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国家の体面とダリアの動機

「首相、どうか御決断を。軍部が関わっている以上、これは軍事作戦です。最終手段を閣僚内に周知徹底しておかねば」

「…………」

 首相官邸――その一室では、デスクに軽く腰を乗せ腕組みして熟考中の首相と、向かい側のソファに座って彼を見つめる錦木庁長が重い空気をかもし出していた。首相の隣には、資料の束を脇に抱えた主席補佐官も立っている。

「いくらあのダリア准将が陣頭指揮をとっているとはいえ、地理的には敵の方が圧倒的に有利です。連中の最終目的は未だに不明ですが、ヤツ等は紳士な営業マンではない。テロリストです。綺麗に約束を守る保障は欠片もありません。交渉がこじれて准将が強行策に出た場合、200人の人質を艦に乗せて島を脱出するとなると、どうしても時間がかかってしまう。しかも、彼女の部隊の火力では、準備万端で迎えたであろう連中と拮抗できるとはとても……」

 庁長はそのデカイ腹をペチペチと叩きながら状況の深刻さを述べている。

「……で、空爆準備の許可を軍部に出せと?」

 首相が独り言を呟くように問う。

「テログループの最終目的が何にせよ、この国にとっては百害あって一利無しでしょう。万が一、同盟国にまで被害が及ぶような結果になった場合、現政権の信用と信頼は失墜します」

「しかし、人質200名ごと島を空爆した事実は誤魔化しようがない。政権の失墜という結果に変わりはないのでは?」

 主席補佐官が苦言を呈する。

「もちろん、内務庁の方で情報操作はします。<テログループが大量破壊兵器を所持しており、ソレを我が国へ、そして、敵対する国に対して使おうとしていた>……そう流布すれば、我々は国際的に貢献した態度を見せた上、敵国に対し寛大な処置を施したと世論は理解するでしょう」

 庁長が役人らしい面持ちになった。

「だが、今回の事件発生と同時に、世界中の監視衛星が様子をうかがっているだろう。『大量破壊兵器』の存在をでっち上げてしまえば、後から追及される可能性は高い。何も無かったでは済まなくなるぞ」

 首相が庁長を睨む。

「その懸念はもっともでしょうが問題はありません。国際機関から現地調査を実施されても、充分言い訳ができますので」

「……どういう意味かね?」

 明らかに意味ありげな物言いをする庁長に首相は目を細めて訝る。

 コッコッコッ――

 その時、ダレかが部屋のドアをノックした。

「どうぞ、入りたまえ」

 首相に言われてドアが開き入って来たのは、浅黒い肌をしたカーリーヘアの淑女――外交特務庁の芙蓉大臣だった。

「何だね、大臣?」

「失礼いたします。少々、錦木庁長に連絡したいことがありましたので」

「おおっと……これはスマンね、大臣。首相、先程の件、何卒ご検討を」

 そう言って庁長は慌てて立ち上がり、足早に芙蓉大臣と退室する。

「で、何者か判明したのかね?」

「ええ、意外と簡単に」

 庁長と大臣の二人は官邸内の廊下を歩きながら小声で話している。大臣は今回の事件でテログループに資金と軍備を援助している黒幕を探索していた。目的は内務庁と合同で動き、その人物を水面下で制圧すること。もちろん、首相や他の閣僚達には内密にだ。彼女は持っていた封筒を庁長に手渡した。

「……この男か?」

 中に入っていたのは、人物のカラー写真が添付されたプロフィール。写真の男は街中を探せばドコにでもいそうな感じの中年男で、これといって人相に特徴は無い。

「本名は不明。国籍も不明。個人なのか組織のメンバーなのかも不明。分かっているのは、その男が武器密売業界では知らぬ者のいないほどのヤリ手だという事。外国の軍部や名の知れた国際テロ組織は、皆その男と組みたがっているそうよ。けど、男は〝超〟が付くくらい用心深く、ダレとも会おうとしないしダレとも組もうとはしない」

「そんな〝超用心深い〟男の顔写真なぞよく手に入ったな」

「普段はNPOや慈善団体に多額の寄付をする、実業家としての顔を持っているからよ。今回、『ポイント32』で行われていた解体作業も、資金の大部分をその男が出していたわ。もちろん、偽名でね」

「テログループだけでなく、交渉に使う人質まで準備したというワケか……恐れ入るな。だが、ここまでだ。我が国の領土内でバカをやらかした以上、黙認はできん。で、居所は突き止めたのかね?」

