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国の威信と公務執行妨害

<お、おい……何か出て来たがどうする?>

 チーム・ブルーのエージェントがレッドに通信を送る。明らかに動揺していた。

「落ち着け。時期が時期だからな。ただの酔っ払いだろう」

 ハーレーは軽自動車とチーム・ブルーのジープに挟まれるように停止し、大きな白い袋を背負ったサンタクロースが降り立った。


「めり~~~~!! クリスマ~~~~ッッッス!!」


 夜空に響く雄叫び。多分、偶然だとは思うが……雪がやんだ。パタリとやんだ。

「スゴイよッ、サンタさんが来てくれた……サンタさんが来てくれたよッ!」

 愉快なステップを踏みながら、軽自動車に接近して来るサンタクロース。モジャモジャっとした白いヒゲ。ムッチリとした全身に纏われた、赤と白のコントラストが綺麗な衣装。良い子の夢がタップリ詰まった大きな袋を揺らしつつ、車の窓ガラスをコンコンッと軽くノックした。

「すっご――――い! サンタさんッ、ありがとう! 助けてくれるんだね!?」

 男の子が思わず窓を全開した。

「ホッホッホッ~~、世界中の良い子には素敵なプレセントを! 悪い子には卑猥な折檻を!」

 そんな事を言いながら、サンタが男の子の頭を優しく撫でている。一方でトナカイは角のラジカセを取り外し、トコトコとチーム・ブルーのジープに歩み寄って、サンタと同様に窓ガラスを軽くノックする。

(ちッ、こんな時に面倒な連中だ)

 鬱陶しそうな表情で助手席のエージェントが窓を開けた。

「おい、こっちは取り込み中だ。やるんなら他所へ行って――」

「めり~~くりすま~~ッす☆」


 ボゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――ッッッ!!


「へぶしッ!?」

 殴った。トナカイが前脚でもって右ストレートを放った。変な声を漏らしてエージェントが気絶した。

「なッ、なッ、なッ……!?」

 あまりの出来事に運転席の軍人さんが混乱する。

(おいおい……何だよ!?)

 一部始終を静観していたチーム・レッドのエージェントが、口を半開きにして固まってしまった。

<こちらイエロー。目標は確保できたか? ……おい、どうした? 応答しろッ>

 コンソールの通信装置から追跡ヘリのパイロットが呼びかけてくる。

「あ、ああ……こちらレッド……」

<一体、どうした!? 何かアクシデントでも!?>

「いや、それが……ハーレーにまたがったサンタとトナカイがやって来た」

<……は? もう一度ハッキリと言ってくれないか>

「いや、だから……その、サンタとトナカイがいきなり現れて、トナカイがエージェントを殴りつけたんだよ」

<おいッ、任務中だぞ! フザケてないで早く目標を――>

 ドンッ――――!!

 二足歩行トナカイが軽やかに跳躍し、チーム・ブルーのジープの屋根に跳び乗る。そして、深呼吸をして胸を大きく張り……


「こ~~の~~、ボケ共があああああああああああああああああ――――ッッッ!!」


 辺り一面を揺り動かすかのような大・絶・叫。その両前脚をワナワナさせ、両後脚をプルプルさせながら御怒りのご様子だ。

「いいかッ! 『聖夜』とは純真無垢な子供達が、ドキドキでワクワクしながら不法侵入者からプレゼントを貰う日であるッ! 決して浮かれたカップル共が、ラブホを満室にするための日ではないわぁ!! しかもッ、そんな甘ったるい夜に、生活費を稼ぐためにかいがいしくバイトする低所得者を轢き逃げし、謝罪の一言も無いってかあ!? フザケんなあああああああッッッ!! 治療費払えやあああああああッッッ!!」

トナカイが身振り手振りを交えてまくし立てた。いや、治療費って……オマエ、元気じゃん。

「…………(汗)」

「…………(汗)」

 一応、無言でこの展開を見守ってはいるが、青年と女の両名は何故かとっても健康に悪そうな汗を噴きはじめていた。

(くそッ、仕方ない……)

 チーム・レッドのエージェントが車から降り、ホルスターから拳銃リボルバーを抜いた。

「そこまでだ、酔っ払い共! 我々は政府より正式な依頼を受けて派遣された、軍部のエージェントだ!」

 スーツのポケットから身分証を取り出し、高々と掲げる。この対応を目にすれば、通常ならひとまず大人しく様子を見るべきなのだが。

「やっかましいわああああああッッッ!! エージェントだかポリ○ントだか知らねえが、乙女の綺麗な体を傷モンにしてタダで済むと思っとんのかああああああッッッ!!」

「そうじゃ、そうじゃ! 土下座してじっくり反省するのじゃ! 誠心誠意の謝罪が成されぬ限り、ワシ等は絶対にこのような横暴は許さんのじゃああああああッッッ!!」


 ポイッ――


 エージェントがズボンから財布を取り出し、無言で投げた。

「うっひょおおおおおおおおおおおおおお――――ッッッ★」

「誠心誠意キタぁぁぁぁ――――――――――――ッッッ★」

 エサを発見したサルみたいに財布へ跳びつく二人。そこに人間としての尊厳はうかがえない。

「さあ、とっとと行け。こっちは忙しいんだ」

 邪魔な物乞いを追っ払うみたいにエージェントが手を横に薙ぐ。

「ホッホッホッ~~、素晴らしいプレゼントをありがとう! では、お返しにこちらも素敵なプレゼントを――」

 ガシャ……

 サンタさんの大きな袋から乾いた金属音。

「for・you☆」

 満面の笑顔のサンタさんがその手に握った――

「なッ!?」


 ドオオオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――――――ッッッン!!


