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クサリス  狩り

夜の蜥蜴戦…


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遅くなり、申し訳ありません。

中々筆?が進まず…ズルズルと今日まで来てしまいました…


これに飽きず、見てくだされば幸いです。

 荷馬車の荷台の上で横になっているティル。

 簡単な歩哨でそばを離れているクリス。

 月明かりで意外と明るい夜空に焚火が爆ぜる音と…夜行性の蜥蜴の狩猟音…


 蜥蜴はその全高の低さから矢や投擲槍などの射撃武器に対しての抵抗が高い。堅い鱗と着弾角度から弾き易いからである。

 そうなると極端な放物線を描く真上からの射撃を狙うか。近接しての叩き付け的な真直斬撃、打撃が中心となる。

 だが離れている相手に攻撃手段を持たない蜥蜴も近接すれば脅威である。

 堅い鱗による強靭な防御、素早い動きと力強く強靭な顎による噛み付きからの引き倒し、そして鋭い爪による引っ掻き…

 その場を生き残っても数時間後に訪れる嘔吐や発熱、悪寒などの発病からの死…

 それらをもってして獲物に対する集団戦を仕掛ける組織性もあり、知らない探索者なら中級者でも危うい相手だ。

 そういった危険性から避けて済む相手なら避けるべきなのだが、今回は大猪の処理で肉や内臓、血を野営近くに埋めている。

 血の匂いは意外に強く、また焚火やこちらの体温といった熱源は彼らに『獲物』の存在を示す情報であるので油断はできない。

 ただ、蜥蜴は『敵わない』と感じれば群れごと逃げだす習性もあり、一定の数を仕留めればしばらくは安全(であろう)が確保できる点は楽とも言えた。


 土を掘り返す音が聞こえる。

 大猪をまだ明るいうちに処理した辺りからだ。内臓や肉、そして血の匂いが蜥蜴を誘ったのだろう。

 そうなればそれほど離れていないここも襲われる可能性がある。

 俺は外していた長尺剣と長剣を帯びて荷馬車の荷台から降りる。


 「ティル、クリスとここの護衛を頼む」

 「了解…気をつけて…」


 俺の意図を察したのか、ティルが短く告げた。…それには応えず静かに音源に向けて歩を進めた。


 20mほど進めば大猪を処理した穴に辿り着く。その手前で息を潜め音をできるだけ立てずに…星明りしかない暗闇に目を凝らす。


 (3匹か…)


