プロローグ
「落ち着いて大丈夫だからなー」
「は、はぁ……」
緊張していることが伝わってきたのか、担任の夏目春登先生は気の抜けたような声で私の緊張を和らげようとしてくれていた。
「まぁお前の場合、事が事だったからな。そうなるのも当たり前なのかもしれないが……」
先生は私が転校してきた理由をもちろん知っていて、初対面の時は「俺は大丈夫かー?」と聞いてきたくらいだ。
私はこの学校に来る前、ひどいいじめを経験した。
そのせいか、人に対する嫌悪感や憎悪感、警戒心が重なって人間恐怖症となった。
初対面は目を合わせるのがやっと。恐怖感であまり口をきくことができないのが常。最近に関しては親や家族と話すことすらなくなった。そのくらい、“人”というものが嫌いで嫌いで仕方ない。
だが年齢もまだ15歳と義務教育が終わりきってない時期。親の計らいで私は転校してきたというわけだ。
ラスト一年なんだから頑張れと励まされ、半ば仕方なくこの学校もオーケーをし、今に至る。
「多分お前が思っている以上に、このクラスは“おかしい”から大丈夫だぞー」
「……え?」
「さーて、おまえらー。転校生来てるからちゃっちゃと席着けー」
「先生!?今なんて言いました!?」
「シッ!転入生静かにー!」
爆弾発言を残し、普通に教室に入っていく先生を止めることも出来ず、また変な緊張感が私の中を駆け巡った。
“おかしい”人たちの集まり。
そんなフレーズが私の心の中をさらにかき乱してきたのだ。
どんな人たちなんだろうか。人を軽蔑する人じゃないだろうか。私のことをどう思うだろうか。
どういった風におかしいのだろうか。殺人的な感じにおかしいのだろうか。
考えれば考えるほど私の思考回路はマイナス方向へと進み続けていた。
「おーい、転校生!そろそろ中に入ってきてくれー」
先生の発言のせいで人生最大の緊張感の中で私は教室に入るはめになってしまった。
足が動かない。人前に出るということが嫌いだし、何よりもこの緊張の中でちゃんと話せる自信すらない。
最悪のでだしとなれば、私はまた―――――
「ほら、平気平気―」
春登先生の気の抜ける声に誘導されるがままに私の足は徐々に教室へと向いた。
そして教室に入ると―――――――――
声すら出なかった。
「こいつが転入生だぞー。ほら、紹介紹介ー」
自己紹介を促されるが、私の眼に映る“それ”のせいで全く動けないでいた。
ちゃんとした“ヒト”がそもそもいない。
羽が生えていたり、猫耳が直に生えていたり、普通そうに見えても“何か”がちがう人ばかりだ。
おかしい。こんなクラスを私はかつて見たことがあるだろうか、いやない。
「えっと……」
ようやく声が出た。
蚊の鳴くような、そんな掠れた声だけど声が出たのだ。
人前でめったに声が出ない私にとって、これは驚くべきことだった。
そのくらい、このクラスメイトに衝撃を受けたのだろうか。
「大崎里乃です。一年間ですが、よろしく……」
自己紹介が、一人でできた。とても小さい声だったけれども。
こんな自信ない自己紹介をした私に、彼らはどんな反応をくれるのだろうか―――――
「……かっわいいいいいい!!!」
紹介が終わると真っ先に飛んできたのは、金髪の人だった。この教室に入ってきて一番に目立っていた人だった。
黒い羽と白い羽が生えているし、そもそも金髪と言う時点で目立たないわけがない。
さらに言えばかなりの美人だったので、こういう人は大抵人のことを見下してくるタイプなんだけども……
「先生!この子持ち帰っていいですか!!!」
「いや、それはあかんなー」
「いいじゃないですか!減るもんじゃないし!!」
このままだと、私はこの人に持ち帰りされてしまう。
初対面で二人きりになったら、多分私はどうすることもできないと思う。
というかこの人と一緒にいたら、何をされるかわかったもんじゃない。そう本能が告げていた。
「まずは自己紹介からだろー?鈴」
「あっ、そうだったそうだった!」
ようやく自分の素姓が判っていなくておびえていることに気が付いたのか、改めて私の方に向き直ってヒマワリのような笑顔を私に向けてきた。
「私、鈴森リリスっていいまーす!」
「基本的に女子にしか絡まない。大崎も気をつけるこったな」
「どうぞよろしくー!……って高崎ー!!」
鈴森さんの紹介の途中に入ってきた少年はヘッドフォンを着けてなにやら机をぽこぽこと叩いていた。あの状態で私たちの声が聞こえていたのだろうか。
「あいつは高崎紀洋。いっつもヘッドフォン着けてるからこっちの会話聞こえてないと思うんだけど、ああやって地獄耳っぽいところあるから気をつけてね!」
「俺は別に地獄耳じゃない。普通に聞こえるからな」
「あとああやって結構無口っぽいけど、緊張してるだけだからね?転入生って聞いて一番テンションあがってたから!」
