叫ぶ少女
カチッ、カチッ。
ペースを乱すことなく進み続ける時計の音とペンを走らせる音以外、この美術室には音が存在しなかった。
妙な緊張感が張り詰めるこの美術室に、思わず私も固唾をのみこんで空気になじもうと懸命に努力する。
何度か声をかけてみたが、ペンを走らせている本人、火神翼君は私の存在自体に気がついていないようだった。
「火神く……ん……?」 試しにもう一度声をかけてみる。無視。
「ひがみく~ん?」 もう一回。無視。
「あの、火神君!」 今度は少し大きめに。無視。
「ひ、火神君ってば!!」 思い切って肩を叩いてみる。見事に無視。
「気がついてよ火神君ってば!!」 肩を揺らしてみる。
するとようやく気がついてくれたのか、こちらに目を向けると―――――
「……邪魔だ」
「ひっ!」
ものすごい剣幕で私のことを睨むと、また被写体である銅像の方に目を移しまるで私がいなかったかのように作業を再開した。
私はと言うと一瞬の恐怖感に立っていることもままならなくなり、その場に座り込んでしまった。
あの目、私のことをいじめる人の目にそっくりで―――――
「……なさい」
「あぁ?」
「ごめんなさい……」
怖くなって、何をされるかわからなくて、どうしていいかわからなくなった私は、とにかく謝り続けた。
こういう怒っている人には、自分に非がなくとも謝っておく。自分がもしかしたら原因かもしれないのに、そんなことにも気付けないのかとまた相手の反感を買うくらいなら、自分のことを限界まで蔑んで自分が無能だと、そう相手に思わせて危害が及ばない方がずっとましだ。私のプライドごときでなんとかなるなら、私のプライドなんて紙クズ同然なのだから、捨ててしまえばいい。
「お邪魔、でしたよね。
集中してるところに、私なんかが邪魔してごめんなさい。
こんな無能な奴で、そんなことに気がつけなくて、本当にごめんなさい。
許してほしいなんてそんなこと言えないけど―――――」
「あー、ったくうっせぇなぁ」
「あっ、またおじゃまでした……よね。本当にごめんなさい」
「つーかさっきから誰……って大崎!?」
「……え?」
さっきまでのものすごい剣幕はどこへやら、教室にいるいつもの火神君に戻っていた。
何が起きてるの?どうしてこうなってるの――――――?
何が起きてるのか全く把握できてない私は、頭にクエスチョンマークを何度も浮かべて火神君のことを不思議そうな目で見つめた。
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「悪い悪い、作品に集中してるとどうも他の事に気を配れなくってさ」
先程までの火神君とは思えないような優しい口調で説明をしてくれるので、さっきまでのあの剣幕がまるで一瞬の夢だったんじゃないかと思ってしまうほどだった。
火神君曰く、自分が作品に集中していると「作品モード」と言ったような職人みたいな状態になり、ものすごい繊細になるという。同時にあり得ないような集中力を発揮するので周りが一切見えなくなり聞こえなくなり、感じることができなくなるという。
だから先程の私のようなことを安易にすると、普段の自分からじゃあり得ないような剣幕を発してしまうらしい。現に以前にも同じような状況になった人がいるらしく、その人は今でもあまり近寄ってくれないらしい。
「それって、だれなんですか?」
「お前も知ってる人だよ。正直あれがなかったら全員と仲良かったんだけどなぁ」
「知ってる人……ですか?」
「パソコン室でいつも時間を潰してるゲーム系女子、横峰さんだよ」
あの人に何度も弁解の時間をもらおうと努力はしてるんだけど全く話し聞いてくれなくて、と苦笑しながら頭を掻く火神君。確かに横澄さんとは席の距離もはなれているし、普段からフレンドリーな火神君なのに横峰さんと話している姿を入学してから一度も見ていない気もする。
「そういえば火神君、何を書いていたんですか?」
「ん?あぁ、これ?」
