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夜食と各々の事情

「現在のところ、テロ集団の具体的な目的や沙那君を欲しがる理由は不明です。が、政府は全く交渉を試みず、彼を素直に引き渡そうとした。だから、ボクはエンプレスさんと協力して保護したんです」

「でもォ、マスコミも知らないのに、どうやってそんな裏チックな情報を?」

「実は……4ヶ月前の事件の直後、ボクは政府に出頭して一部始終を話しました。PFRSと自分に関わる人達の身に何が起き、『神の設計図バイタルズ』がその後どうなったかを。そして、神の設計図バイタルズを海底から回収するためのサルベージ班が編制され、ボクは特殊な接触を経験した者の生き残りとして、政府にアドバイザーという形で一時的に雇われたんです」

「なあ~~るほどォ。だから、裏情報を耳にできる立場にあったってワケだね」

「ええ、現政府には正直失望しました。テロリストの要求に容易に屈し、こんな小さな子を差し出そうとするなんて……あんまりです」

 蒼神博士の相変わらず分かりやすい感情が、ハッキリとその顔に出ている。

「で、私は同じ頃に内務庁に出頭していて査問を受けていた。結果、功罪相半ばするということで、審議延長により政府管轄の施設に軟禁された状態だった。そこで蒼神博士から水面下で進む裏取引きの情報を聞き、施設から脱走したワケよ」

 エンプレスは腕組みしながら淡々と経緯を話す。

「ありゃま……それじゃあ、博士達は指名手配中ぅ?」

 茜が首を傾げる。

「ええ。一般メディアにはもちろん公表されていませんが、茜さんの隣に座る二人も手配されています」

「へぇ~~、あ……そうだ! 初対面なのに自己紹介してなかった! わたしの名前は柏木茜☆ ブルマから透ける下着のラインがとってもセクシーな19才☆」

 何故かテーブルの上で女豹のポーズ。

「…………」

「…………」

 スターとデビルの両名は冷やか視線と沈黙で返す。

「その二人は私の元同僚。内務庁に出頭する際、同行して福祉施設に引き取られたのを脱走ついでに拾ってきたワケ。コイツ等は双子で姉のコードネームが『スター』、弟の方が『デビル』」

 仕方ないんで二人に代わりエンプレスが紹介する。

「ふぅ~~ん、デビル君っていうんだぁ。仲良くしましょうねえ★」

 テーブルの上から少年を見つめるその瞳には、〝ごっつあんです〟という謎の不吉な文字が。で、姉の方には特に用は無し。

「やっぱり変だよ、スター。何かとっても大事なモノを奪われそうな気がするよ……」

「大丈夫よ、デビル。人は何かを失う度に、何か新しいモノを得ていくのよ」

 姉が涼しげな声で諭してやったが、倫理的に大問題です。

「それで博士ぇ、わたし達はどんな仕事すればお金がもらえるのォ?」

 Fカップの谷間から電卓が取り出され、茜がウキウキしている。

「政府はすぐにでも新しい追跡部隊を編制し、沙那君の確保に向かって来るでしょう……つまり、彼を政府や軍部の手から守りつつ、『ポイント32』へボク達といっしょに乗り込んで欲しいんです」

「でもォ、そうなるとテロの人達に男の子をわざわざ届けちゃうコトにも成りかねないんじゃ」

「確かにリスクはありますが、200名の人質をこのまま見殺しにもできません。相手がどんな思想の持ち主なのかは不明ですが、最善の交渉を試みたいと思うんです」

 蒼神博士の表情に躊躇や迷いは無い。以前と同様、ただただひた向きだった。

「つまりィ、わたし達は博士がテロの人達と上手く交渉が進んで人質が解放されるまで、ボディガードを務めればいいのォ?」

「はい、そうです。宜しく御願いできますか?」

「う~~ん……咲チャ~ン、どうする~~?」

 何か気がかりな事でもあるのか、茜は少し困った様子で相方に回答を求める。


 ジュワアアア~~ッ! ――ジャッカジャッカ! ――グツグツ、グツグツ!


 音から察するに、ド深夜に食うべきではない料理が準備されており、用意されてる食器は一人前。おそらく、調理している本人だけが食べるつもりだ。

「よし、完成ィィィィィ! 咲特製・『肉野菜炒めクリスマスバージョン☆』だあ!」

 スク水にエプロンつけたマニアック料理人が、リビングのテーブルに定食一人前を運んできた。どのあたりがクリスマスなのかというと、大盛りの肉野菜炒めに生クリームがデコレーションされてるあたり。

「…………」

 明らかに違う時間を過ごしている咲に、他の皆様は生温かい目で見守るしかない。

「容赦無くいただきまぁぁぁぁぁ~~ッす!」


 ガッツガツ! ムッシャムシャ! グッビグビ!


