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不可解な確執とプレゼントの投下

「…………あ、ああ……」

 まともに返事ができる状態ではなかった。

 ――ブンッ!!

「うひゃいッ!?」

 ショベルカーのアームが顔面のすぐ傍を薙いだかのような勢いで、デスペアの前蹴りがハープの頭部を襲った。

(動作が鈍い分、攻撃の軌道は読みやすいけど……とてつもないパワーやで)

 スウェーイングで辛うじて回避したが、一発でもヒットすれば人間の体など容易に大破しそうな一撃だ。『重量+硬度+速度=攻撃力』――デスペアの構造を見る限り、武器を失った者達に勝ち目はまず無い。

「立ちぃやッ! ほらッ、逃げるでえ!」

「オ、オレは……間違って……なん……か…………あぁぁぁ」

 ハープが相田の腕を力強く引っ張ったが、彼は既に心が折れていた。生死のやりとりが行われる現場に初めて立ち合い、己の信念を丁寧に分かりやくす否定され、まさに今、殺されようとしている。心の一つや二つ折れるのは道理だった。

「いい足掻きっぷりだ。『ポイント32』は依頼人クライアントの要請で海に沈める。島と共に消えるか、勝てぬ相手に殺されるか……選べッ!」

 ビュンッ!!

(―――何やてッ!?)

 デスペアの蹴りがまた放たれるが、今度は明らかにリーチが違った。最初のは直立した状態からの蹴りだったが、今度は腰を低くして、軸足を回転させてスピードも増している。

「ハァハァハァ…………ッ!!」

 地面に這いつくばるようにして避けたが、食らえば確実に肋骨と背骨を砕かれていただろう。

(お、落ち着け……呼吸を整えるンや)

 勝負以前の問題だった。まるで、虎に狩られようとしているウサギだ。ハープのみならず他の沈丁花メンバーも同様に、あまりにハッキリとした絶対死しか見えてこなかった。


 ザッ……ザッザッザッ……


「ちょ、アンタ!?」

 相田がメガネを外し、足元に捨てた。そして、前進する。両腕を大きく広げ、無表情で。

「宜しい、覚悟ができたようだな、青年。良い面構えだ。そう、死にゆく者に感情はいらん」


「う、う、うッ、わあああああああああああああああああああああああッッッ!!」


 彼は拳を振り上げた。デスペアと比べればなんとも小さく、脆弱で頼りない。脳髄が沸騰した若い男の暴走。今、走り出す――

 ガッ……!

 不意に相田の肩をハープが掴む。反射的に振り返る彼に対し、彼女はスゥっと深呼吸をしてから――

 ゴンッ!!

 強烈なヘッドバット。

「はぅぐッ!?」

 あまりの不意打ちに、相田は頭を抱えてうずくまった。

(うぅぅぅ~~……い、痛いぃぃぃ~~…………あ、痛い?)

 大脳の海で漂流していた彼の意識が固定され、大きく目を開いて辺りをキョロキョロと見回した。

「しっかりせンかいッ!! ここはまだ戦場やッ、相手殺して自分が生き延びる場所やッ、『世界平和』とかいう妄想を他人に押し付ける前に、自分の見えとる足元からなんとかせえやあ!!」

「あ…………うん、分かった」

 ハープの強引な激励を受け、相田の顔つきが明らかに変わった。弱々しく泳いでいた瞳に若い輝きが戻り、口元の細かい震えが止まった。

 ガッ……!

 不意に後ろからダレかがハープの肩を掴んだ。反射的に振り返る彼女に対し、その相手はスゥっと深呼吸をしてから――


 ズゴォォォォォ――――――ッン!!


 強烈過ぎるヘッドバット。

「ほんげぇえッッ!?」

 あまりの不意打ちにハープは仰向きにブッ倒れる。

「何をしとるかッ、バカ者共があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

 突如として響き渡る怒号。

(ちィィィ、もう目が覚めたか。バケモノめ)

 コンダクターの頬が強張る。

「おい、ちょいとヤバくないかい……御機嫌悪そうだよ(汗)」

「こ、こりゃマズイですぜぇ……世界で一番おっかないオンナが御降臨だぁ(汗)」

 ビオラとファゴットが急に浮足立った。

「役に立たぬ部下共に代わり、ワタシが貴様と貴様のオモチャを沈めてやろう。覚悟はいいか? 〝卑怯者〟。」

 軍服を着たガタイの良い長身の女性。オールバックにした銀髪とモスグリーンのルージュが目立つ、切れ長の目をした将校。彼女は今、とっても鼻息を荒くしていた。彼女は今、とっても拳を握りしめていた。彼女は今、とっても冷酷で残忍でバカげていた。

 彼女――ストレー・シープ・ダリア准将がデスペアの前に厳然と立ち塞がった。

 クルッ――ザッザッザッ……

(な、なンや?)