 轟音! そして、衝撃! チーム・レッドのジープのボンネットが派手にめくれ上がった。サンタさんが右手に握ったショットガンの一発で。

<おいッ、今のは何だ!? 銃声がしたぞッ!!>

 ヘリからの問いかけ。が、エージェントは唐突過ぎる攻撃に腰を抜かし、ジープの後ろへ退避するのに精一杯。

(マジかよッ!! クスリでもヤってんのかッ!?)

 拳銃リボルバーを握るエージェントの手に汗が噴き出し、車内の軍人さんは事態の急変に動揺し、無線機を握る手が小刻みに震えている。

「こちら、レッド! 現在、襲撃を受けている! 援護を要請する!」

<どうした!? 目標からの反撃か!?>

 ヘリのパイロットが声を荒げる。

「違うッ! いきなり現れたサンタが10番ゲージで撃ってきたッ!」

<さっきから一体、何を言って――>

「早く来てくれ! 目標に逃げられるとマズイ!」

<……了解したッ>

 ヘリのパイロットはとりあえず尋常ではない状況であると悟り、ヘリを急上昇させて屋上へと向かう。

「き、貴様等……何のつもりだッ!?」

 チーム・ブルーのジープから運転手の軍人が降りてきて、財布を拾って興奮度MAXなトナカイに近づき、拳銃リボルバーの銃口を向けた。


「お黙りゃあああああああああああああああああああああああ――――ッッッ!!」


 ――――ドゴンッ!

「お~~ふゥ~~……(泣)」

 ものすごいスピードの前蹴りが軍人さんの股間にヒット。彼は涙を流して沈む。

「こんな端金であたしの憤りが静まるとでも思うてかあああああああッ! そっちのジープの後ろに隠れたヤツ、出てきやがれえええええええッ!」

 最早、トナカイの姿をした夜盗だ。

(クソがッ……!)

 隠れたまま動けないエージェントが悔しそうに口元を歪めたその時――


 ――――――ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


「ぬぬッ!?」

 強烈なサーチライトを全身に浴びてトナカイがたじろぐ。一階出入り口を見張っていたチーム・イエローのヘリが、その攻撃的な姿を現した。

「おいおい、ありゃ何だ……?」

 報告通りのサンタとトナカイを発見し、ヘリのパイロットが小さく驚いた。

(よし、これで制圧できるな)

 隠れていたチーム・レッドのエージェントが立ち上がり、ヘリという援護をバックに近づいてくる。

「このチンピラ共がッ。銃刀法違反及び、軍部関係者への発砲の罪で逮捕するッ!」

 どれほど無鉄砲なバカでも、この状況を目の当たりにしてまだ暴れるハズは……

「盛り上がってまいりました~~ッッッ☆」

 ガシャッ――

「うおッ!?」


 ドオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ――――――――――ッッッン!!


 サンタクロースが第二射。ジープのフロントガラスに巨大な亀裂ができる。エージェントは姿勢を低くして、慌ててまたもやジープの後ろへと避難。

「はァ、はァ、はァ……こちらレッド、上空から攻撃しろ!」

 エージェントは汗ばむ手で通信機を握り、ヘリの助手席に座る仲間へ指示を下す。

<いいのか? 無関係な民間人への発砲は――>

「構わんッ! こっちは何度も警告したッ! そもそも、コスプレしてスラッグ弾ブッ放してくるヤツを“無関係な民間人”とは呼ばんッ!」

<なるほど……了解した>

 ヘリのエージェントがスナイパーライフルを装備した。生殺与奪の空気が流れる。


 バンッ――――!!


「おひょッ!?」

 サンタが構えていたショットガンに命中し、銃身がへし曲がって地面に転がる。

「トナカイく~~ん、手が痛~~いィ(泣)」

「バカ者、諦めてはイカン! 世界中の夢見がちな子供達にプレゼントをバラ撒き終えるまで、あたし達には前進あるのみ!」

「う、うん、そうだね! 熟睡している可愛い少年の隣に横たわって、芳しき体臭をクンクンしなきゃね♪」

 アグネス、出番です。

(今の内だな……)

 敵の武装が沈黙したのを確認し、ジープの陰に隠れていたエージェントが小走りで軽自動車に接近する。

「少年をこちらへ。バカな抵抗は考えないでもらおう」

 エージェントの拳銃リボルバーが青年を脅す。

「恥を知りなさいッ」

 青年は男の子をしっかりと抱き締めながら、エージェントを睨みつけた。

「ああ、いいとも。後でいくらでも知ってやる。だが、今は――」


 ――――ポンッ


 不意にエージェントの肩に乗せられた……『前脚』。反射的に振り返ってみれば、トナカイくんが目の前に立っていた。満面の笑顔で。




※10番ゲージ=ショットガンの口径の一種。充填可能な火薬量及び散弾質量が大きくなるため、強力な破壊力を持つ。トド、熊などの大型獣の捕獲などに使用される。

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