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スク水と体操服

「コレが通行人達を騒がせた分!」

 ――ボゴッ!

「コレがプレゼントを待つ子供達の分!」

 ――――ドゴッ!

「コレがトナカイとサンタに対する狼藉の分!」

 ――――――ズンッ!

 顔面を殴られ、ボディに蹴りを入れられ、太ももを角で刺されるエージェント。矢継ぎ早な攻撃に体勢を崩した彼に対し、トナカイは相手の両脚をガッチリと掴み、脇に挟む。


「そして、コレがクリ○ンの分だああああああああああああああああああッッッ!!」


 ものすごい勢いでジャイアントスイングをかけられる。もちろん、最後のは身に覚えなど無い。

「ちッ、これじゃ狙えねえ」

 ヘリでライフルを構えているエージェントが呟く。大した距離ではないとはいえ、揺れるヘリから密着状態の二人の片方のみを正確に銃撃するのは難しい。エージェントは腰につけた通信機を手に取る。

「こちらチーム・イエロー。司令本部、聞こえるか?」

<こちら本部。衛星で監視中だが……一体、何が起きている? 第三者が乱入しているように見えるが>

「緊急事態だッ! 同僚のエージェントがトナカイにジャイアントスイングをかけられているッ!」

<…………は? おい、何を言って……?>

 予想通りの応答だ。

「いいから応援部隊を寄こしてくれッ! 目標をここで見失えば再発見が難しくなるッ!」

<りょ、了解した……チーム・ホワイトを向かわせる。到着は20分後だ>


 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ――――


 ヘリが高度を下げ始め、軽自動車へと接近する。

「ホッホッホッ~~、イイ歳した大人にあげるプレゼントは無いんじゃぞォ~~」

 そう言ってサンタさんが袋から取り出したのは、一丁の自動小銃オートマチック。黒光りする銃身が薄闇で薙がれ、ヘリに照準が合わされる。


 パンッパンッパンッ!!


 その鈍重な感じの図体からは想定外の早撃ち。

 ――ギンッ!!

 が、放たれた9ミリ弾はヘリの装甲にはじかれてしまう。

「トナカイく~~ん! 悪い大人が迫って来るよォ! きっと、トイ○らスから派遣された営業マンだよォ!」

 どんだけ攻撃的な営業マンだよ。

「小癪なッ!」

 ――ポイッ

「うぅ~~~~わぁ~~~~!!」

 ジャイアントスイング中だったエージェントを放り投げ、トナカイが堂々とした態度でヘリに向き直る。いきなり解放されたエージェントは、駐車してある一般車両のフロントガラスに激突し、ボンネットの上で無残に気絶した。

(ん? 何のつもりだ?)

 やっとエージェントから離れ、ライフルの照準をトナカイに完璧に合わせられたが……

「ん~~、よっこらセックス」

 トナカイがハーレーにまたがる。オッサンだ。トナカイの中身は品性の欠片も無いオッサンに違いない。


 グゥオオオン! グゥオオオン! グゥオオオン!


 エンジンがかかり、独特の重低音が冷たい空気を振動させる。ヘリのサーチライトとハーレーのライトが交わり、一騎討ちの雰囲気をかもし出す。

(バカがッ……バイクで突っ込んで寸前で跳び降りる気だろうが、映画の観過ぎだ)

 確かに。どれだけ加速をつけたとしても、専用のジャンプ台でも用意しない限り、車やバイクが物理法則を無視って急上昇したりはしない。つまり、距離的にも角度的にもハーレーを衝突させてヘリを撃墜させることなど不可能。

「ふぅ~~、よっこい正一」 

 降りた。エンジンはかけたままだが、特攻は諦めたようだ。そして、中身はどうしようもなくオッサンだ。

「よし、賢明な判断だ。だが、不確定要素が元気でいてもらっちゃ困るんでね」

 ライフルのスコープをのぞく。狙いはトナカイの胸部……そして、そのトナカイはおもむろにハーレーのハンドルの片側を、両手でガッチリと握り締めた。着ぐるみのため、中の人の様子は当然うかがい知れないが、両脚と腰に尋常でない力がこもり――


 ズズズッ……


 タイヤが地面に擦りつけられる音がして、重量320キロの車体が引きずられだす。

(……何だ? 何をしている……?)