 准将はすぐに踵を返してハープの前を通過。確保対象者である相田杜仲と対峙した。

「…………ッ」

 相田から言葉は無い。ただ、少々イラついた感じの表情になった。

「と、杜仲よ……ここは非常に危険なのだ。早く沖に待機させてある艦に――」

 そう言って准将が彼の手を掴もうとした。


 スパァァァァァ――――――――ッッッン!!


「はぅぐッ!?」

 掴もうとしたその手が准将の頬を思いっきり引っぱたいた。

「なッ、なななッ……ななななななななななな――――――――――ッッッ!?」

 ハープが相田と准将を交互に見つめながらポカ~~ン。

「おいおいおいッ、アノ兄チャン……エライ事しやがったよッ!」

「若いねぇ~~! いや~~……オレも命が二つあったらやってみたいねぇ!」

 ビオラとファゴットは、これから発生する准将のリアクションが恐くてジリジリと後退中。

「アナタはまだ……まだこんな事をしているんですかッ! 恥を知りなさいッ!」

「ち、違うのだッ……ワタシは拘束された人質を解放するため、持てる力を最大限に利用し……」

「オレは認めません。常に武力を行使し、常に人命を軽視し、常に物量で相手を脅迫するアナタのヤリ方を」

 カチャ――

 相田が足元に落ちている自分のメガネを拾い、かけ直して准将をビシッと指差す。

「大嫌いですッ!!」

 毅然として言い放った。

「よく分からん状況だが……准将、アナタの軍部における権威は絶対的。できれば殺さず利用させてほしかったのですが、致し方なし。この地で『エリジアム掃討作戦』で死んでいった同胞達が歓迎してくれるでしょう」

 コンダクターが両目をカッと見開く。

 ズンッ――――!!

 准将めがけてデスペアが掘削重機のような勢いでその拳を突いた。

 ガッ…………グググッ――

「うぐッ! ついに本性を現しおったか、メスゴリラめッ!」

 コンダクターがたじろぐ。ズ太い鉄柱のようなデスペアの前腕を脇に抱えるようにして掴み取っている。

「鬱陶しいわァァァァァァァァァ―――――――――――――────ッッッ!!」

 気合い一発。一本背負いの要領で力任せにブン投げる。


 ズウゥゥゥゥゥゥゥン!!


 アスファルトの層が大きく割れ、底の方から土の層が見えるくらいの大穴ができる。

(500㎏近い重量を軽々と……!!)

 反射的に自分への応酬を感じ取ったのか、コンダクターは腰のホルスターからオートマチックを抜き、躊躇無く引き金を引いた。

 パンッ!

「うぐッ……!」

(――――何だ?)

 ホローポイントが准将の脇腹に命中し、軍服の一部と肉を派手に引き裂いた。が、彼女は銃弾が命中する瞬間、すぐ傍に居た相田杜仲をかばうようにして大の字になっていた。

「あッ……!」

 被弾して片膝を地に落とした准将を目にし、相田が小さく叫ぶ。

(盾になった? ……そうか、なるほど。あの准将が人質交渉などという面倒な現場に自ら現れたのはそういうコトか)

 小賢しいコンダクターが納得の笑みを浮かべた。脅威の権化であったダリア准将のすぐ傍に、致命的な弱点の存在を確認したのだ。

 パンッパンッパンッ!!

 連発。相田の傍から離れられない准将は、回避運動などとれるハズもなく、左右の太股に1発ずつと右の手の平に1発もらい、貫通した銃弾が筋肉を引き裂いた。

「おやァ~~、動きが鈍いですなあ。何かマズイ事態でも招きましたかな?」

 実にイヤラしい口調で呼びかけてくる。

(おのれッ、下衆め! それにしても……)

 准将は自らの身を挺して相田を護りつつ、先程自分が投げ飛ばしたデスペアに一瞥をくれた。

(おかしい……どうして〝あんな物〟が表沙汰になっている? エリジアムから抽出された全てのテクノロジーは軍部の中枢で厳重に保管されているハズ……よからぬバカが横流しでもしおったか?)

