クサリス 皇国騎士学園(2) 初講義
作中の技術論は作者の想像の域を出ません。
色々な術理はあると思いますし、それを否定するものではありませんので、
あしからず…
騎士学園の講師としての採用の連絡をアダムスさんより貰ってから更に10日の時間を学園から準備期間として貰い、俺は商工ギルドで期間決めで空き工房を借りた。
条件は
『鉄を溶かせる炉がある事』
『地下水を汲みだす井戸がある事』
の2つである。
というのは、フィーの事を考えると力で振り回す『剣の類は向かない』と考えたからだ。
身体が成長期の女性…という事を考えると、様々な条件で男性と同じようには戦えないからである。
そこで俺は『刀技』という…力ではない技を仕込もうと考えた。
まぁ、単純に『少数の廃れかけた技術』で終わらせたくは無いというエゴがほとんどなのは認めるが…
そもそも『剣技』とは力任せに叩き割る斧と似通った技術であり、その点でどう足掻いても身体的有利を埋めることはできない。
もちろん『刀技』も身体の有利は覆せないが、『剣』よりも技術でその差を埋める範囲が広い。
『力』は天分だが『技』は工夫と努力だ。
そして『刀』は細身で華奢な見た目から『細剣』の類に見られる事もあり、初見で相手が『侮ってくれる』という戦術的利点もある。
だが実際は刀もほぼ同じ長さの剣と同程度の重さがある…見た目より重い武器である。
学園への講師勤務開始までの合計30日を利用して、一時借りした工房で刀を3振り鍛え上げた。
同じ鉄から3等分して打たれたものだ。
拵えは堅い古木を合わせ、削りだして黒く光沢の出る染料で染め上げた鞘と麻の黒染めの平紐を組み巻いた柄…鍔まではさすがに手が回らないので、手抜きの小さな物で済ませた。
全く同じ拵え、同じ鉄でできた…鉄は素材を購入して重ね鍛えた物だけども…(造り込み前の鍛鉄で量が購入時の3割まで減ったのには驚いたが…)
それなりの出来栄えだ。外に出しても恥ずかしくは無い。もっとも…刀が希少な武器なので珍しがられて目立つだろう。
とりあえず…そういった個人的な準備を終えて俺は学園へ初講義の為に向かった。
学園の園長室で講師の説明は受けており、今更確認する事も無いので、出講の挨拶だけを済ませ、講義に参加する。
といっても、すぐに講義の全てを受け持つ事は無く、まずは専任の講師の補助からである。
誰も、どこの誰かも解らない…実力も知れない者の講義など受けないからだ。
講義補助で顔を名、まずはそして実力の程を売り、そこから初めて受講希望者を募る事になる。
更にこの学園は年齢、性別、出身も思想も…様々で一括りにはできない。
もちろん反皇国主義は排除されるという一点での括りはほぼ確実といえるだろう。
戦士ギルド出身者は何らかの戦闘の経験者で、そこから皇国の騎士を目指しているものだろうし、王侯貴族の身分の子弟も軍の指揮階級への教育を受けに来ている。
もちろん純粋に騎士資格だけを求めている者もいれば、本当に騎士を目指している者もいる。
そういった雑多な思想目的の者に平均的な教育を施すのは難しく、また無限に時間を使う事も無意味であるため、分野毎に本人が必要と思われる『技術・知識』を選択して受ける事が出来る方法を採っている。
俺は講師採用試験での実技で5人の講師希望者を勝ち抜いていた…
「紹介します。今日からしばらくの間、学園で講義の補助をしてくれるカイザート先生だ。」
「このような時期からですが、主に戦闘技術を教える事になりますリーフ=カイザートです。よろしくお願いします」
元々の講師の紹介で初学年生徒の前に立つ俺。生徒といっても戦士ギルドなどで実戦の経験のある者もいれば、まだ子供の域を出ない者もいる。
「では、カイザート先生にはとりあえず後ろから10人、受け持ってもらいますのでよろしくお願いします」
「はい」
「では、解散」
簡単な自己紹介も済ませ、そこそこに広いグランドに生徒達を散らばる。
で、受け持ちのグループを見渡せば…フィーの顔も…
「フィー…じゃなくてサティンさん、このメンバーの説明、できる?」
「はい…この教室で総合的に成績の低い順で10名…です」
改めて見れば、不機嫌そうなヤツ、落ち込んで下を見ているヤツ…などなど…
共通点は体格…というか筋力的に細身で…純筋力では標準程度の連中と女子女性…実に7名が女性である。
「えーっと…君達は…多分、戦闘実技であまり成績がよろしく無いという認識でいいのかな?」
認めたくは無いのだろうか返事が無い。
「いままでどういう風に習って来たかは知らないけど、今から俺の講義は技術面を中心に進めます。
というのは今の主流剣技は筋力、体力を前面に押し出したものだ。
けど俺がこれから教えるのは思考と技術を中心としている。
筋力、体力は持って生まれた身体性能と努力だが、技術と思考は純粋に努力と修練だから、女性、子供、老人…でも時間さえ使えばそれなりの域にたどり着く事が出来る」
一度、言葉を切り、メンバーが俺の言葉を聴いているかを確認する。
「もちろんどんな戦いにでも体格の有利は確実に存在するがそれは人の域だ。モンスターを相手にする事と比べればどうというほどの差じゃ無い。
『人の範疇』でなら体格は絶対の勝利を保証するものじゃない…」
そしてこう言い切る。
「対人戦闘という枠を出ないのであれば、思考と技術で体格で劣る者にも勝つ見込みは十分にあるんだ」
まずは考え方から入る。
攻撃には必ず『起点』が存在する。
例えば剣で縦方向に切りかかる場合、必ず振りかぶるという行為が必要だ。その行為の始点を指す。
そこさえ妨害できれば切りかかる…事が成立しない。
そういった攻撃の起点…を潰す事の重要さと、戦闘行為の中で起点となる動きを実際にゆっくりと身体で示しながら教えていく。
その上で『起点』を潰すための『速さ』の重要性を説く。
速さの基本は安定した下半身である事も合わせて説明し、戦技において、相手の起点を潰し、こちらの起点を潰させない…という考え方が必要な事を説明する。
「実際、こちらの攻撃の起点さえ潰されなければ攻撃はできる。当たる当たらないは別として…だけどね。そこは予測と判断の要素だ。
だけど、攻撃ができなければそもそも生き残る事は出来ない。戦うという事はそういう事だ。」
そして単純な動作の反復練習に入る。小さな動作で最速の一手を繰り出す練習だ。
「これから時間があるときはできるだけ、今日おしえた動きを練習する事。それこそ無意識にできるようになるまでね」
そういって初めての講義は終了の時間を迎えた。




