部屋にただひとつ輝いているのは、白銀の甲冑をまとった騎士が描かれた絵だ。
今着ているのは黒いスレンダーなドレスだ。袖があり、裾も床につきそうなほど長い。
天蓋つきのベッドに棚、化粧台など、必要最低限の家具は装飾こそされていないがどれも一級品であることはひと目見れば分かる。
ゆっくりと絵の傍まで歩めば、ヒールと床の石がカツカツと高い音を奏でた。
包帯を巻いている手を、騎士の絵へそっと伸ばす。
「……人の身にあらずとも、貴方は私を愛してくださいますか?」
返る答えはあるはずもなく、望んではいけない感情だけが心を支配する。
気の遠くなるような螺旋階段を抜け、騎士は最上階に辿り着いた。それも何度もだ。
そうするうちに、騎士は言ったのだ。
『君を愛している』
こんな姿だから、彼が告げた言葉がいまだに信じられなくて。
望んではいけない、望めるはずもない。
たとえ一国の皇女であろうと、人の姿とも言えぬ自分が傍に居ては、由緒ある家系の彼の行く道を狭めてしまうだけだ。
そんな思いばかりが駆け巡る。
心の内をよぎる。
絵に添えた手が力なく落ちると同時に、膝をつき崩れ落ちた。
涙が溢れてくるのです。
心を止められないのです。
そんな私を、こんな私を、貴方は今も、人間だと仰ってくださるのですか――?
了