 早く撃ってしまえばいいのだが、あまりに不可解な行動を取るターゲットに思わず見入ってしまい、引き金を引けないでいる。


 ズズッ……グググッ……


タイヤが地面からわずかに離れた。トナカイの全身が小刻みに震え、唸り声のようなモノが聞こえ、次の瞬間――


 ――――――――――――――――――――ブンッッッ!!


 投げた。砲丸投げに似た要領でハーレーが一台……夜空へ舞った。

「その発想は無かった」


 ズドオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――――ッッッン!!


 ヘリのエージェントが魂を抜かれたような表情でポツリと呟いた直後、320キロの金属の塊が激突!

「あ、あり得ねえッ! 司令本部ッ、緊急着陸を試みるッ! 早く救援部隊を――」

 ヘリは大きく傾き、黒煙を吹き出しながら急角度で高度が落ちはじめ、夜空からその威容を消す。

「冗談じゃない……一体、何だよ……“アイツ等”は何だよッ!?」


 ――――――――――ドオォォォォォォォォォォォッッッン!!


 遠くの方から墜落音が聞こえてきた。チーム・レッドの軍人が頭を抱え、震えながら車内に隠れてしまった。


 ―――――――――――― 制・圧・完・了(メリー・クリスマス ) ――――――――――――


「……ボク、これによく似た光景を以前に見たような」

「ええ……私もです」

 呆然と立ち尽くし、ぎこちない笑顔で顔を引きつらせる青年。その隣で女が急に胃痛を覚える。

「思い知ったかッ、この何だかよく分かんねえ偉そうな連中めッ! 年末のクソ忙しいバイトの真っ最中に、低所得者の邪魔をするからこうなるのだッ!」

「ホッホッホッ~~! 心の薄汚れた大人達にはタワシ1年分をプレゼントぉ~~!」

 常識的な見地からすれば、カナリの大事件が展開しているのだが、トナカイとサンタはケンカに勝った近所の悪ガキみたいなノリだ。

「むむむむむ~~~~ッッッ!?」

 付けヒゲをやたらと弄りながら、サンタさんが青年と女の存在にやっと気づいた。

(うわ~~……すっごくこっち見てる)

 青年は思わず顔を背け、視線をあさっての方向へ。夜空を見る。女の方はサングラスをかけて知らんぷりを開始。その間にもサンタさんはジワジワと二人に接近&観察。で、目の前までやってきたところで……

 ゴソゴソゴソ、ゴソゴソゴソ――

 袋から取り出されたホールケーキ丸ごと一個。クリスマス仕様でフルーツと生クリームがタップリ☆ 


 ――ガッツガツ! ――ムッシャムシャ! ――ペッロペロ!


 食べはじめた。食器が無いんでワイルドにかぶりついている。

「トナカイく~~ん! 知ってる人達がいたよう~~!」

 口の周りを生クリームでベタベタにしながら相方を呼ぶ。

「こりゃッ! いつも言ってるでしょ、夕飯前に甘い物を食べちゃダメだって!」

 近所のお母さんみたいなコトを言いながら、トナカイが四足歩行で走って来る。ダッラダラとヨダレを垂らしながら。


 ――ガッツガツ! ――ムッシャムシャ! ――ペッロペロ!


