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最前線の攻防と近所迷惑

「隠れんぼは終わりだあッ! 出てきなあッ!」

 コンクリ壁を跳び越え、一喝しながらビオラがリビングに突入する。まだ催涙ガスが立ち込める中、彼女はガスマスクも装着せず瞬時にして神経を張り詰め――

 ユラッ……

 大気が流れる。ガスとともに“臭い”は外へ。

(あれッ、この臭い……ドコかで……!?)

 外で待機するコントラが鼻をヒクつかせ、ハッとした。

「そこかあああああああああああああ――――ッッッ!!」

 揺らいだ人影めがけ、合わせた両方の握り拳を振りおろす。

「これはッ……ダメッ、ビオラ戻って!!」


 どッ……


 肉と肉がぶつかる鈍い音。

「せぇ~~かぁ~~い★」

 ビオラの渾身の一撃を突き上げた掌底で受け止め、口元をイヤラしく歪める黒いゴスロリ少女。

「――――おッ、テメーは!?」

 お互いの目が合った。その瞬間、ビオラの視界に現れたのは『足の裏』。

 ――――ゴッ!!

 ゴスロリ少女の両足がものすごい勢いで顔面にめり込み、ビオラの体が重力の束縛から解放されてしまう。


 ボゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッッッ!!


 コンクリ壁を突き破ってコントラの元へと帰還。

「ひッ……ひィィィィィィ――――ッッッ!?」

 足元に瓦礫と気絶した仲間が転がって、コントラは女の子みたいに絶叫して腰を抜かす。

「ぬぅ……ならばッならばッ」

 ホルンがその小柄な体格をフル活用し、崩れかかっているコンクリ壁を足場に跳び上がって家屋の壁にへばりつき、スルスルと猿のように2階の窓の前までやってくる。そして、窓を開けて侵入を試みるが。

 ――ビュッ!

「うひゃッ!?」

 窓を全開した途端に液状の物体に襲われ、上体を反らしてなんとか回避。

 ジュゥゥゥゥ……

 飛び出してきた液体は屋根の一部にかかり、焦げ臭い煙がたつ。

「あら、外れちゃったわ。デビル」

 部屋の中に立つ少女……スターの手には一丁の水鉄砲が握られていて、どうやら強酸性の液体を撃ち出したらしい。

「それじゃあ、今度はこっちの番だね。スター」

 隣に立つ弟がスーツの上着をめくり、内側に隠し持ったホルスターをさらす。ただし、ホルスターに納まっているのは拳銃ではなく何故か包丁。

 ヒュッ――!

 投げた。

「あひゃッ!?」

 小さくジャンプして回避するが、なにぶん足場が悪いため着地に失敗。

 ツルッ――

 っと滑って、ポトッと落下。

 ――ガッ!

 ホルンの頭が軍靴で踏みつけられ、グリグリっとされる。

「状況を報告しろ」

 ダリア准将、到着。無様に転がるホルンを切れ長の鋭い瞳で見下ろす。

「筋肉バカが迎撃され、はい、迎撃されまして、あっしもこのザマで……」

 ホルンは冷や汗で顔面を濡らしながら返答する。

「コントラ、来いッ!」

「あ……は、はいッ!」

 准将に呼ばれ、ヘタリ込んでいた少年は素早く立ち上がって駆け寄る。

「ターゲットは間違いなく中に居るのか?」

「そ、それは……はい、絶対に……」

 コントラが必死になって鼻をヒクつかせる。

「ただ、その……別の臭いがあって、その臭いが以前に……」

「何でもよいわ。ターゲットの所在さえ確定していれば、どのような連中がかくまっていようと逃がしはせん」

 准将が憤りと興奮の混じったテンションで、両手の指をゴキゴキと鳴らして身構える。

「部隊長ッ、どうなっているッ!?」

 杜若室長が輸送車の陰に隠れながら呼びかけてきた。

「わ、分かりません……監視衛星で確認した限りでは、中の連中には移動した様子が無く、負傷した隊員も何が起きたのかハッキリしておらず……」

 部隊長の焦燥しきった表情を見る限り、現場の連中からも要領を得ない。

(マズイな……悠長に沈丁花の監視などしている場合じゃないぞ)

 彼は拡声器を手に取ると、小さな戦場と化してしまった隠れ家の前に仁王立ちになる。

<中に居る者へ告ぐッ! こちらは内務庁直轄・国家調査室だッ! オマエ達に逃げ場は無い。このまま下らん抵抗を続ける気なら強行突破も辞さない。直ちに武装解除して出頭せよッ!>

 警告も無く二個小隊を突入させておきながら、今更そんな虚勢をはってどうするのか。

「……………………」

 一同、数秒間の沈黙。で、杜若室長の要請に対し――


「やっかましいわアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッッ!! 御近所様にメーワクかかるでしょうがアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッッ!!」


 1階のリビングから、とっても御近所様に迷惑のかかるダミ声が返ってきた。

「……………………」

 一同、結局沈黙。負傷した隊員達も沈丁花のメンバーも等しく瞠目するだけ。

(おい、この声は……!?)

