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prologue

この小説は私の初オリジナル作品です。

稚拙な文章になるかと思いますが、楽しんで頂けたら嬉しいです。

 女友達が家に上がり込んで来たときに見られて一番困ることとは、一体何なのか。


 散らかっている部屋?

 確かに困るけど、一番ではないだろう。


 あちこちに隠された如何わしい本?

 かなりの精神的ダメージを受けるだろうけど、まだ何とか大丈夫だろう。


 では、一体何なのか。

 そんなの、決まってる。


「何々?氷結の帝王?くくく、何だよ氷結の帝王って!こいつ、17、8ぐらいにしか見えないけど帝王名乗っちゃって良いの?え、魔王の氷槍って何なの!?帝王じゃないじゃないか!」


 8年前、中学2年生の時に書いた黒歴史本である。

 痛々しい妄想が書き綴られた恐ろしいモノである。


 そんな本を見られるばかりか、あるところは音読し、あるところは感想を言われるという拷問を現在進行形で受けている僕は、どうすればいいのだろう。


「魔法に超能力、おお、オークとかも居るじゃないか!アリアの頭の中は凄いことになっているな!うわ、なんだこの世界観は!?ビルとお城が仲良く並んでいるぞ!?凄い、凄いぞこの本は!見ている私の方が恥ずかしくなってきたじゃないか!」

