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乙女ゲ主人公に転生したら脇役に逆ハー乗っ取られてました

作者: シンタグマ

長いタイトルのものを書いてみたかっただけともいう……

 ……タイトル通りの状況ですが、何か?


「やだー、亮一郎君!」

 少し高めの透明感あふれる彼女の声は、実に良く響く。昼休み、多数の生徒でざわめく食堂においても。 

 学食にて、無駄にキラキラしい人々の中に混じり時折揺れるツインテールを横目に、私は持参したサンドイッチを口に運ぶ。口を大きく開けてかぶりついたら、黒縁の眼鏡がずれたので手の甲で押し上げた。

 崎川美織、それが私の名前。

 こんなこと他人に言ったらイタイ奴確定だけど、私の脳には前世の記憶とやらがこびりついている。前回の人生をそれほど詳細に覚えているわけではないけれど、物心ついた時には既に人生が二度目であることに気が付いていた。

 そしてこの学園に入学したその日、ただの二度目の人生でなくおそらく以前の人生でプレイしたと思われる乙女ゲームの世界に転生したのだということを思い出したのだ。


 現在は中間試験終了後の六月、何もせず入学後の三ヶ月を過ごした訳ではない。

 前世のゲームの記憶を整理したり、高校入学に合わせて引っ越してきた町の中を探検し記憶と照会したり、この世界に前世の私が攻略したと思われるそのゲームそのものが存在しないか調べたりしていた。

 結果、記憶を元に書き出したノートの記述と、見知らぬはずのこの町や学園、特定の先生や生徒に対しての情報は怖いくらい一致した。また、記憶のもとになっているゲームはどの情報誌にもインターネットにもヒットしなかった。


 攻略対象との接触は基本的に避けていて、今のところ只の一人とも直接会話したことは無い。ただ、気になることが一つあった。

 それが冒頭の彼女、佐倉ツバサの行動だ。記憶と街を照らし合わせることにしばらく夢中だったのもあり、気が付くのも調べるのも遅れをとった。

 ゲームの設定によれば、佐倉ツバサは親友になるはずのキャラクターだ。仲良くなるきっかけの廊下での衝突は強制イベントだった気がするけれど、ホームルーム終了と共に全速力で帰宅していたため未だにそれは発生していない。

 どうも彼女の行動は、ヒロインの行動をなぞっていると推測せざるを得ないのだ。

 彼女は花壇や体育館、音楽室など、授業に関係ない場所に休み時間の度に出向き、非常にマメに攻略キャラと交流を深め、入学してわずか三ヶ月だというのに冒頭の様な逆ハーレムを築きあげるに至ったらしい。

 もしや彼女も記憶持ちかもしれない。しかし、どう確かめるというのか、彼女がそうでなかった場合、私が精神病院受診を薦められてしまうしまうリスクがある。既に彼女が仲良くなっている攻略対象のキャラクターと接触したくない気持ちもあって、私は葛藤していた。


 そんなある日、それは起こった。

 いつもの通り、ホームルーム終了後さっさと教室を後にしたらなぜか佐倉ツバサに付いて来られ、全力ダッシュでも振り切れず、下駄箱に続く一階の廊下で呼びとめられたのだ。

「……なんなのよ」

 振り向いたと同時にかけられた言葉に、私は心臓が止まりそうになった。

「さっさとポジション奪い返しにきなさいよ! あんまりに初動が遅いから気になってイベント起こりそうなチャンスでうろうろしてたら、なんか良くわかんない状態になっちゃったでしょ。ヒロインならヒロインらしく行動してよね! ヒロインのくせに」

 やはり、彼女も記憶持ちか。少なくともこの世界がゲームだという自覚があるとは。

 ヒロイン、と連呼されて胸の奥から不快感がこみ上げてきた。

 私は、そんな名前じゃない。そんな自覚もない。キャラクターとしてシナリオをこなす気も更々ない。

「だから、……もっとやる気だしなさいよね!」

 勢いが良い彼女の言葉は、私を責めるような響きをしていた。


「やる気? 何に対して」

 沈黙の後に、彼女に向ける言葉を喉からひねり出したとき自分がどんな表情をしているかに気を配る余裕は無かった。

「ようやく仲間に会えたと思ったのに」

 敵認定、なんてね。

 私は薄く笑った。男の取り合いなんて程度の低いことをするつもりは、全く無い。


 前世の記憶が私に作用したものが、良いことばかりだったとなぜ言えるだろうか。

 私にとって、鏡に映る自分とそれを見つめる自分の乖離感はどうしようもなく居心地の悪いものだった。

 自分自身が他人に成り代わっている現実をなぜ受け入れているの?

