踊る少年
「あそこでなにをしてたの?」
開始1時間にしてようやく1人目、巧真君を発見したわけだけど、彼があそこで一体何をしていたのか今更ながら気になってしまう。
「んー?あそこで?」
「うん、だって鳥があんなにたくさん……」
「あぁ、あれは『ちゃんと』話せるようにするための練習だよ?」
「……へ?」
思わずすっとんきょんな声を出した私に、彼はくすくす笑いながら「ちゃんと説明するね」と言うと一つ咳払いをした。
「ボクは色んな動植物と少しだけ話ができるんだ。植物はまだまだだけど、動物とはだいぶ話せるようになってるんだよ?それでまだ、鳥とだけはうまく話ができないから、少し練習してたの」
にこにこと話す彼の周りには先程まで話し相手だった鳥たちが集まっては私にはわからない言葉で彼に一生懸命話しかけていた。
「落ち着いてカル、ボクはそんなすぐどこかへ行くわけじゃないから、ね?」
そんな彼の姿をみていると、心に陽だまりが宿るような気がして、みていていつまでも飽きることがなかった。彼のことを観察していると「どうかしたー?」と疑問符を浮かべられたが、何でもないとにこやかに返しておく。
「そう言えば他のみんなは見つかった?」
巧真君が鳥たちとの会話を一段落させると、私に向けて笑顔を向けてくる。そんな彼に苦笑しか返せない私に「僕が一人目だったんだね……」と少し残念そうな声を挙げた。
「まぁわかりやすいところにいたしねぇ。しょうがないっか」
「あはは……。そう言えば巧真君―――」
「たくでいいよ。クラスメイトで『友達』でしょ?」
「っ……!」
巧真君の言葉に思わず言葉を詰まらせる。
私は『その言葉』に幾度となく裏切られ、信じることを諦めてこの場所に来たというのに。
どうしてまたこのしがらみに縛られているのだろうか。早く離れたい、そうとしか思っていないのに。
「…どうした?りのちゃん平気?」
突然黙り込んだ私に、心配の言葉をかけてくれる巧真君にふと我にかえることができた。なにをしているんだ、せっかく彼が私に手をさしのだしてくれてるというのに。
「んーん、なんでもないよ」
「ふむぅ……そっか」
一瞬私の目をみてなにかを感じたのかわからないが、一応納得はしてくれたようだ。
「それよりりのちゃん、さっき何を言おうとしたの?」
「あ、そうだ。たくま……たくくん、他の人がいそうなところ、わかる?」
ぎこちないとはいえど、彼のことをきちんと愛称で呼ぶことができた。
そして私がさっき聞きたかったこと、それはこの学校に隠れている残り6人の居場所だ。できることなら手がかり程度のことはきけたらと思う。これだけ広い学校の中で6人も探すなんて何夜あっても足りたものではない。
「ん―……僕もよくわからないなぁ……」
「そっか……」
「でも、僕と考えが一緒なら、1人だけいそうな奴の心当たりはあるよ?」
「ほんと!?」
その言葉を聞くと私は思いきり体を乗り出して彼の話を聞こうとした。
私としてはこれ以上にない有力な情報だ。ここまできたら藁にもすがるような気持ちで、彼の言葉に必死に耳を傾ける。
そんな私を見た巧真君は「そんな期待しないでよ」と苦笑しながらも少し考えた。
「あいつなら多分、音楽室じゃないかなぁ?寮に帰るの、ボク等の中じゃ一番遅いし」
「あいつ?」
「いけばわかるよ。話し聞いてもらえるかどうかわからないけど」
それじゃあ先に寮に行ってるね―、と言い残すと彼は先程の鳥たちの群れの中へ姿を消した。
「音楽室……?」
一体そこには誰がいるのだろう。
6人とも騒がしいところから見て、音楽が嫌いな人は少ないだろうとは思うのだが、その中でも音楽室を好んで出入りしている人なんているのだろうか。そもそも音楽室は先生の許可なく入れたりするのだろうか。
「……いってみればわかるか」
校庭の隅でごちゃごちゃ考えていても埒が明かない。ここは巧真君の情報を信じて音楽室へ向かいしかない。そう考えた私は校庭から校舎へ入り、階段を進んで3階まで行くと特別棟への歩道橋を渡った。
「リリスの言った通りだ」
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空浜学園は校舎、体育館棟、食堂棟、特別棟、部室棟と分かれていてそれぞれ歩道橋で結ばれている。
食堂棟と体育館棟、部室棟は2階の歩道橋から、特別棟は3階から伸びているのだ。
さらに特別棟は別校舎のようになっていて、2階建て。1階は図書館と家庭科実習室である調理室と被服室が、2階には私たちの教室である特例クラスと美術室、そして私が今向かっている音楽室がある。一般生徒からは特別棟は実習室棟とも呼ばれ、私たちからするとこの特別棟自体が本当の校舎のようなものである。
「何も音しないけどなぁ……」
超防音な設備が万全なこの音楽室であるが、ここまで静かな放課後に物音一つすらしないところから見ると、この部屋には誰もいないような、そんな気すらする。しかしこのまま他の部屋へ行ってしまえば同時に巧真君のことを信じていないと言っているようなものだ。もしここにいなくても、振り出しに戻ったと思えばいい。
一つ深呼吸をすると、意を決してドアノブに触れて回してみる。
――開いてる――
音楽の先生が閉め忘れたのか、それともここに―――――
妙な好奇心に勝つことが出来ず、私はそのままドアノブを押した。すると――――――
「――――――!!」
一人の少年が、一心不乱に演奏していた。
この超防音設備がなければ間違いなく学校中に響き渡るであろうその音は、心の中まで揺らされるような感覚を覚えた。
音が歌っている。一つ一つの音が私の心に重く、だけど柔らかく入ってくる。
「……すごい」
思わず声を挙げてその演奏に聞き入る。すっと入ってくるその音たちは、まるで本当に生き物のように音を響かせている。
必死にそれを『叩く』彼は、普段教室でみるような怠惰で叩いているようなものは微塵も感じられず、本当に楽しそうに演奏している。声をかけることすらできない。
「ん……?」
ドン、と最後の音を響かせると、ようやく私の存在に気が付いたのか、少年は額についた汗をぬぐいながら私のことをじっと見つめていた。
その様子を見た私は、思わず声を挙げる。
「み、みつけた!!!
高崎君!」
「ん?おぉ」
開始2時間経過した午後6時。
ようやく二人目、発見です。
なんかね、浮かぶんだよねうん←
どうも森野です。
何かとあると、最近はこの小説のネタがよく浮かびます←他の小説も書いているんですが、最近はこの小説のネタが、ね?←
今回は巧真君が色んな説明してくれましたね←リアルの彼も、こんなほのぼのしてていい人なんですよ(`・ω・´)
巧真君モデルさん、動物と話せたらいいのに←んな無茶な
ということで今回はドラム少年、高崎君を発見。
聞き入る、とは書いてあるけど実際ドラムに聞き入るってどうなんでしょ← 私は基本的にアコギとかそういう穏やかなものじゃないと聞き入れないんでその感覚の真偽はわかりませんが、その辺は言葉のあやってことで、許してください←
次回は彼、高崎君のことをもう少し詳しくかけたらなぁ、なんて思います。
では、失礼します(`・ω・´)