 准将は鼓膜の振動から不吉な感覚を感じ取った。彼女は右の手の平を隣に立つコントラの鼻先に当て、神経を集中させる。


 ―――――――――― 『林檎拾い(テンペスト)』展開 ――――――――――


 コントラの脳内で発生した電気信号が瞬時にして解読され、彼の嗅ぎ取った臭いの元が判明する。

「ちィィィィィッ!! なんという間の悪さ!!」

 准将が忌々しそうに下唇を噛みながら眉間にシワを寄せた。

「昼飯時に平和な住宅街を荒らすようなDQN共がアアアアアッ! 謝るなら今の内だぞオオオオオッ! 全裸に靴下のみになってそろって土下座すれば、許してやらんこともないッ! オマワリさんに捕まったら“反省はしてますが後悔はしてません”って、紳士みたいな態度で言ってやれエエエエエッ!」

 リビングから届くワケの分からん叫び。

「一体、何だ? 中に居るのは何者だ?」

 バカにするような返答を受けてしまい、室長は戸惑うばかりだ。ただ、この声……ドコかで聞いた覚えが?

「ハープ、装備を解禁しろ。1階から突入する」

 准将が冷静な口調で部下に指示する。

「ええンか? ターゲットに当たりでもしたら……」

「ガキは2階に移動済みだ。オマエは1階を陣取る敵性因子二名を排除しろ」

「ふんッ、うちが活躍する番やな」

 沈丁花の元『掃滅型』リーダー・ハープが好戦的な笑みを浮かべ、左の二の腕を包んでいた金属製のカバーを外した。

 ガコンッ……

 外したカバーが地面に落下し、ハープの二の腕に巻きつけられた見慣れぬ物体が露わになる。外見は巨大なムカデを連想するような形状で、二の腕に装着した専用の手甲に先端が繋がっている。

「准将、アレは何ですか?」

 杜若室長が怪訝な面持ちでハープを指差した。

「気にするな。単なる大きめのアクセサリーだ」

 准将は室長に目を向けることもなく、おざなりな態度をとる。

「准将……先程も申しましたが、私は沈丁花の作戦行動を監視する任も言いつかっています。どのような装備が実戦で使用されるのか、詳細を確認しておく義務がある」

 室長が食い下がった。

「軍部で開発したばかりの局地戦用個人装備だ。化学的に合成したプラスチックフィルムと、遺伝子操作したラットの心臓を構成する筋肉の細胞を組み合わせた人工筋肉の一種に、小型超振動ブレードの刃を幾枚も縫い付けたモノだ。手甲から入力される電気信号によって伸縮する機能を持つ」

 素人には何の事やらさっぱりな説明を受け、室長はアゴに手を当てて軽く溜息をついた。

「准将、それもまた『エリジアム』が産んだテクノロジーの一端ですかな?」

「黙れッ、ヒヨッコが軽々しく口にするなッ」

 グッ――!

 何かを見透かしたかのような室長の顔つきに、思わずイラッとした准将が彼のネクタイを無造作に掴んで引っ張った。

「准将、先に行くでえッ!」

 ヤル気満々でハープが気絶しているビオラをまたぎ、リビングへと跳び込む。催涙ガスはすっかり外に流れ出していて、視界は良好。すぐ目の前にはさっき叫び声を上げてた輩が仁王立ちしていた。

「この無礼者ッ、親から習わなかったのかあ!? 他所様の家に土足で上がっちゃいけませんって! で、上がるのは玄関からだって! で、むやみやたらに乳を揺らすなって!」

 突入して早々に意味不明な説教を受けた。あからさまな変質者から。

「んんッ? アンタぁ……どっかで?」

 ハープには汐華咲との直接的な面識は無い。が、PFRS沖で勃発した咲と棕櫚の闘争を衛星放送で観ていた。映像の状態があまり良くなかったので、咲の人相をハッキリと記憶してはいない。

「人様の顔を指差すんじゃありません! 初対面の相手にはまず自己紹介からはじめましょう!」

 そう言いながら握ってる折りたたみ傘の先端でビシッと指してきた。

(何やねん、このアホ丸出しの変態は?)

 気合い充分で突入したというのに、対峙した相手は絶賛悪フザケ中だった。

「へいへい……うちはハープ。ダリア准将率いる部隊の――」


 ――――ゴッ!


 またしても相手の顔面に咲の両足がめり込み、ハープの体が宙で一回転しながら吹き飛んだ。

 ガッ――!

 地面に叩きつけられワンバウンドし、ビオラの隣に並べられそうになったが、准将が吹き飛んできたハープの足首をつかんで止めた。

「バっカじゃねえええええッ!! 敵の目の前で自己紹介始めてやんの!! どう思う!? ねえ、どう思う!?」

「もうなんか恥を知れってカンジぃぃぃぃぃ!!」

 見るからに情緒不安定なゴスロリ(黒)とその相方(白)からバカにされた。

「くぅ……ち、畜生がァァァァァ!」

 顔面にクリーンヒットしたドロップキックで脳が揺さぶられ、足元がおぼつかないままハープが身構える。リアルに鼻血を吹いちゃって、少しマヌケに見えてしまう。

「ハープ、装備の電気信号を遠距離モードに固定しろ。突入は止めてここから牽制だ。ファゴット!」

「ういっす」

 准将に呼ばれ、元『偵察型』リーダー・ファゴットが――跳ぶ。

 ダンッ!

 ホルン以上の身軽さと跳躍力で、あっという間に2階の窓から侵入をはたす。

「わわッ……入られちゃったよ。スター」

「あらまッ……気配を感じなかったわ。デビル」

 迎撃するハズだった双子が驚愕し硬直している。彼等の後ろには……すっかり怯えきっているターゲットの姿が。

「よぉ~~し、発見。じゃ、いただきますぜ」

 ファゴットの右手に構えられた黒塗りのナイフが鈍い光を放つ。双子は動けない。明らかにさっきの小男とは違う膂力を感じ、ゆっくりと後ずさり――

「きゃあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」

「わああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」

 大・絶・叫。その近所迷惑な声は家中に響き渡った。


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