耽る青年
「・・・・・・」
「えっとその……」
「お願いりのっち!これはおばちゃんに言わないで!」
そんなことしなくても気がつかないうちになくなってたら誰か疑うでしょ、しかも高崎君の話だとこれが初犯、と言うわけでもないようだし。
この様子だと梨夜さん自分がばれてないから隠してほしい、と言う感じだけど実際おばちゃんも気がついてて黙認している、と言うのがホントの現状なんだろう。
「これで8回目だよぉ、おばちゃんに場所変えられたの……」
さらに言えばこの様子、食堂のおばちゃんは梨夜さんの行動に気がついているにもかかわらず黙認していて、さらに言えばそれを利用して梨夜さんの事を遊んでいる、というのが真実なのかもしれない。
そう考えると、急に笑みがこぼれた。
「ど、どうして笑ってるんですかりのっち!」
そんな私に気がついた梨夜さんはプンスカと怒っているようだった。そんな風に怒ってる梨夜さんもかわいいなぁ、なんて思ってしまった自分がどこかにいるのは梨夜さんには内緒にしておこう。
「えっと……それよりもここでいつもやってるの?」
「い、いつもっていうなです!せいぜい2日に一回くらい……」
ほぼ毎日じゃないですか。
という冷静なツッコミはここではタブーなんだろう、そんなこと言ってたら梨夜さんの機嫌をさらにそこなりかねない。
「それにしてもおばちゃんめ……一体どこに私のお菓子を隠したんだ……」
あぁ、もう既におばちゃんのお菓子ではなく「自分の」お菓子にすりかわってる……。
と言うような点もきっとツッコんではいけないのだろうと心の中で何度も復唱しながら彼女の様子をもう少し眺めることにした。
すると―――――
「なにぼさっとしてるですりのっち!一緒に探すですよ!」
「えぇ!?」
「何言ってるですか!ここまで来たら探さずにどこかに行くとか、そんなの私がさせないです!」
「えぇぇ!?」
と言うことで―――――
「りのっち、そっちあった!?」
「いや、ないけど……」
「おっかしいなぁ、いつもこのくらいの時間には見つかるんだけど……」
「というかそのお菓子に目印とかってないの?」
「あるよ!おばちゃんの手紙が一緒になってて『よく見つけたねぇ』っていう労いの言葉が入ってるんだもん!」
明らかにおばちゃんにおちょくられていることが発覚しました。
そしてそれに気がついてない梨夜さん、さすがだなぁ……。
「あっ!あった!!」
そんなことを考えていると梨夜さんの一際大きな声が食堂中に響いた。自分の声の大きさに気がついたのか、梨夜さんはすぐに口を塞ぐと、自分が見つけた『宝物』をキラキラとした目で見ているので思わず微笑んでしまう。まるで自分が梨夜さんのお母さんになった気分だ。
「よかったね、梨夜さん」
「凛だよりのっち!上の呼び方じゃなくて下の方が私好きなの!」
「は、はぁ……」
どうも慣れない呼び方に、どうしても苦笑いしながら「り、凛ちゃん」と呼ぶと満足そうに「それでいいのです!」と鼻を鳴らして胸を張った。
「とりあえずまぁ、お礼するです」
「お礼?」
されるようなことを、私はしたのだろうか。
特に見つけ出したわけでもないし、むしろ止めようとしていたはずなんだが。
「だって一緒に探してくれたです、普通だったら……あのノリ野郎だったら私のことを無言で引っ張って帰すです。でもりのっち、私の手伝いしてくれたです!りのっちは絶対いい人なんです!」
ふんす、と大きな息をつくと「だからそのお礼なんです!」と先程探していたお菓子を私に差し出してきた。
「これあげるです!ひ、一口ですよ!」
あとは私が食べるんです、と念を押されたがもともとそんなにもらうつもりもなく差し出された袋詰めにされているチョコレートの一つを受け取って「ありがとう」と笑顔で返した。こうやって人からものをもらったの、いつ以来だっけ―――――
「り、りのっち!?なんで泣いてるですか!?」
「え……?あぁ、ごめん……」
気がつかない間に泣いてたらしい。自分でも自覚がなかったため、流れている涙を堪えることが出来ずになんとかごまかすために精いっぱいの笑顔を見せた。そんな私をみた凛ちゃんは、何を思ったのか「今すぐ食べるですそれ!」とせっかくもらったものを今すぐ食べろとせかしだした。
「いや、部屋に戻ってから食べるよ……」
「だめです!今すぐじゃないと私怒るです!」
「は、はぁ……」
半強制されながら先程渡されたチョコレートを口の中に放り込む。ふわりと口の中にとろけるカカオの香りが何とも言えないおいしさを私の脳内に伝えてくれる。
おいしさが私の顔に出ていたのか、「おいしい?」とにこやかに聞いてくる凛ちゃんに素直に頷いて見せる。すると―――――
「私にもちょうだい!」
にやりとすると、ひょいっと私との距離を一気に近づけて。
―― ちゅっ。 ――
いたずらなリップ音と共に私の唇を何かがかすめていって。
唖然としている私をみた凛ちゃんはとても満足そうに自分の唇をぺろりと舐めると、いたずらが成功した子供のように微笑んでいた。
「りのっちの未来、甘くなるといいね!」
呆然とする私を置いてけぼりにするように、凛ちゃんは「それじゃあ先に寮戻るです!」とトコトコと出口の方へ向かって言った。
「あっ、そうそう!この時間ならまだお姉さまの隣にいる奴が図書館にいると思うです!