 腰を落とし、身を潜めながら更に近付く。そして後ろ手に長尺剣を左手で抜く…

 切っ先を背後で隠した長尺剣は上手く月明かりを背後に反射し、蜥蜴達には気付かれていないようだ。

 1秒が数分にも感じられる緊張の中、腰を落として僅かずつ穴を掘り返す蜥蜴に近付く。

 皮膚感覚で風の流れを確認し、俺の匂いが蜥蜴の方へ流れないように…



 そして…目標と定めた蜥蜴の横を一気に駆け抜ける。

 気付いた蜥蜴が警戒音を発する前に真横に辿り着き、制動をかける…反動を腰と肩の回転、腕の振り子運動に変えて長尺剣を掬い上げるように一気に振り抜く。


 俺の剣技(実は刀技なのだが)は何より振りの速さと正確さを第一として組み立てている。

 太刀筋の速さは太刀そのものの重さに勝る武器であり、より早い一撃はより重い一撃を超える。


 例えば…『2の重さの武器を3の速さで振り抜く』のと『3の重さの武器を2の速さで振り抜く』のでは、前者が1.5倍の威力をもつ一撃なのだ。


 十分な加速で鋭さと重さを得た長尺剣が1匹の蜥蜴の左側の前後脚をその下の大地に傷跡を付けて斬り飛ばす。

 下から振り吹かれた左腕は頭上を旋回し、止まる事無く蜥蜴の背中に振り下ろされ…強靭さで鎧にまで使われる鱗と外皮を斬り裂き、太い胴を輪切りにする。

 頭上から真直に振り下ろされた長尺剣が蜥蜴を斬り裂き、切っ先を地面に喰い込ませた感触が腕に伝わるとほぼ同時に、今度はその切っ先を浮かせ次の蜥蜴の横腹に突き入れる。

 蜥蜴の腹筋が締まる前に勢いよく切っ先を少し捻って…蜥蜴の体内に空気を送りつつ…骨に引っかかったまま抜き、俺の身体が反時計回りに旋回する。

 丁度、一周の旋回を終える直前に膝を落とし、旋回の勢いに長尺剣の自重による加速を加え…3匹目の蜥蜴の背中に叩き降ろす…


 人間なら即死の重体にもかかわらず、まだ生命力を示す蜥蜴3匹をその場に残し、おれは荷馬車に戻った。

 蜥蜴は共食いも珍しくない種で同族3匹が『獲物』と化したいま、荷馬車は一応の安全が確保できたと考える。

 最初の3匹に釣られ、それらを喰い始めた他の蜥蜴を、後から来た蜥蜴が襲い…勝った方も負傷し…それらを更に後から来た群れが襲う。

 その連鎖が形成され、夜明けまで続くだろう。

 蠱毒の壺と化した蜥蜴の共喰いに参加する群れの中には道中で俺達の荷馬車に出くわすものもあるだろうが、先の音と血と肉の匂いに勝る魅力はないだろう。

 蜥蜴達の戦う音と咀嚼音を我慢し、思い違いをする群れを追い散らすためだけの警戒さえ怠らずにいればこのまま夜明けだろう。


 そして…夜が明ける。



 日の出と共に昨夜の蜥蜴の…確認に向かった。

 それは悲惨な光景を残しそこにあった。

 数えるのも馬鹿馬鹿しい蜥蜴の喰い千切られた共喰いの残滓…強靭な顎でお互いを噛み千切り合った名残である。

 遠間から見ている今でもその中で同族の肉と内臓を咀嚼する蜥蜴達が見える。

 十分な獲物を前に相争う必要も無くなったのか、体中に傷を負った数匹の蜥蜴が喰う事に専念していた。

 その彼等も傷が早く癒え、体力を取り戻せなければ他の同族の餌となる運命だ。



 昨夜の蜥蜴を切ったまま、鞘に納めずにいた長尺剣の剣身を煮沸油に浸し、病気の対策をする。

 

 「………」


 蜥蜴の屍骸の群れを遠目に見たクリスは何も語らずそれを見つめていた。

 ギルドで紹介され、簡単な自己紹介は移動中に済ませたが、ギルドに冒険者として登録し、戦士ギルドで初歩の教練を終えたばかりだという。

 教練は今期の次席と優秀な方とはおもえるが、所詮は教練…

 血肉に成り得ていない『型』通りのものは実戦では力不足だ。

 お遊戯で得た『型』を実戦で洗練し、自分の流儀で身につけて初めて生きた『実力』になっていく…全ての『戦技』というものは…そういうモノだ。



 クリスは自分の常識外に『心と思考が凍結する…』ということを初めて体験した。

 目に入ってくる光景は…初心者向き…でも。初心者に1対1でもきつい…モンスターである肉食蜥蜴…の大量の屍…

 見ればそれら全てが人の手で行われた事ではないというのは想像できる。

 だが…

 それを成す人の手がある事は目の前の情景が証明している。

 目視だけでも10や20の数では済まないほどの元蜥蜴だった部品達…

 蜥蜴の性質を知ればこの手も手段の一つであり、比較的に容易な手であった事は判る。

 判るのだが…

 それを採れる…という事が問題なのだ。

 知っている…だけでは思いつかず、思いつくだけでは…行えず…至らない…

 最小の危険で最大の結果を得る事が出来る…情報と行動力。

 これは他の種のモンスターを相手にしても通用する手段である。

 『種の性質を利用して、相手を望む方向に誘導する』という手法は、モンスターの種、人の種を問わず、全ての『敵対的・中立的な』相手に通用するのだから…


 クリスとリーフ、ティルは帰り仕度を終えるとクサリスに向かう街道へ合流し、街へ向かう。

 別段、疲れたという事もないし、出来事しては大した事は起きていない…クリス以外には…

 帰りも…とくに何が起こるでもなくのんびりとした道行だった。


次はもう少しテンポよく進めたいなぁ とか思いますが、

未熟者ゆえ…


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