「あ、あの……咲さん、仕事の件なんですが……」

「ごめん、あたし等行かない」

「えッ?」

 即行で断られて博士が小さく驚く。

「その男の子も連れてかない方がイイと思うよ。だからさ、こうしよう……あたしと茜はここで留守番しつつ男の子の護衛ってコトで」

 咲は博士と何故か目を合わせようとしない。行きたくない理由を聞いてくれるなと言わんばかりに。

「……分かりました。人質の救出にはボクとエンプレスさんだけで行きます。だから、御二人にはスターとデビルの護衛も御願いします」

「護衛って……この双子は元SPじゃなかったっけ?」

 咲が味噌汁をすすりながら、ソファにチョコンと座ったスターとデビルを交互に見る。

「ええ、確かに。ワケあってPFRSでは『スノードロップ』に属していました。彼等もエンプレスさんと同様に強化手術を受けています。けど、手術の効果には〝適合率〟という個人差があり、ダレもが等しく超人的な免疫能力や耐性を得られるワケじゃないんです。二人の場合、特定の『病状』を緩和させるに至りましたが、人体の機能は同じ年齢の少年・少女のソレと大差は無いんです」

 要するに、中途半端な足手まとい。SPとして現場で活躍できるレベルでは無いので、ついでに子守りを宜しくというコトだ。

「りょ~~か~~い。楽しくお留守番しましょうね、デビルく~~ん★」

 茜のネットリとした視線が少年にまとわりついてくる。

「ど、どうしよう……何か事件が起きる前兆を感じるよ、スター」

「平気よ。人間社会は事件の連続で成り立っているんだから、デビル」

 可愛らしい声で意味不明な言葉をかけながら、姉が弟の頭を優しく撫でている。

「博士、出発まではまだ時間があります。休んでください」

「ええ、そうします」

 エンプレスに促されて蒼神博士が腰を上げる。

「さあ、アンタ達ももう寝なさい。12才の健全な少年・少女が起きていていい時間じゃないよ」

「ええ~~ッ、観たいアニメがあるのに~~ッ……ねえ、デビル」

「博士から買ってもらったゲームがしたいな、スター」

 双子が仲良く顔を合わせている。

「ダメダメっ。この歳で夜遊び覚えたらロクな大人になれないからね。さっさと2階へ上がりなさいッ」

 エンプレスが母親みたいに二人の背中を軽く叩き、リビングから追い立てる。

「は~~い……行きましょ、デビル」

「……仕方ないね、スター」

 双子は渋い顔をしながら階段を上っていった。

「あ、そうだ」

 同様にリビングを後にしようとした博士が足を止め、何かを思い出したような表情で咲の方を見た。

「咲さん、すみませんが……アナタの肉体を調べてもいいですか?」

 彼はおもむろにそう言った。

「ど、どどどどどどどどどッ、どうしよう、茜ッ!! 博士に……さ、さささささささささッ、誘われちゃったよッ!!」

 バカが顔面を真っ赤にしながら慌てふためいてる。素で。

「仕様がないなぁ。まずはお風呂でムダ毛を処理して、とびきりのランジェリーを用意するのよ。ベッドの上では処女なのがバレないよう、しっかり演技しないとダメよ★」

 相方が実用性の低いアドバイスを与えてやった。素で。

「いや、あの……単に血液を少し採取させて欲しいだけなんですが」

 博士が困惑中。ちょっぴり頬を赤らめて。

「正直なトコロ、博士と同じく私もアンタの身体には興味がある」

 エンプレスが腕組みしたまま咲を睨みつける。

「あらヤダッ。お隣の高橋さんたら、そんな趣味があったなんて。気持ち悪いわねえ」

「世間じゃ〝百合〟って呼ぶらしいわよ。本当に物騒よねえ」

 咲と茜が隅っこでヒソヒソ。ダレだよ高橋さんって。

「その小柄な肉体からは想像できない、化け物じみた腕力と脚力。高さ250メートルから落下して生きている上に、高濃度の中性子線を浴びながら何の変調もきたさない……私も『強化人間ブースト・ヒューマン』になりたての当時は、自分の身体が神話に出てくる英雄にでも変えられたような優越感を感じたものだけど、アンタの場合はそうじゃない……まさに〝モンスター〟。同じ人類とはとても思えない」

 エンプレスの言葉からは、咲に対する懐疑的な感情が実に分かりやすく滲み出ている。

「咲さん、決して気を悪くしないでください。実際、アナタの肉体は良い意味でも悪い意味でも異常です。ボクは科学者として……いえ、仕事を依頼する者として、相手の事をできる限り知っておきたい。御願いできますか?」

 そう言って博士はプラスチックのケースを取り出し、中から注射器を一本つまみ出した。

「うむッ、よかろう! いたいけな少女に〝テメーの血は何色だッ!?〟疑惑がかけられているのなら、ズブリッと一本やっちゃって!」

 咲が堂々と右の二の腕を差し出す。

「では、失礼しますね」

 チクッ――

 博士が注射針を刺す。その感触に異常は無い。多少、同じ年齢の少女よりも筋肉質ではあるが、年頃の女の子の腕だ。人体の構造を無視したようなパワーが出るようにはとても見えない。

「咲チャン、どう? 痛い?」

「針こえぇ~~よ~~(泣)茜ぇ、手を握ってて」

「我慢してッ、すぐに終わるからねッ」

「う、うんッ。後でジュース買ってね」

 ドコの小児科だよ。


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