描く少年
「ここでなにを……?」
「いや、ここにいたらすること一個しかないでしょ?」
「まぁ、なんとなくわかりますけども……」
「リリスが自分の一番好きなところで大崎のこと待ってろっていうから、俺はここでずっと本を読んでいたって、そんな所だ」
先程まで読んでいた本を見せると、「これ面白いぜ?読んだことあるか?」と笑顔で問いかけてくる。
そこに書かれていた題名と著者に、無意識にどきんと心臓が高なった。だってそれは――――――
「あぁ、見ましたよ。面白いですよね?」
「だろ?俺この作者大好きでさ、デビュー当初からのファンでずっと追いかけてるんだ。でもあんまり知名度高くないみたいで、全然話が判る人がいなかったんだよ。平積みにされるほどの作品なのによ」
全く今時の俺らくらいのやつらってなんで本読まねぇんだ、とぶつくさ文句を垂れる篠田さんにうんうんと思わず頷いてしまう。それに今まで助けられてきた私が言うのも変な話ではあるのだが。
「大崎がはじめてだよ、『櫻卯月』の本の話が判ってくれる奴」
「は、ははは……」
自分と同じ好きな作者の話ができてうれしい篠田さんと、乾いた声が喉から漏れる私。とても対称的な二人が同じ部屋に居座っていた。
「その人の、どの辺が面白いですか?」
「え?」
「いや、篠田さんは櫻さんの作品のどんな所が好きなのかなーって、そう思っただけなんですが……」
「あぁ、そう言うことね。
この人、ジャンルが安定しないところがいいんだよ。この人の作品は見てて飽きねぇってのかな、この作者はこういうジャンルしか書かない、みたいなのがなくて、櫻さんはまんべんなく面白いっていうのが魅力かな。
その中でも突きでて面白いのはやっぱり学校モノかな。リアリティ溢れてて、主人公の気持ちがホントに自分に置き換えられる気がしてさ。フィクションってわかってても、ホントの出来事みたいに感じちまうところとか、魅力的だと思うんだ」
「そ、そうですか……」
その言葉を聞くたびに、私の心はズキンズキンと痛みだす。
言えるわけない、この胸の痛みの原因なんて。
「そういえば大崎は、図書館……もとい本はよく読むのか?」
「あぁ、はい。昔はすることもなくて気がついたら図書館に来てて、ここにきたら本読むのが癖になってて」
「そうなのか。前の学校じゃ、本の虫だったのか?」
「いやぁ……そんなところですね」
まさか、いじめられていて逃げ込む場所がここしかなかった、なんてそんなこと言えるわけがない。
必死に笑顔でごまかして自分が「本の虫」だったとそう言うことにしようとする私に、篠田さんは突然回りに注意をし始めた。その視線があまひにも鋭くなり恐ろしくなった私は思わず目線を下に落としてしまう。まるで自分のことを見透かされそうな視線の強さに、心が鷲掴みされたような気がしたのだ。
「お前……嘘つくの苦手だろ」
「……え?」
「我慢は体によくねぇぞ」
先程までの笑った表情とは真逆の、凄い真面目な顔を私に向けてくる。変わらない篠田さんの目力に思わず一歩後ずさりする。心の奥を見透かされるような、恐怖に近いような感覚が体中を駆け巡ったのだ。
「うちのクラスに隠し事はそうできないと思うぞ。うちのクラスはみんな変な能力あってここにきてるんだ。俺も含めてな」
「へ?」
「なんだ夏目さんから聞いてないのか。
俺たちのクラス、“特例クラス”は一般人よりも頭一つ伸びた才能、能力があって普通のクラスだと浮いてしまうからここに来てるようなもんなんだ。家族もそれを了承しててうちのクラス来るから、みんな大崎が来た時もあんまり驚かなかったんだよ。まぁ、個々の能力はプライバシーがどうのって言って学校側からはなんもいわれないんだけどさ。俺たち自身で教え合うには別にいいらしいんだけど、学校の書類的にはそれはアウトなんだと。
だからお前最初びっくりしただろ?普通の人がいなかったんだから」
平然と話す篠田さんに私は驚いて何度も瞬きを繰り返す。
私のクラスが変なのはなんとなく知ってはいたけど、そんな能力がある人たちのクラスだったの……!?