 何度も狂いかけたこれまでの十五年を思い返して、私は顔をゆがめた。

 耳鳴りと頭痛を、目を閉じてやり過ごす。

 他の誰かになりたい、おそらくかつての私もそう願ったことがあるんじゃないか、浅はかで愚かな願いとしか言いようが無い。

 皮が変わったとしても中身はけして変わらない。

 不安定な自我でどうすれば充実した人生を送ることが可能だろうか。


 私が私であることからは、けして逃げられない。


「あなたと一緒なら、耐えられると思ったのに」

 ゲーム内の親友ポジションのあなたとなら、怖さを分かち合い、互いを支え乗り越えられると思ったのに。


 ゲームは三年で終わる。

 主人公とその恋人がその先どうなるかは、短い文章でしか示されない。

 私は転生者だと気がついた時から、ゲームのエンディングが怖くてたまらなかった。

 それは本能的なものと言っていい。

 死について考える時と同じ種類の、恐怖。


 それで、その先はどうなるの。


「……でも、あなたはそうじゃないみたいね」

 無理やり唇を曲げて笑みを形作った。

 充実した毎日を過ごしていることは、これまでの観察から十分伝わってきた。

 乙女ゲ主人公に転生したら脇役に逆ハー乗っ取られてました。

 でも、私にとってそんなことはどうでもいい話だ。

 逆ハーレムも、ヒロインも、脇役もどうだっていい。

 戸惑いを隠さず私を観察するような表情を崩さない彼女に別れを告げて背を向け、下駄箱の方へすたすたと歩きだす。

 この人は仲間じゃない、親友じゃない。

 現実を生きる私が、今ここにいるということ。それだけがこの世界で頼りにできるただ一つのことだと、私はかみしめるように思った。

◆◆脇役の言い訳◆◆


 なんてこと。

 傍観者気取るなんて、頭が悪いあたしじゃ到底無理だったんだって。


「佐倉ちゃん、一緒にかえろ」


 ホームルーム終了と同時に、語尾に音符マークがつきそうな弾んだ声と共に現れたのは荒幡シオン君。どこの国かは忘れたが、クウォーターの高校生モデルだ。王子みたいな外見なのに中身がワンコであるところが可愛いっていうキャラ。

 初めて接触した攻略対象だったから、調子に乗って色々会話したら想定外に懐かれてしまって、ちょっと困惑している。

 困っているのは彼に対してだけじゃない。親密度パラってヒロインしか上がらないものだとばかりあたしは思っていたけどそうじゃなかった様で、その他の攻略対象とも仲良くなりすぎてしまったみたいなのだ。

 おかしいぞこの状態と思ったときには、既に攻略対象同士面識が出来るほど友好度が上がってしまっていた。わずか三ヶ月にしてそんな状態だ。

 さすが乙女ゲーマスターを自称していた前世のあたし、なんて喜んでもいられない。

 何ていったって本来のあたしはシャイで自信がなく、男性恐怖症気味の根暗人間なのだ。三次元のイケメン相手にこのまま順調に上手く立ち回り続けるなんてこと、不可能に決まってる。

 こんな状態になってしまったのは、半分は自分のせいだって思うけど、もう半分は彼女のせいだ。


「あーうん……、っと、あ!」

 視界の端で、彼女ことヒロインが椅子から立ち上がったのをとらえてあたしは小さく声を上げた。

「ごめん、用事!!」

 バックをひっつかんで、教室を出る。

 シオン君は悲しそうな様子をしていたけど、残念ながら彼の攻略は邪険にする位の扱いが最適で、誘いを断れば断るほど好感度は上がるはずだ。……正直面倒くさい。


「……なんなのよ」

 あたしは叫んだ。

「さっさとポジション奪い返しにきなさいよ!」

「……え?」

 勢いよく振り返ったせいでヒロインの眼鏡はちょっとずれて、少し色素の薄い大きな瞳がフレームの上に見えた。

 それだけなのに、なんたる可愛さ。

 さっさと眼鏡取れ。可愛さの出し惜しみすんな。

「あんまりに初動が遅いから気になってイベント起こりそうなチャンスでうろうろしてたら、なんか良くわかんない状態になっちゃったでしょ、ヒロインならヒロインらしく行動してよね! ヒロインのくせに」

 あんまりにテンションが上がりすぎて、ちょっと息切れした。

 ヒロイン連呼しすぎた。反省。

「えっと……あの」

「だから」

 あたしは赤くなった頬を隠すようにヒロインから顔をそむけた。

 なんかヒロイン見ると、ドキドキしちゃうんだよね。

 理想の女の子を具現化したらこういう形になるんだって心から思う。

 つやつやのセミロング、細い首、ピカピカのお肌。

 ださい眼鏡で隠せない大きな瞳、バランスのいい完璧な配置の顔のパーツ、リップしてないだろうにつやつやの唇。

 姿勢の良さ、ふるまいの美しさ。

 こうなりたいと思うのもおこがましい美少女振りを目の当たりにすると、動悸息切れがしちゃうんだよね。

 どの攻略対象を前にしても、こんなに興奮しない。

 だから早く。

「もっとやる気だしなさいよね!」

 だから早く、もうどのルートでも良いから、攻略対象との絡みをあたしに見せてくれ!

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[良い点] あるある……ってあとがきっ?! [一言] あとがきのほうが出来がいい件。
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