「ええ。実に運の良いことに、男は別件で我が国に来ていると判明したわ。空港の監視ネットワークで確認済みよ」

「別件?」

「首相との面会」

「なッ――――!?」

 錦木庁長が立ち止まり、開いてしまった口から魂がポロリとこぼれそうになった。

「残念ながら面会の理由まではまだ分かってないわ。けど、我が国の国益になるような内容ではないでしょうね」

「くッ……事故に遭ってもらうタイミングを早めねば」

「いえ、ダメよ。男の素性が判明したからには、ヘタに手出しはできない」

「何故だ!?」

「さっきも言った通り、他国の軍部や名の知れたテロ組織から引く手あまたな男よ。万が一、我々政府の関与がバレるような事になれば、水面下で確実に攻撃を受けるわ。悔しいけど、ここは我慢して実動部隊は首相の身辺警護にまわすべきね」

 芙蓉大臣は庁長の腕を引っ張り、国家調査室の分室にノックもせず入った。

「ど、どうされました……?」

 中でノートPCと睨めっこしていた杜若室長が小さく驚く。

「警護だあ!? 何を悠長な! すぐに首相に男の素性を話して――」

「いいえ、ダメよ。首相にも主席補佐官にもこの情報は伏せるの」

「何のために!?」

「首相も補佐官もそろって男の裏の素性は知らなかった。その真実味が必要なの。首相と個人的に面会するとなれば、どんな目立たぬ人物でも必ずメディアに載る。後でテロ事件の背後に面会した男の存在ありと判明してみなさい……まるで自国の首相が、何だかの形で結託していたような印象を世論に与えてしまう」

「つまり、首相に会わせることなく、同時に他国の軍部や国際テロ組織連中を刺激しない……そんな対処が急務ということか?」

「ええ、そうよ。こちらで細工を施し、法律にのっとって正しく強制送還する。それがベストね」

「なるほど……では、実動部隊に作戦内容の補足をせんとな。ところで、その男だがこちらで適当な呼び名をつけんかね? ただの『中年男』では情報が錯綜する恐れがあるしな」

「さっき言った通り本名は不明だけど、武器密売業界では彼のことを『立案者プランナー』と呼んでいるそうよ」

「『立案者プランナー』? 関わりたくないことこの上なしの響きだな」

 庁長が汚い物でも眺めるような表情で呟く。

「あ、あの~~……錦木庁長、宜しいでしょうか?」

 すっかり話から置いてけぼりをくらっていた杜若室長が、控えめに声をかけてみた。

「室長、すぐに実動部隊のリーダーを呼んでくれ。事故に遭ってもらうのは無しだ。少々面倒な事象が絡んできたんでな」

 庁長は相変わらず額の脂汗をハンカチで拭いつつ、部屋のソファに腰をドサッと下ろした。

「庁長、今回のテロ事件で、ダリア准将が進んで人質交渉の陣頭指揮をとっている理由が分かりました」

「室長、さっきの指示が聞こえなかったかね? 今更あのメスゴリラの動機なぞ知ったところで、世間話のタネにもならん。それより一刻も早く――」

「庁長、とりあえずコレを御覧になってください」

 室長の表情はいつになく真剣で、長く共に仕事をしてきた庁長はすぐに事態が尋常でないことを察知した。

「何者かね、この男は?」

 庁長が室長のノートPCをのぞきこむと、モニターには一人の青年の写真とプロフィールが映っている。

「人質になっている200名に事件の原因になった者がいないか、その素性を洗い直していたのですが、この青年――『相田杜仲あいだ とちゅう』に関して気になる事が……」

「相田杜仲。年齢19才。NPOのボランティアとして解体作業に参加。一週間前、本土の大学を中退……この青年の何が気にかかる?」

「銀行の口座を調べてみたのですが、19才のボランティアには不相応な金額が定期的に振り込まれていました。不審に思い、彼の出生記録やら戸籍データ、学生時代の交友関係まで調査した結果……『相田杜仲』というのは偽名だと分かりました」

「他国のエージェントか何かか?」

「いえ、本人の意志でつけた偽名かどうかは知りませんが、青年の本名は『ストレー・シープ・杜仲』」

「なッ……!?」

 庁長の頬が引きつる。

「ええ、間違いありません。彼はダリア准将の息子です」

 室長の呻くような声に庁長と大臣は息を呑んだ。


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