クサリス 相方
初依頼…夜…
ティルとリーフの距離が少し近付きます…
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ティルの心の描写、うまく伝わればいいのですが…
クサリスの街から馬車で半日ほどの道程。
下草と細い木々が疎らに生えている…草原??ともいえないような平地。ここが大猪の狩場である。
遠目に大猪や鹿、大型猫種の獣類…そして蜥蜴の姿がちらと伺えた。
主要街道がこの平地の中を通っている為、ある程度の安全は保たれているが、野生の獣に人間の安全に気遣ってやる理由はなく、必要なら捕食の為に容赦なく街道を通る人を襲う。
その対策として定期的に街道周辺の獣を狩るという依頼がギルドから発注される。そして、狩られた獣は使える部位を素材として各種商工に売りに出され、それをギルドの副収入としている。
「昼間はこちらで警戒しますので、クリスさんは夜、ここで馬車の護衛と野営の警護をお願いします」
「判りました。では僕は休息させてもらいます」
馬車の御者もしてもらっているし、夜の事を思えば、昼寝でもしてもらうべきだ。だから『否』はない。
「ファーム、街道の右側で頼む。 俺は左側に回る」
「はい、…では、行きます…」
すごく静かに…囁くように告げたファームは、それこそ風のように軽やかなステップで平原を駆けていった。
(さすがに速い…)
その後ろ姿を見送ると俺も大猪と蜥蜴を目指して歩いていく。
歩く事数分…
一際大きい大猪を発見した。距離もそれほどない。
大猪は厚い皮と針金の様な硬い獣毛を持ち、下顎から太く短い牙が左右に突き出している…突進系の獣だ。
直進とターンを繰り返すので、知っていれば戦うのにそれほど苦労はしないが、その速度と硬い毛皮に守られた体躯は傷つけがたく…戦うに易し、抗うに難し…といった存在だ。
セオリーとしては投擲槍で正面を遠距離から顔を狙う…
猪の身体の側面は突撃中は元々の硬さもあって弾かれやすいが、正面は相対速度も関係し、強烈な刺突を加えることができる。
口や鼻、目といった硬い毛皮で守られていない部位に当たればそれで終わる。
が、それが『比較的にマシ』というだけのことで、容易くはいかないのが常である。
突進してくる大猪のギリギリ右側面にステップし、長尺剣を猪の側面に斜めに添えるように当てる。
その時、両手で支え、さらに長尺剣を肩に当てることで俺は『俺の自重』さえ利用して大猪の突進による衝撃に耐える。
俺の側面を駆け抜けていった大猪の右側面から赤い飛沫が散った。
だが、一撃程度ではその生命を刈り取ることはできない。
次の突進に備えステップ時に先に地に付いた左足を軸に半回転。猪に正面を向ける。
鼻息も荒く次の突進加速を始めた大猪に同じ要領で斬傷を与え、失血による体力の低下を待つ。
これが消耗を抑えつつ、猪を狩る戦い方だ。
…大猪が自身の突進の勢いを支えきれず、転がり…大地に伏す。
怒りに燃える瞳はまだ勢いを失ってはいないが、失った体力は意思で支えられる域を下回り、立つこともできない。
だが、迂闊に近づくと『最後の一足掻き』でこちらが致命傷を負いかねないので、いましばらくはこのまま放置するしかないのだ。
俺は近くに脅威となるものが無いことを見回して確信すると次の獲物を定めて駆け出した。
平地に緩やかに流れる風に身を任せ、リーフの指示に従ったティルは獲物とするべく目標を探す。
少し離れた処に川でもあるのか、風に水の匂いが乗っている。
狩りの為に後ろで編みこまれた透明感のある銀髪が風に煽られて緩やかに揺れる。
振り返れば少し遠くに拠点にした荷馬車。
クリスという補助の戦士が夜の薪に使う枯枝を集めている。
(さて…始めるか…)
改めて周囲を見回し大猪を探す。数頭の大猪を発見したがここからでは少し遠い。距離にして大体…100mといった処か…
手持ちの投擲槍を3本、地面に突き立てる。周囲の下草より少し背の高い目印の出来上がりだ。
そして左手に持ったままの1本を後ろ手に助走をつける。
(もう少し…)
秒数にして3・4秒を助走に使い一気に距離を詰める。全力ではないが十分に加速すると、目標と定めた大猪に向けて投擲槍を放つ。
まだ距離のある大猪に向かって重い投擲槍が浅い放物線を描いて飛翔する。
ティルの助走による加速と…放物線の頂点から弧を描き落下する勢いを得て、投擲槍は大猪の硬い額を………貫通しその穂先を大地に突き立てる。
大猪は死の声を上げる事もできず絶命した。
仕留めた大猪を引きずって荷馬車に戻り始める。
槍は大猪に突き立てたまま…抜かないように引っ張る。さすがに重くて担いで…というわけにはいかない。
また解体作業は時間がかかり人手も必要な為、その場で…というわけにはいかない。
適当に荷馬車に近付くと大猪を置き、近くに穴を掘る。
大猪の解体時に出る血や、不要な内臓類、そして食用には向かない肉・骨を落とすためだ。
そうして穴を掘っていると、自分と同じく、大猪を引きずってリーフが側に来た。