 彼女にとっては立場上非常に気がかりではあったが、今はこの窮地をどうにか脱しなければならない。そんな時。


 ヒュンヒュンヒュンヒュン――――


 頭上から小さく聞こえてくる空を切る音。かすかにサーチライトの光も見える。

(アレは……報道局のヘリか)

 テロの状況をメディアに流すため、『ポイント32』への離着陸を許可した唯一のヘリだ。そのヘリが何故だか闇空に姿を現している。

「おい、報道局のヘリがいるぞ。撤収の指示を出さなかったのか?」

 通信機を手に取り、コンダクターが上空を見上げながら問う。

<いえ、指示は出しました。取り付けた発信器から連中が本土の空港に帰還したのを確認済みです>

 テロ・Yが答える。

(……気に食わんな)

 コンダクターの形相にイヤな陰がおちる。戦略のプロの鼻がトラブルの前兆を嗅ぎ取った。

「構わん。北エリアのADATSをオンにしろ。破片型弾頭の地対空ミサイル(SAM)で撃ち落とせ」

<了解です>

 ヒュンヒュンヒュンヒュン――――

 ヘリは中央エリアの真上に位置し、ゆっくりと高度をさげていた。が……

 ヒュゴォォォォォ――――ッ!!

 闇を裂く噴射音。報道局のヘリめがけて放たれる無情なる出迎え。


 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッッッン!!


 命中。

「あ、アレは!?」

 絶望に苛まれ、完全に脱力していた蒼神博士と沈丁花の一行が顔を上げた。冬の冷たい空気は必要以上に音を響かせ、破壊の花火が彼等に絶望の追い打ちをかける。

(ちッ……やはりな。乗っていたのはカタギじゃない)

 コンダクターが不愉快そうに歯を噛み鳴らす。彼はハッキリと確認していた。ミサイルが着弾する直前、ヘリの操縦席から操縦士が闇夜へ飛び出したのを。

 バサッ!!

 爆発するヘリを他所にパラシュートが一つだけ開いた。

「あ、アカン! みんな逃げやあああああッッッ!!」

 一瞬呆けていたハープがハッとして声を上げた。大破したヘリが爆炎を纏い、彼等めがけて墜落してくる――――ハズだったが。


 ドオォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――ッッッン!!


 何かが高速でぶつかって金属が拉げるような轟音。その瞬間、蒼神博士達の真上に落下しかけたヘリの残骸が中空で軌道を変え、しかも、明らかに別の力が加算された勢いでデスペアめがけて――

 ズドオォォォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――ッッッン!!

 見事命中。


「ヒィ――――――――――――――ハァ~~~~~~~~~~~~~~!!」


 ズドォォォォォッンンン!!

 島中に聞こえそうなくらいのけたたましい叫喚と共に、何かが大落下してきた。

(な……なななッ……一体、何だッ!?)

 コンダクターの表情から余裕の色が消え、焦燥感がジワッと浮き出た。

 ユラッ……

 大破したヘリを呑み込む炎をバックに、落下した人間が巻き上がる粉塵の中でゆっくりと立ち上がった。既にそれだけでも驚異だが、ソイツは怪我を負った様子も無く、巻き上がる粉塵の中から一歩踏み出した。その手には何故だか『携帯型ゲーム機』が握られてて……

「は、博士……ハハハッ、どうやら真打ちが到着したみたいですね」

 エンプレスが呆れたように笑った。

「ええ、最高のクリスマスプレゼントですよ」

 疲労困憊し、寄宿舎の瓦礫にもたれかかりながら蒼神もまた笑った。

(おのれッ、下らんマネをッ!)

 水をさされて憤慨したコンダクターが、ナイトビジョン付きのライフルを構える。そして、突如降って来た珍客の顔面に照準を…………合わせ……て。

「ひッ!?」

 ガシャ!

 ライフルが彼の手から滑り落ちた。同時に、彼の義眼がポロッと外れた。相手の顔が確認できてしまったから。認識してしまったから。本能が〝ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!〟と連呼し始めたから。

 ザッザッザッ……ピタッ

 止まった。ソイツはゲーム機のモニターを食い入るように見つめつつ、硬直した。そして、夜空を仰ぎ――


「ちっくしょおおおおおおッッ!! 若王子先生がおとせねええええええッッ!!」


 ――喚いた。

「……………………………………………………………………???」

 現場の一同、大沈黙。落下してきた物体――汐華咲。コイツ……とき○モGSやってやがった。


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