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事件解決と本番の予感

「オジチャ~~~~ン!!」

「――――ッ、さ、沙那ッ!?」

 その男の子は一目散に蒼神博士のもとへと駆け寄り、彼の脚にしがみついてきた。

「怖かったよォ~~! 帰りたいッ、ボク……ママの所に早く帰りたいッ!」

 沙那は懇願するように、目尻にタップリの涙を浮かべて上目づかいでせがむ。

 キュッ……

「ああ、帰ろう……終わったからね。君を怖がらす悪い人達は皆いなくなったからね。もう……大丈夫ッ」

 博士は男の子を抱き締めた。自分の息子を救えなかった……かつての感覚が甦りかけたが、この瞬間は違う。大して役に立てたワケでもなく、命や肉体を削ったワケでもない。ただの意固地な自己主張の先に得た結果。はたしてこれは救った事になるのだろうか?

 ポンッ――

「…………あ」

 肩に置かれた手の感触があまりに優しくて、彼は手の持ち主を振り返って見た。

「どうやら、散りそこないましたね」

 エンプレスが少し悪戯な微笑みを浮かべ、博士と沙那を一緒に抱き締めた。

「いやぁ~~、なんともムズ痒い一コマっスねえ。オレっちも頑張ったんスけど」

「むぅ~~、悪女の匂いがするヨッ! 手柄も若い男も一人占めしようとする、百戦錬磨の女狐がいるヨッ!」

 少し離れた所から野次っぽいモノを飛ばすラヴァーズとハイエロファント。

「ふひぃ~~、何とか生き残れたみたいだね、あたい達。けどねえ……」

「人質諸君の大勢の犠牲。生き残りはしやしたが、オレ等生存者一同に政府は泥をかぶせてきやすぜ」

 ビオラとファゴットは辺りの光景を見渡しながら寂しそうに呟く。死屍累々――死んでいった者達にも柊沙那と同様に家族がいて、今回のテロ事件の状況をメディアを通して逐一確認し、固唾を呑んでいただろう。必ず自分の愛する者達は生きて帰って来る……そう信じてやまなかっただろう。が、殺す側に相手をわざわざ選別して殺す理由はない。意図して殺した場合も、巻き込まれて結果的に殺された場合も。結局、殺す側にとってただ都合を良くするための露払いに過ぎない。

「全責任は指揮官であるワタシが負う。貴様等が犠牲者の心配なんぞする必要はない。そもそも、気味が悪い」

 いつの間にか二人の背後にダリア准将が立っていて、憎まれ口をたたいている。

「け、けど……オイラ達ってこれからどうすれば?」

 オドオドしながら近寄って来たコントラが、申し訳無さそうな口調で問う。

「ワタシが生きている限り沈丁花に解散は無い。最後の一兵がくたばるまで汚れ仕事に従事してもらう。何か問題があるか?」

「――――――――ッ、あ、ありませ~~ん!」

 准将の瞳に睨まれ、沈丁花のメンバー達の口から〝ノー〟という答えが出るハズもなく。

「准将ッ、いや……母さん! お話があります!」

 少し離れた所から、相田杜仲が少し頬を紅潮させつつ呼びかけてきた。と、同時に、彼等の周囲の空気が変な感じになった。


 ―――― は? 『母さん』? おい……今、あの相田ってヤツ、『母さん』って言わなかったか ――――


 ヒソヒソ……ヒソヒソ……

 聞き間違い? 空耳か? けど、結構大きな声で言ってたし。人質の中に肉親が……いや、でも……『准将』って言ってたし。

 ヒソヒソ……ヒソヒソ……

「ああッ、杜仲! ケガは無いか!? 母はとっても心配したのだぞ!」

 准将からの返答が、辺りに流れた変な空気に確信というトドメをさした。


 ―――― ええッ、ちょッ、マジっスかああああああああああああああッッッ!? ――――


 一同、大混乱。

「母さん、この人はアナタの部下なんですよね?」

 そう言って杜仲はハープの腕を掴みながら問う。なんだか妙にヤル気のこもった声で。

「えッ、ちょ……放しいやあ! 何やねン!?」

 ハープの方は明らかに迷惑そうだ。

「あ、ああ……確かにそうだが。コイツがどうかしたのか?」

 母たる准将が二人を交互に見つめる。

「オレはこの人が気に入りました。これから一緒に平和維持活動へ従事していきたい……そう思うから、オレにくださいッ!」


 …………………………………………………………はあ? ハア? 破阿?