それじゃあねりのっち!おいしかったよ!」
最後にそう言い残すと、ぽつんと残された私は一人、自分の唇に残る感触の正体を察知することに、5分くらい立ち尽くすほどだった。
そして気がついた時にはこれでもかってくらい顔が赤くなるのを感じた。
「りんちゃん、私のファースト返してえええええええええ」
誰もいない食堂棟で一人、空しい声が一つ、響き渡った。
「行こう、図書館だっけ……」
未だにその真実を認めたくない自分の心はとりあえずほっておくとして、とにかく自分の課された任務をこなそう。
嗚呼、泣きたい……
「というかおねーさまとりのっち以外にしないですしこんなこと。
というかりのっちの未来、結構心配なのです……」
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わたしは、図書館が好きだ。
この世界にいると、うるさい人は誰も来ない。私をいじめる人は、こういう静かなところを好まないから。必然的にここにいれば、安全になる。
そう言った意味で、私は昔、図書館にいることが多かった。
だから必然と本を読む機会も多くなって。本の世界にいることが、私の中で一番の安らぎに変わっていった。
そんな図書館にいまいるわけだけど……
「凛ちゃんめ……会ったらデコピンくらい許されるはずだよね……」
それどころではなかった。
先程起きた出来事が私の中でまだ整理がつかず、図書館に来てもまだ思考が安定しきっていなかった。
「早くここの人見つけて次行こう次」
一刻も早く先程の出来事を忘れたかった私は、キョロキョロと図書館内を見回した。
しかしさすがと言うべきか、この学校の図書館は全教室の中で一番大きいと言われていただけあり、全く人が見つからない。
薄気味悪い夜の図書館、なんか出そうで怖い。
そんなことを考えていると―――――
―― ペラッ ――
「!!!」
誰かがいる!
音の正体は閲覧室の方から聞こえた。
この正体がお化けとかその辺の類だったら大人しくそこで成仏されよう、とりつかれてやろう。
腹をくくった私は思いっきり閲覧室の方へ走り出した。
「ハァ……ハァ……」
閲覧室の方へ行くと、一人の青年がじっと本を読んでいた。
分厚い本。かなりの長編ものだった。
ずっと集中して私の存在に気が付いていないのか、それともキリのいいところまで読もうとしているのか、私の方へ一切目を向けずに本を読んでいた。
「おいおい大崎、館内は走行禁止だぜ?」
ようやく気がついた彼は私をみるなり読んでいた本を閉じて、注意をした。
注意をしながら微笑む彼の姿に、先ほどとは全く違った胸の高鳴りを感じた、気がした。
「えっと……」
そんな彼は私のことを待ちかねていたかのように笑顔で迎えてくれた。
「よっ、待ったよホントに」
「どうもこんばんは……
篠田さん」
「その言葉、待ってましたよ―っと」
開始4時間、現在時刻午後8時。
4人目の発見者、篠田さんでした。
はいはいりのっち、ファーストは女の子でした←
どうも、森野です。
いやね、色々考えたんだけどやっぱりこれが一番しっくりきてしまったというひどい思考ですよ許して←
というわけで凛ちゃんにものすごい振り回されるりのちゃんでしたまる←
ということで次回はリリスさんの幼馴染さん、篠田さんを発見した模様です。
次回どうなるのか、お楽しみに~←
では、今回はこの辺で失礼します(`・ω・´)