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クサリス

今回は説明回…


上手く本編中に説明できれば良かったのですが、主観表現だと難しくて…


この国における宗教観と種族を説明しております。

 夜を通しての道行きは、朝日を見る頃には街に辿り着いた。

 街の名は『クサリス』…

 近辺ではそこそこに大きい街で、周囲の町の中心交易地ともなっていて、人の行き来は激しい。

 国境とはそれなりに近いが、外壁は存在せず、広がるがままに街は巨大になりつつあるようだ。

 ただ、外壁が存在しない代わりに、幅も深さもある堀が幾重にも作られ外敵の侵入を拒んでいる。

 中央市街…と呼ばれる行政区に辿り着くには堀を5つも越えなければならない。

 中央市街・第1市街…と続き、最外周は第5市街となる。

 それぞれに住宅地や商工地、農耕地、貯水池を持ち、何かの際には相互支援も可能という…この国では典型的な都市形態だ。



 その中の第3市街に住居兼店舗を構える『エイヴ商会』はこの街でもそれなりの資産家で、総合ギルドにも支援している実力者だった。

 単純にギルドといってもこの国の形態は変わっていて、戦闘技術や解決を主に扱う『戦士ギルド』、探索・調査技術と知識精査を扱う『学術ギルド』、物品の製作・販売・管理を扱う『商工ギルド』…そしてそれらを浅く広くまとめた『総合ギルド』からなる。

 各専門ギルドは総合ギルドの上位組織として扱われるが、建前としては4つのギルドは同格で、それに加え、行政・治安を預かる執行部の5つで街は運営されている。

 その5つとは独立した組織として『教会』があるが、この国では教会関係者は、どれだけ力をもっても国・都市・街の運営には関わらせない方針で、教会は独自の収入源を持つことも許されていない。

 寄付を集めることも国法で禁止されており、違えばその教区は総入れ替えされる上に、直接関係者は永久に奉仕奴隷となる。

 国の運営が軍事に依る処が大きく、さらに自国防衛の為とはいえども、周辺国との戦争による人質などでも収入を得ていることもあって『宗教』は思想学問の1つであり、個人の嗜好以上の価値を与えていないのである。

 また、神、魔、精霊などの外見、固有能力の異なる種族が実在し、稀ではあっても交流があることも宗教が学問としての価値しか無いことを裏付けている。

 他国であれば、人の上位種や下位種として、信仰・迫害されてもいたりするし、実際にそのように扱われることを当然とする種族集団もあったりと、国政に大きな影響力を持つ場合もあるが、この国では関係のない事である。

 そして、その方針の違いが『異端国家』・『異教国家』として、殲滅戦争の理由にされてもいるが、周辺国家が束になって軍で国境を越えても…追い返されるだけで、概ね平穏な国である。



 「この度は、当親子の災難をお救い頂き、誠にありがとうございます」


アダムス親子はエイヴ商会の建物に辿り着くと、俺とティルに深々と頭を下げた。


 「まずは当商会にてお身体を清められ、ごゆっくりとお休みになりますよう、お願いいたします」


 疲れてと言うほど疲れてはいないが、戦いの後でもあり身体は清めたいのでその申し出は受けることにする。というか、それを報酬としても良いくらいである。

 

 ティルとは時間差で身体を蒸した手拭いで清め、かけ湯でサッパリした頃に身支度を終えたアダムス親子も改めて応接間に現れた。

 アダムスは重ねて礼を言うと、こう続けた。

 

 「さて…ファーム様には失礼ですが、カイザート様には我々親子、命を救われました…


 私共の流儀は『利には利、損には損、恩には恩、仇には仇で返す』というもので…運にも恵まれて商売も順調であります」


 利も損も等しく分け合うなら信用も付くというものだ。


 「その流儀に従えば『命には命』で返さねばなりません…かといって、この命でお仕えするにも、私共も商会関係者への義理・責任もございます。

 そこで…私の代は可能な限り、カイザート様への便宜を図らせて頂く事でお返しとさせていただきますが…娘は…いずれは外へと嫁いで行く身…ご容赦いただければ…」


 俺としてはそこまでしてもらう程ではなく、たまたま道行きが同じだっただけの事。そしてたまたま…俺に助ける力があっただけの事…


 「そこまでしてもらう程ではないですよ…本当に『たまたま…』だっただけで…強いて言えば、この街にしばらく居ようかと考えていますので、幾ばくかの資金を頂ければ…」


 まぁ、金で済ませるのがお互いの為…だろう。


 「でしたら、私所有の住居を…お譲りと言っても受けて頂けないでしょうし…お貸しいたしましょう…それと…生活のたつきの方のお当てはお決まりでしょうか?」

 「当分の遣り繰りはできる程度の用意はありますが…」


 多少の金銭はあるが、いつまでもつかは判らないので、言葉を濁しておく。


 「でしたら、ギルドに登録されてはいかがでしょう? カイザート様の戦士としての腕前は見せて頂いておりますし、私も便宜を図りやすい程度には影響力を持っております」


 すでに用意されていた茶と茶受けを口にしてアダムスがそう提案してきた。


 「戦士ギルドに登録する気はない…戦争に駆り出されるのは御免だ…」


 皆兵制度に基づく訓練はともかく、有事の強制徴兵など所属する上での義務は背負いたくないというのが本音だ。

 面倒というのが第一の理由だが、いつ…この街を離れて流れるか判らないのだ。


 「でしたら、総合ギルドだけに登録なされては如何です? 依頼を達成すればそれなりの収入にはなりますので…」


 アダムスはそう提案する。

 こちらの身を心配して…という気配はわかるし、時間の遣り繰りも自由なので、妥当な案として受け入れようと思う。


 「…それくらいはな…」

 「でしたら、今夜はここへお泊りになり、明日、ギルド近くの家にご案内します。ファーム様も今夜はお泊りになってください」


 要件は終わりのようで、アダムス親子は席を外す。なにやらファームは放置のようだが、礼金くらいは出すだろうし、護衛についたとはいえ、一度の戦闘も無かったのだからそれくらいで妥当だろう。



 ともかく、ここ『クサリス』で、しばらく生活することになった…

お気に入り登録を1件いただいているようで、ありがとうございます。

励みになっております。


よろしければ皆様のご感想など、いただければありがたいです。


正直、最初は信じられなくて、リアルの友人に「登録した?」と聞きまわった位でして(笑)

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