「そ、そんなの聞いてないです!それに私はそんな能力ないし――――――」
「夏目先生言ってただろ、『特殊な事情で来るやつもいる』って」
「!」
「それにお前、あるだろ。隠してるだけだろ、能力」
「!!」
さっきから核心をついてくる篠田さんに一歩一歩、後ずさりしてしまう。
そうだ、私には人と違う部分が一つだけある。そしてそれで私は、忌み嫌われ、いじめられてここに来た。
――― そんなことやってて、楽しいわけ? ―――
――― ばっかみたい、そんなことで本気になって ―――
――― ホント、変な奴の考える気がしれないわ ―――
「っ――――――!」
頭が痛くなる。
紙がつぶれる音が聞こえる。
踏みつけられる音が聞こえる。
嘲笑われる声が聞こえる。
「お、おぃ大崎、どうし―――――」
――― これじゃあ提出できないね『○○○』 ―――
「その名前で呼ばないで!!」
思いきり机をたたく。シン、といつも以上に静まり返る図書館。私と篠田さんの間に気まずい雰囲気が広がる。
しまった。やらかした。
「ご、ごめんなさい……取り乱して」
「いや、俺こそちょっと首突っ込みすぎたわ。すまん」
「いいんです、私が悪いんです」
こんな世界に生まれてしまった私が。
そう告げようとした瞬間、篠田さんは私の唇に指を置いて「その先の言葉は言うんじゃねぇ」と釘を刺された。
「悪いな、俺の能力がですぎた真似をした。
俺の能力は人の回りから感じる匂いでその人の今考えてることが手に取るように分かるって、そういう能力なんだ。俺の能力はあんまり自制がきかないもんだから、たまにこうやってみたくなくても見えてしまう時もある。逆に見たくてもほとんど濁って見えない時もある。あんまり安定感ないんだ、俺の能力」
困った能力だよな、とまゆをひそめながら苦笑する篠田さん。そんな彼に何も言うことができない私はしばらく黙りこんだままだった。
気まずい時間が流れる。耐えられない、こんな時間は――――――
「あぁ、そろそろ俺帰らねぇと紅葉さんに怒られちまう」
「へ?どうしてですか?」
「俺まだ紅葉さんの課題終わってなくてさ、早くしないと夕飯抜きなんだよ」
「課題?なんですかそれ?」
「俺選択で美術とっててさ。担当が紅葉さんなんだよ。それで近くに提出期限迫ってきてるから見てもらいながら課題進めてるんだ。その時間が近くなってきたから、俺帰るわ」
「えっ、あのその―――――」
「美術室にならあいつがデッザンしてると思うからよ、いってこいよ」
それじゃ、というと篠田さんは図書館から姿をふっと消した。と同時に私の脚の力が急に抜けて、その場に倒れ込んだ。今まで張っていた緊張感が、一気に解けたからだった。
「心臓に悪いよ……」
本を読んでいたまでならまだいい。
その作者が、『櫻卯月』と言う点。そして、心を鷲掴まれるようなあの感覚。それが私の心に大きな緊張感を覚えさせたのだ。
「いかなくちゃ……」
フラフラとした足取りで図書館を後にする。
次は篠田さんの話を信じれば、美術室だ。
「あそこも怖いよぅ……」
学校の怪談を思い出した瞬間、背中がブルッと震えた気がした。
「おいおいリリス、あいつ相当やべぇぞ」
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かくれんぼが始まって、早5時間が経過した。
1時間に1人のペースで見つかり続けるので、そろそろ5人目がみつかってもいい頃なのだが、私は美術室の前で息をのんで一人見つめていた。
理由は明白だ。
「昼でもこの部屋苦手なんだよなぁ……」
ただの「恐怖」からくるものだ。
何人もの模型が一気に視線を向けてくるようなイメージの強い美術室は、いつになってもなれることはなく、むしろその気持ちは歳を重ねるごとに強いものになっていた。
それが夜ともなれば、怖さは何倍増しにもなるモノで。
「いなかったら閉める、全力尽くして閉める」
念仏のように何度も唱え、意を決してドアノブに手をかける。
そしてそこを開けると―――――――――
「・・・・・・・」
1つの銅像を食い入るように見ながらペンを進める一人の少年がいた。
銀のアッシュがかかったその少年は、私が入ってきたことにすら気がつかない。銅像とにらめっこをし続けている。その姿をみた私は、思わず固唾をのんで見守ってしまう。
「あの……」
「・・・・・・」
「えっと、発見です……?
火神君」
「・・・・・・」
無視ですが、全力で無視されましたよ私。
悲しい。
と言うことで発見です、5人目の少年、火神翼君でした。
どんどん眠くなってきて収拾つかなくなってきましたよ―っと←
と言うことでどうもです、森野です。
今回は何かと含んでるところありますが、まぁスグに見当はつくと思うのであえて今は何も言いませんw
今回は篠田君に色々説明してもらいましたwホントは火神君でもよかったんだけど、まぁ篠田君でもかまわないでしょうって思ってw
あんまりに眠くて後が気すらまともに書けないっていう・・・・・・w
ということで今日は大人しく寝ることにしますw
ではではみなさん、失礼します(`・ω・´)