「お前の方がしてた」
「あー、とりあえずお前らのいつもの会話はそれでいい。他のやつらの自己紹介もしてくれー」
高崎君と鈴森さんのコントのようなものを春登先生がバッサリ切ると、私はこのクラス全体を改めて見回してみる。
「んじゃま、目立つやつから紹介していこう。
一番廊下側にいるのは鈴森、隣は篠田隆だ」
指を差されたところは後ろから二番目。そこにはからっぽの席とメガネをかけた割と優しそうな人がこちらに笑顔を向けていた。
「篠田隆だ。一応鈴森の幼馴染だから、なんか大変なことになったら俺に相談してくれ構わないから」
「あとたかしはドM気質あるから、いじめられることはないから心配しなくて平気だよ!むしろいじめてほし―――――」
「リリス!その辺は黙っていてくれ!」
「いいじゃん、別にちょっとしたら嫌でもそれわかっちゃうんだし」
「いや、だけどな……」
「あー……お前らの夫婦漫才はその辺でいいから。
次は鈴森の後ろの席の――――」
「おねーさまあああああああ!!どうして私を置いて新しい女の子のところに行っちゃうんですかー!!」
先生が名前を挙げる前に奇声に近いような声を出してこちらにダッシュで向かってきた。
背中には鈴森さんとは違った、黒い羽が生えていた。羽とはいっても鈴森さんは天使の羽で、彼女の場合は小悪魔の羽、と言う方が正しいかもしれない。
「こらこら凛。席立っちゃまずいだろー」
「おねーさまだって立ってます!別に平気だと思います!そんな細かいところ気にしてたらよくないです!!」
「はぁ……。
こいつは梨夜凛。見ての通り―――――」
「おねーさま一筋!おねーさまに近づこうものなら誰であろうと蹴散らすです!!」
「……こう、物騒な所あるから、気をつけてくれ」
背丈はちょっと小さめだけど、発するオーラは時々禍々しいものがあって私の本能がビビりまくっていた。
「んで次の列な。
そこでずっと机叩いてるのが高崎で、その隣がこのクラスの委員長の火神翼だ」
「ちーっす。こんなクラスだけど、いいやつらばっかだから、気楽にいこうぜ」
このクラスの目立つ人の中で、唯一のちゃんとした人間を見た気がする。
銀髪だけど、そんなに怖い印象を持たない彼は、ちょっと暖かい気持ちにさせてくれる。このクラスの安心できる場所かもしれない。
「んで最後の列なんだが……」
一番窓側の席に目を移すと、そこには先ほど言った猫耳が直に生えている人がポカポカとしたこの陽気にやられて、ガッツリ眠っていた。こんな喧騒をもろともせず、ぐっすり眠っている。
「あいつは桐ヶ谷巧真。寝起きが一番可愛いからな。
よし鈴森、起こしてきて来いよ―」
「はーいー!」
春登先生に促されて鈴森さんは眠っている猫耳少年のところへ一直線へ走って行き……
「たーくー!」
「……んみゃ……?」
……殺人的可愛さでお目覚めになった。
猫耳らしきものがぴょこぴょこ動き、気持よく眠っていたからか目をクシクシとさせ、挙句の果てには寝起き一発目のあの声である。こんなのを見せられたら、悩殺されない方がおかしい。
「「……!!」」
クラスにいた全員が一瞬机やらいろんなところに顔を伏せ、悶えている位に。
「……その隣にいるのは横峰伊澄だ。
名前にだまされるな、とだけ言っておくぞー」
巧真君の殺人的な可愛さにみんな悶えていたけど、その中でも一番悶えていた少女を指差して、先生はうんうんと頷いていた。
彼女の片手にはゲーム。今話題の携帯ゲームのPSOだ。
どんなゲームをやっているのか少しのぞいてみると……
「・・・・・・」
とりあえず何も見なかったことにする。
別に男同士がなにをしていたところで、私には関係ないしね。だってゲームだし。
「んじゃ大崎は巧真の後ろの席で。別にホームルームもすることないし。授業は……別にいっか」
私のことを促して先生は教卓に座ると、そのまま突っ伏して寝てしまう始末。
私は思う。
どうしてこのクラスに来たんだろう。
これから始まる学校生活。
個性的、なんて言葉じゃ聞かないクラスで、果たして私はやっていけるのだろうか。
一抹の不安の中、私の学校生活がスタートした。
見えない翼の代理作品なんだけど……
ちょ、プロローグなげぇよww
と言うことでどうもお久しぶりです、森野です。
今回は別に投稿する作品でもなく、自分気楽に書く作品として書かせていただきますw
ホントにこれと言った意味もなく始めたので、またカメ更新ですが、よろしくお願いします←
自己紹介枠ってことで、こんなかんじになりました←
登場人物、多いよこんちくしょう←
まぁモデルの人全員出そうってことで出したんですけど、そうなるとこうなるって……わかってたさ、わかってたんだけどさっ←←
ということで、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m