「さすが…一撃か…」
私の倒した猪の眉間を貫通したままの投擲槍を見て彼が言った。
そういう彼の側には左側だけを切り裂かれた大猪がある。
大猪の基本的な狩り方は私が行った投擲槍やそれに類する重量物投射武器による遠距離射撃、もしくは落とし穴に代表される罠であり、次策として戦槍、戦鎚、戦斧などの重量武器での打撃や刺突である。
大猪の毛皮は切断にかなりの抵抗があり全く向かない狩り方である。
(てっきり、罠を使うのだと思っていたのだけれど…)
さすがに黒龍を単騎で討ちきっただけの戦士である。と合流してからの彼の仕草からはまったく伺えない事実を改めて認識する。
この日は2人で2頭の大猪を狩り、解体して夜を迎えた。
夜は蜥蜴の活動時間でもあり、油断はできない。
特に火を嫌うわけでもなく…というか、どうやら熱を感じる器官があるようで、かえって集め易いのだが、明かりが無くても襲われるのに変わりはなく、明かりがないとこちらの自由がきかないので止む無しとうことだ。
それに街道沿いはそれなりに整備もされていて、蜥蜴も『襲う危険』を本能で察している。
大猪ほどの突進力はないが、闇夜に淡く光る青白い目と背が低く俊敏に駆け回る蜥蜴はまた違う意味で対処が限られるモンスターだ。
平原を蜥蜴が走り獲物を捕らえる狩猟音は旅慣れない者には肌寒いものがある。
襲われれば対応もするが、積極的に狩りに行く対象でもないので、火の番と荷馬の警護をクリスに任せ、俺とファームは荷馬車に離れて座る。
明るいうちに狩った大猪2頭の皮は煮沸した油に一度浸し保管している。
大猪、蜥蜴ともに肉は食用に向かず、食べるための適切な処置には手間と時間がかかり、それを間違えば、かなりの運と体力に恵まれた上で適切な処置を10日以上、受けなければ4・5日以内に血便と嘔吐に塗れながら死ぬことになる。
当然、血にもその原因はあるようで、使用した俺の剣、ファームの投擲槍も煮沸湯に浸す処置を終えている。
今思えば、なぜ私はこの人と一緒にいるのだろう?
元々は住処を離れ暴れているという黒龍を確認に向かったのがきっかけだ。
単純に人族が黒龍の討伐隊を差し向け、争いになっているのだろうと想像していた。
だが…
実際に戦場に近付くと人族の集団の痕跡は見受けられず、また戦場となっている場所もただの平地で戦いになる要素は無かった。
そのような状況で幾度も咆哮を上げる黒龍…
戦乙女たる私でさえ、まだ遠くから聞こえる咆哮だけで手足は震え身体は動かなくなる。
『龍殺し』に挑む連中が稀に存在し、敗れることはある。
それだけに『龍殺し』という不可能を成し得た者には比類なき名声が得られる。
過去に達成した者が僅かにいるが、それは『1頭の龍』に対して、数千人の軍隊による『数の暴力』で達成したもので、それでも罠、毒物などの補助手段を可能な限り実践した上でのことだ。
それだけでも生き残った者には栄誉となりえるほどの存在…それが『龍族』というものだ。
数日に渡る黒龍の戦闘…その暴力の残滓も冷め止まぬ間に収まった戦いの気配。
終わったであろう戦いの確認に向かったその先で、倒れ伏し死の間際の黒龍と…彼…
黒龍の最後の言葉を私は心に刻み、彼の存在に『印』をつけた。
もし…生き残れば彼は『単独での龍殺し』を達成した最初で唯一の戦士である。
そして数日…私は一人、思想に耽る。
普段の生活に戻り、いつもと変わらない時間を過ごしていても、ふと『彼』を想像し、思う。
そんな時間が過ぎる…
何故?を考えないわけではない。その理由を知るために、思い切って彼を確認しに小さな村へ赴いた。
村人と他愛無い平穏を過ごす彼…多少の起伏はあったものの、人の生活としては在り来たりの日々がそこにはあった。
そんな中でのちょっとした問題…村人が賊に襲われる…に、仕舞い込んでいた武具を纏い駆けつける彼…
そして戦士としての振る舞いを現す…
(その時から…私は彼に心を奪われた…)
そう思う。
彼をもっと知りたくて、街道を先回りして待ち伏せた。
そして今に至る…
勇気を出そう…彼の側に居る為に…
「あのぉ…」
「ん?」
ファームが松明の明かりを挟んで横に座っていた。食事も終え後は仮眠を取ろうかという時間…に話しかけてくる。
「…お願いが…」
で、言葉を一度切った。
俺は黙って視線で先を促す。
「…一緒に生活することになっているわけですし…私の事は『ティル』と…」
「…わかった…次からはそうする」
何を言い出すかと思えば、そんな事だった。
それくらい、大したことではないので了承する。
(ったく…何を考えているんだか…??)
昔から『女性』の考えていることは理解できない…できたことが無い…
俺は息を長くゆっくりを吐き出した後でこう続けた…
「なら、俺の事は『リーフ』でいい…」
多分…いま…初めて『生活』する上でのパートナーになれたのだろう…
初依頼の行程 夜までです。
展開が遅くて…申し訳ないです。
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