 もう、なにがなんだか。

「あの准将にガキがいた上、そのガキがどういう経緯かハープに御執心たあ……カオスだねえ」

「いやいやいや、んなコトより……余計な火の粉がこちらに降りかかる前に退散しましょうぜ」

「そ、そうですよね……オイラ達の任務は完了したんだし。艦に戻るべきですよね」

 とんでもない人間関係が判明したところに、とても面倒なハナシを持ちかけてきた相田。そこから生じた状況っていうか、生々しい確執っていうか……そんなのを感じて三名は足音を忍ばせて、その場をそそくさと去っていく。

「ハープ、貴様ァァァァァ! いつの間に息子をたらし込みおったかぁぁぁぁぁ!」

「は、はあッ!? え、あ、いやいやッ……うちは何もしとらンし!」

 背景から憤りのオーラをゴゴゴゴゴッて噴出している准将を前に、ハープは尻もちついて成す術無しだ。

「彼女から強烈な頭突きを食らい、<自分の見えている足元から何とかしろッ!>……そう言われてオレは開眼した。世界平和へと繋がる核心的な第一歩をッ!」

 握り拳を力強く掲げ、明日への活力を得た偏狭的な視野の持ち主が猛っている。もちろん、自分の発言が原因の発生ホヤホヤな問題など気づくハズもなく。

「な、ならんぞッ、杜仲! コイツは人殺しを生業とする傭兵。オマエの周囲に危険因子を置いておくワケにはいかんッ! 女ならこの母がもっと器量の良い者達を――」

「嫌ですッ! オレはこのハープが欲しいんですッ!」

 相田からビシッと御指名を受けるハープは、最早、被害者に近い立場に陥ってるし。

(どうなっとンねん、この親子は……やってられンわッ!)

 どのような形にしろダリア准将の肉親と関係を持つなど、胃袋に電気ドリルを放り込むようなものだ。ここは何も見聞きしなかった事にして、静かに他のメンバーの後を追って……

 グイッ――!

 向かい合って口論に夢中な二人を他所に、なんとかその場から逃走しようとしたが、相田の手がまたしてもハープの腕を掴み、強引に引き寄せた。

「今のオレに選択肢はありません。これからの人生で確実にプラスとなる人物を見つけたんです。変更はありません!」

「あ、いや、だからそのッ…………や、やめえやァ(照)」

 一応、人前。一応、年頃(24歳)の女性。若い男に力強く抱き締められて、頬を赤く染めたり抵抗する声がか細くなったりで……まあ、大変。

「むむむのむッ! あっちの方で新種のツンデレが芽吹こうとしているヨッ。間違いないヨッ」

 離れたトコからハイエロファントが余計なツッコミ入れてるし。

「ならんぞッ! いいか、杜仲……オマエの進む人生や信念を妨げるつもりは決して無いが、戦場に身を置いて一時的に気持ちが高揚し混乱しているだけだ。まずは頭を冷やして冷静になってから――」

「いいえ、絶対にこれだけは譲れません! 母さんがどうしてもと言うのなら、オレは…………絶縁させてもらいます!」

「ひッ――――――!!」

 息子から<母さんなんか大嫌いだッ>発言をされちゃって、准将の顔色がみるみる青ざめる。

「は、はうッ、あうあうあうあうあうあうッ…………!」

 准将、顔面崩壊。

「む、息子に嫌われたッ……息子に嫌われちゃったァ…………ど、どどどどどどどどッ――――どうすればいいのだッ、こんな時はッ!?」

 涙腺が制御不能になった准将が、沈丁花メンバーも目にしたことの無い悲痛な表情であたふたし始める。

(うっわァ~~……もう、なんかどうでもエエわぁ)

 すっかり威厳を失っちゃった准将に両肩を掴まれ、カックンカックンされてるハープ。その顔には〝めんどい〟の四文字が刻みこまれてる始末。

「あ、ははははッ……なんだかあちらは大変そうですね」

 一連の様子を静観していた蒼神博士が思わず苦笑する。そして、ふと振り返ってみて――

「あの、咲さんと茜さんはこれから……どう…………しま……す?」

 いない。テロ事件を実力行使で制圧した張本人二名の姿が――――無かった。

 




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