ちらりとキャンバスに目を向けてみると、何かの模写をしたような風には見えないし、だからといってどこかの風景画と言われてもピンとくる風景が目に浮かんでこない。何かの物体でもないし、これは一体――――
「ん?キミの心」
「……へ?」
「まだ君とあって間もないから、上手く表現しきれてないけど、俺はその人の心をキャンバスに移し替えることができる。ちょうど君のその―――――」
「いいです、言わないでください」
この人も、知ってるんだ。
私のこと、私が持ってるあの症状を。
「ごめんな」
「いいんです、さっき篠田さんにも同じようなこと言われて、びっくりしちゃって」
「あぁ、あいつの嗅覚は制御利かないもんなぁ。あいつもあいつで大変だよな」
「私も―――――」
そのあとの言葉を紡ぎそうになり、慌てて口をふさぐ。
決めたじゃないか、この“能力”について、誰も頼らないと。誰の相談も受けないと。
生まれ持ったものは仕方ないから。これを一生背負って生きて行くしかないから。誰にも変えようがない“これ”は、仕方がないことなのだと。
「適当に相談しねぇと、“また”同じことを繰り返す羽目になるぞ」
「!!」
「大丈夫だから、お前の思ってるほど、悪くねぇよ」
んじゃ俺は先に部屋に戻るから、とだけ告げると美術室から颯爽に去って行った。ぽつんと一人、美術室に取り残された私は疑問符が頭から離れることがなかった。
「さいごまで、変な人だなぁ」
今に始まったことじゃないんだけど、このクラスはもともと変な人の集まりだったけど。と自己暗示をかけて「これが当たり前」を心の誓った私だった。
「そう言えば―――――」
――― パソコン室でいつも時間を潰してるゲーム系女子、横峰さんだよ ―――
ふと思い出されたその言葉に、私はあわてて次の目的地へと向かった。
時計をふと見れば、そろそろ10時に達する。“あの時間”が刻々と近づいていく。
「早く、早くしないと――――――」
高鳴る鼓動に悪寒を感じながら、一目散に目的地へと走り出した。
「さて、やらないとまずいですねこれは」
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―― パソコン室を利用するときは、部屋を明るくして画面から離れて使用してね♪ ――
どこのアニメのオープニングだよ、とツッコミたくなるようなポスターを目の前にして私はパソコン室前に到着した。
そして律儀なことに、パソコン室の電気は夜10時を回るというのに蛍光灯が全て点いていた。
「ここに誰もいなかったら、地球に怒られるよ」
カンカンに蛍光灯をこんな時間に点けてて誰もいなかったら、どれだけ地球に厳しいんだよと突っ込んでやろうと心に誓った後、ガラガラとドアを開いてみると――――――
「うはあああああああああああああ!!」
「……ふぇ?」
「あいちゃん!!あいちゃあああああああああああ!!!」
「え、えっとえっと……」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「よ、横峰さん、き、聞こえて――――――」
「あいちゃあああああああああああんんんんんんんんんん!!!!」
謎の雄たけびとともに、発見されました。
午後10時。横峰伊澄さん、叫んでおりました。
火神君モデルの方はこんな方んじゃないんです、キャラのために気付いたら二重人格みたいな感じになっちゃってたんです許してください><
どうも森野です。
今回は火神君の能力、人の心をそのまま絵に表現できる能力です。
これがどう役に立つ事やら、それはまだまだお楽しみ♪←
火神君自身はもとから教室キャラが当たり前なんだけど、美術室で作業してる時はものすごい怖い、って設定にしたかっただけなの←許してください←←
ひさしぶりに更新で、上手くかけたかは微妙なんですが←
そしてまぁ、横峰さんはリアルでもこんなんだから困るんですよモデルこんなんだから困るんですよ←
ということで今度は発狂少女、横峰伊澄さんです。
では、今日は失礼します(`・ω・´)