新しい生活
私の新しい生活の始まりは、案外さらりと終わってしまった。
あの衝撃の教室での出来事を除いては。
正直今でも信じられない。
自分のクラスメイトが人間以外の存在と言われて、はいそうですかよろしくお願いします。だなんてさらりと終わっていいわけがない。
むしろこんなことを流せる人を私は見つけ出したいくらいだ。
「はぁ……」
授業らしい授業はなかった。
あのクラスには授業という概念がないらしく、1時間目から6時間目までの間はずっと教室内でワイワイと騒ぎまくるだけの一日だった。
明日は学校紹介と題した学校探検が行われる予定。無論私が転校生なのでどこに何の教室があるか教えてくれるという。
一応建前としては何とかなるが、クラスメイトとしては遊びが3分の2以上、建前的に仕方なくというのが残りの少しの部分だろう。
学校紹介を提案した鈴森さんのテンションからして、そうなることは今からでも明白だった。
「やっていけるんだろうか……」
私は学校といえば授業をするところ、長い時間監禁されて仕方なく勉強をさせられる場所だと思っていたからこんなクラスの転入してきた自分が、正直驚きだ。
私立空浜中学。中高一貫学校でとにかくやんちゃな人たちが集まる学校。偏差値自体もそこまで高いわけではないが、倍率はかなり高いことで有名だ。普通の私立中学と違って、私のようなちょっとあぶれたような人が集まるようなそんな中学なわけだ。
その中でも私が転入してきたクラスは異質中の異質で、”特例クラス”と呼ばれるクラスにあたる。
頭はそれなりにできる人が集まり、高校もあまり他のところを考えていない人が入ることのできるクラスで、気が付かない間にこのクラスに変更されている場合もあるらしい。春登先生曰く、「素行が悪いやつとか、お前みたいに特殊な理由で来るやつとか、そういうのが来るから下手に授業するより自由にやってた方がいいんだよー」なんて呑気なことを言う始末。
「ここ……か」
明日への不安を抱えながら着いた先は、今日から私が住むことになる学生寮“海風寮”。
男女兼用だが、部屋も広くて住み心地はよさそうなところだった。ルールも厳しくて男女間の部屋移動は時間を過ぎると思いきり罰せられるという。
人と接するつもりのない私にとっては、その辺のルールは関係ないだろうと思う。
「あっ、もしかして梨乃ちゃんかしら?」
突然名前を呼ばれ条件反射で体を大きく震わせる。知らない人に話しかけられるとどうも恐怖症が発生してしまう。知人でも無理なのに、初対面に名前が割れてるなんて、なにがあったかわかったもんじゃない。
「あら、驚かせちゃったかしら?」
止まらない体の震えをどうにか抑えようとしながら声の聞こえる方向になんとか体を向けてみるとそこには赤いメガネをかけた優しい面持ちの女性が立っていた。
「一応ここの寮母なんだけどねぇ。覚えてないかしら?」
寮母さん……そういえばここに来た時に母とせわしなく話していた女性と面影が似ている気がするが。
「まぁあんまり覚えてないならそれでいいわよ?とりあえず部屋まで一緒に行きましょうか」
当たり前のように私の隣に来る寮母さんに私は驚いて一歩距離をとる。びくつく体の震えを止めることはいまだにかなわないままだ。
「そういえばまだ自己紹介がまだだったわね。私の名前は中富紅葉よ。ここの管理人だから、何か困ったことがあったらいつでも相談してきていいからね?」
紅葉さんは柔らかい頬笑みを向けると、「さぁ、部屋はこっちだからね♪家具とかは全部そろってるから平気だと思うわよ?」と私の緊張をやらわげるように他愛もない話しを何度もしてくれた。
かく言う私は紅葉さんが隣にいる間は終始体が固まり切っていた。
やはり初対面では口を開けることもかなわないのが現状だ。
「はい。ここが梨乃ちゃんのお部屋だからね? 鍵はこれだから、合鍵必要になったら声かけてね?予備で1つ多めに作ってあるから、何かあったら言うのよ?」
極度の緊張状態に陥っていた私は気が付かない間に部屋の前に来ていたようだった。
目の前の札をみると、「大崎梨乃 206」と書かれたプレートが立てかけてあった。
「隣の205は鈴森さん、207は火神君だからきっと問題ないと思うけどね」
あとは自分で何とか頑張りなさい、と最後に残すと紅葉さんは廊下を先程来た道の方へ戻っていった。
改めて自分の部屋の前の風景を見てみる。
何の変哲もないドアだけど。これを開けたら私は本当の生徒の仲間入りだ。
「……開けよう」
ガチャ。
『りのっちおっそーーーーい!!』
「……へ?」
唖然のスタート過ぎて、自分の脳内が現状に追いついていない。
何が起きている?
どうして、ここにクラスメイトがいるの?
「ほらほらりのっち!早く早く!」
こっちに来るようにせかす小悪魔風の少女。
「待ってたんだからねっ!!」
その隣でヒマワリの笑顔の天使の少女。
「早くしろって!」
そんな少女を暖かく見守りながら呼ぶ天使の幼馴染。
「早くしろ、飯が冷める」
ヘッドフォンを着けたまま催促する男子。
「ほらはやく!たべちゃうよ?」
ほとんどの授業を眠っていた猫耳少年。
「大崎さん、早く!!」
ゲームはあれだけど、それ以外は普通そうな女子。
「お前のことみんなで待ってたんだぞ?主役は早くくるくる!」
みんなをまとめるように暖かい眼で私を見守る委員長。
「……うん!」
自然と顔から、頬笑みがこぼれる感覚を感じた。
ちょっと頑張ってます!
どうも、森野です。
今日はホントに何も考えずにやってたんですけど、とりあえず寮制度の方が何かと動かしやすいんでそっちにしましたw
今回はそんな所くらいしか考えてないですw
ということで、今回はこの辺で失礼しますー!