「…………」

「…………」

「…………」

 薄闇でホールケーキを一心不乱に犬食いしているサンタとトナカイ。あまりにシュールな光景のため、大人も子供も適当なリアクションが思いつかず当惑中。

「ぬッ!?」

 不意にトナカイと青年の視線が合う。トナカイは一瞬だけ硬直した後、まるで、敵を威嚇する野生動物みたいに彼の周囲をゆっくりと回りだし、ジッと見つめながら……


 サワサワサワッ――


「あひッ!?」

 青年が急に声を上げ、頬を赤くさせちゃってる。背後からトナカイという名の痴漢が彼のシリをおもむろに撫でてるから。

「こ、この感触はッ……蒼神博士だあッ!!」

 トナカイくんが驚きと愉快さが混じったみたいな声を上げた。って言うか、そんな確認方法でいいのだろうか。人として。

「は、はは……ど、どうも……お久し振りです」

 『蒼神』と呼ばれた青年は、「ああ、やっぱりだよ(汗)」みたいな表情で苦笑するしかなかった。


 深夜――23日から24日へ日付をまたぐ頃、一台の軽自動車が交通量が極端に少ない道路を走っている。速度規制をしっかり守り、なんとも丁寧に運転している。それには“理由”があった。その車は決して他者との関わりを持ってはいけないから。検問にぶつかるワケにもいかないし、巡回するパトカーも巧みに避けなければならないのだ。

「…………」

 助手席に座る青年が、後部座席の中央に座って寝ている男の子をルームミラーで確認する。年の頃は20代前半くらいで、その容姿は子供のような幼さが残っており、いかにも優男といった感じだ。先端の方に少しクセ毛のある黒のショートヘアがとても綺麗。体格は平均的で特徴は無いが、寒がりなのか、暖房の効いている車内でもダウンジャケットを着こんでいる。

「蒼神博士、本当に同行させていいんですか?」

 運転するブルネットの女性が心配そうな声で青年に問う。追跡は何とか振り切ったが、車内に別のトラブルが入り込んでいるのだ。彼女もまた『蒼神』と呼ばれた青年と同様に、ルームミラーで後部座席をチラッと見た。気持ち良さそうに寝ている男の子の左右には、妙なのが一体ずつ座っている。見たまんまを答えると、スクール水着を着用した少女と、体操着を着用した少女が居る。

(何でまたコイツ等に?)

 釈然としない表情でハンドルを握っている。

「いや、まあ……成り行きとはいえ、助けられた事実に変わりはありませんし」

 青年――蒼神博士は、やはり苦笑いを浮かべるしかなかった。

「しまったァァァ~~! 完全にコスチュームの選択をしくじったァァァ~~!」

 と言って、スク水姿でガチガチ震えてるマヌケな少女の名は――『汐華咲しおばな さき』。トナカイの着ぐるみのままでは狭い軽自動車に乗れそうになかったんで、急いで着替えたらしいんだが、どんだけ季節感を無視ってんだよ。水着の左胸のトコに【咲・18才】ってラベルが縫い付けてあるし。水着一枚のせいで、その痩せ型体型がよく分かる。身長は160センチにも満たないくらいの小柄。非常に短く切り揃えられた黒髪をしている。

「さあ、イイ夢見ながら……クンクン! よ~~く眠りなさ~~い……クンクン!」

 で、もう一人の少女――さっきから寝ている男の子に寄り添いながら、無垢な甘い体臭を軽く興奮気味に嗅いでいる。名を『柏木茜かしわぎ あかね』といい、何故だか半袖の体操着にブルマという姿。彼女の方は右胸に【茜・19才】って同じくラベルが縫い付けてある。で、その体操着、明らかにサイズが合ってなくて色んなトコがピッチピチ。ウエスト辺りにミス・皮下脂肪がこんばんは。身長は相方の咲より頭一つ分くらい高く、ミディアムの姫カットにした栗色の髪が光沢を放っている。

「博士、後ろの二人にはやはり『少年』の件は伏せておいた方が……」

「いえ、ボク達の立場はカナリ困窮しています。味方は多いに越したことはありません」

「し、しかし……」

「エンプレスさん、ボクはもう身近な人間をダレ一人として失いたくないんです。だから、御願いします」

 青年から非常に強固な意志が滲み出ていた。

「……了解しました」

『エンプレス』と呼ばれた運転手の女性は小さく頷き、ウインカーを操作して左折する。やがて、車は住宅街に入る。しばらく徐行した後、駐車場ではなく路肩に止まった。


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