「……それを聞いている僕は、恥ずかしいを通り越して泣きそうだよ」


 僕のベッドで爆笑するユーリと、何故か正座で聞いている僕。

 物凄く懺悔したい気分である。


「あはははは……ふぅ。いやぁ、笑わせてもらったよ!こんなに笑ったのは、ホント久しぶりだ!」

「……こんなに泣きたくなったのは久しぶりだよ」


 キッと睨んで見たけど、そんなことでユーリが自重する筈もなく。

 ペラペラと本を捲りながら、流し目でニヤニヤしながら声を掛けてきた。


「まぁまぁ、そんな顔をするんじゃない。折角の格好良い顔が勿体無いぞ?」

「……こんな顔、要らないけどね」

「ハンサムはこんなことを言う。もっと自分の顔の良さを自覚した方がいいぞ?」


 む。

 少しムカついた。

 確かに僕は中々に格好良い部類だとは思うけど、この顔のせいで色々迷惑を被ってるのはユーリだって知ってる筈だ。

 ハンサムっていうのは周りから羨ましがられるものなのに、誰一人そんなこと言わないじゃないか。

 言う奴は頭がどうかしてるだろうけど。


「僕がハンサムな訳ないだろ」

「何を言っている、ハンサムじゃないかアリアは。目を少し変えれば」


 そう、この目が全部悪いんだ。

 この絶望的なまでに悪い目つきが、僕がハンサムになれない原因だと思う。

 僕が出している(と思う)優しいですよオーラも帳消しどころかマイナスに思いっきり突き抜けるこの目さえなければ、僕はモテモテの人生を歩めたはずなのに。


 サングラスをして隣町に出かけたら逆ナンパらしきものをされたから、舞い上がってついサングラスを外してしまってもう凄いことに。

 鼓膜が破れるかと思うほどの悲鳴を上げて逃げるものだから、慌てて追いかけてしまった。

 ……いきなりの悲鳴だし、逃げられたら追いかけたくなるものだから、僕は間違ってないと思う。

 地元ならまたお前かと思われて終わるところだけど、そこは生憎隣町。

 僕を何と勘違いしたのか分からないけど警察が追ってきて、仕方ないから連行された。

 無実を証明できて帰ろうとしたときに、何人も人を殺した男の目をしていると聞こえたのは、気のせいであってほしい。


 逃げられるならまだマシで、気に食わないとかいう理由で喧嘩を売られるのも日常茶飯事。

 僕には全くその気は無いのにあまりにも不良に絡まれ続けるから、目が異常に良くなってきて、並みのパンチじゃ当たる気がしないほどになってしまった。

 絡まれる度に倒しているから、ここら一帯は僕が牛耳っていると言ってもいい程だ。


「そういうユーリはどうなのさ」

「自覚しているぞ。私は美人だ。巨乳ではないが、中々に綺麗な胸をしているしな」


 本当に美人だからまた腹が立つ。

 艶のある黒髪をポニーテールにした、勝気な美女。

 キリっとした目の、格好良い系の顔立ち。

 170前半は有るだろうスラリとした長身に、これまた長い脚。


 胸だってしっかりある、モデルみたいな体のこいつの性格がこんなのなのは、確実に神様のミスだろう。

 人を弄らないと生きていけないなんて胸を張って言うユーリは、人間的に間違っている。

 そして、女好き。

 一回僕とどうして一緒に居るのかと聞いたときに、とても残念な答えが返ってきた。


「アリアのことが大好きだからだよ。女の子だったなら、私は君のストーカーになっていただろうね」


 本当に、どうかしてる。


 ずっと本の感想を聞かされるのは堪ったものじゃないので、この部屋から抜け出すことにする。


「お酒、買ってくるよ」

「ん。私も一緒に行こう。アリアと居ると退屈しないからね」

「どういう意味だよ、それ」


 まあ、黒歴史を読み漁られるという拷問からは抜け出せるみたいだから、よしとしよう。















菖蒲野(あやめや)有里明(ありあ)有里(ありさと)克季(かつき)だな?」


 神様はコンビニすら満足に行かせてくれないのか。

 名指しってことは、確実に面倒事だ。

 サングラス掛けてるのにどうして分かっ……ユーリか。

 ユーリには悪いけど、一人でも大丈夫だろう。


「いえ、違いますよ。有里さんはこの人ですけど、私は菖蒲野さんではありません」

「こんな特徴的な名前でこんな特徴的な目をした奴が何人居ると言うんだ?ん?」


 まあ、そうだね。

 こんな名前をつけた親の頭は一体どうなってるんだろうね。

 僕は男なのにね。

 でも、特徴的な名前と言ったらユーリだって男みたいな名前をしているじゃないか。

 名前で呼ばれたくないから、有里でユーリって呼んでくれって言ってきたじゃないか。


「ユーリの方が目立ってると思うよ、いっても綺麗なんだし」


 何だよそのゴミを見るような目は、褒めたじゃないか。

 ……諦めろと、神が言ってるのだろうか。


「そうですよ、菖蒲野有里明さんですよー。だったら何なんだ、僕はそこのコンビニに用があるんだけど」

「そうかよ。でも俺たちはお前らに用があるんだ」

「……僕、お酒買ってくるから。頑張ってね、有里克季クン」


 ユーリにサングラスを叩き割られた。

 ……これは怒ってるな。

 でも、犠牲は付き物というじゃないか。

 四人ぐらいユーリ一人で倒せるくせに、何を怒ってるんだ。

 僕のせいに決まってるじゃないか、何やってるんだ僕。


「頑張ってね、菖蒲野有里明ちゃん」

「……はぁ」


 僕の目より恐ろしい目をされたら、頷くしかないじゃないか。

 笑顔なのに全く笑ってないぞ、あの目。


「……で?一体何の用なのかな?僕も別に暇じゃないんだけど」

「へっへっへっ……戸村(とむら)のアニキを、よくもやってくれたなぁ……!」

「戸村?誰か分からないけど……とりあえず、あっちに行こうよ。コンビニの前で倒られたら、コンビニに迷惑が掛かる」

「言ってくれるじゃねぇかよ……!逃げんじゃねぇぞ!」


 そういって、僕達に背を向けて歩き始める怪しい人達。

 笑いを堪えたユーリを横目に、僕は思う。


 この人達、莫迦でしょ。















 路地裏に入った瞬間に不意打ち気味に側頭部を蹴り飛ばす。

 ハイ、一人撃沈。


「き、汚ぇぞ!」


 1対4で何が汚いっていうんだ。

 見るのも飽きたテレフォンパンチを捌いて鳩尾に膝。

 カクンと崩れてさようなら。

 見ていた人は、僕の強さに吃驚したのかナイフ片手に走ってきちゃった。

 ナイフなんて危ないものを持って突撃しちゃいけませんって、先生に習わなかったのかな?


「……え?」


 ほら、自分の胸に刺さっちゃったじゃないか。

 ジゴウジトクってやつでしょう。


 振りかえると、最後の一人の顔面をユーリがフルスイング。

 おお、これはホームランだ。

 うん、手伝ってくれたのはありがたいけど……


「鉄パイプは、流石にアウトだと思うよ」

「可愛い乙女に素手でやれと?そんな酷いことを言うのかいアリアは」

「ユーリが乙女ならこの人達だって乙女だね」


 てつパイプがとんできた!

 アリアはどうする?

 そんなの、決まってるよね。


「……腕が痺れるね」

「鉄パイプ受け止めて感想がそれかい?つまらないよ」

「もう慣れたんだよ」

「初めの頃は中々に面白いリアクションだったのにな……チェーンソーでも飛ばせばいいか」

「真剣にやめてね、頼むから。僕はまだ死にたくないんだ」


 冗談に聞こえないところが恐ろしい。

 ナイフが刺さった人は抜かなければ大丈夫だと思うけど、ユーリのあれは顔が陥没しちゃったんじゃないかな。


「顔、可哀想にね」

「ん?誰のことだ?」

「もう忘れたの?」

「忘れてあげた方がいいと思うぞ」

「……分かった」


 向こうも僕達のことを必死に記憶から抹消するだろうから、僕もこの人たちのことは忘れてあげよう。


「チューハイ頼んだぞ」

「はいはい」

「いいか、梅だぞ?梅以外は認めんからな」

「付いてくるんだから自分で選びなよ」


 無駄な時間を食ってしまったことに舌打ちをして、路地裏から一人コンビニに向かう。

 ……一人?


「ユーリ、行くよ?」

「ん。……」

「?どうしたの?」

「いや、な?動けないんだ」


 ついにおかしくなってしまったのか。

 元からおかしいのに、なんて可哀想な。


「動けないというか、引っ張られてるな、うん。アリア、助けてくれないか?」

「からかうのもいい加減に……」

「信じてくれたか?」

「……うん」


 ユーリの右腕が、丸い影に呑まれていた。

 肘の辺りまで呑み込んで、それはさらに侵食していく。

 全く理解出来てないけど、まあそういうことなんだろう。


「見てないで助けてくれないか?」

「う、うん。……助けるって、どうやって?」

「そう言われると困るな。とりあえず、腕を引っ張ってくれ」

「わ、分かった」


 グッと腕を掴むけど、ビクともしない。

 どうなってるんだこれ。

 何故か顔を赤らめて、ユーリが耳元で囁いてきた。


「……エッチ」

「はぁ?」

「動けない女の人の体に触れるなんて、エロスが駄々漏れじゃないか」

「……救いようがない莫迦だよね、ユーリって。手、離すよ」

「嘘々、冗談だって。それに……」


 やめろ、そのしたり顔。

 何を得意げになっているんだ。


「もう、アリアも動けないだろう?」


 影は僕の腕まで呑みこんで、大きさは2メートルを軽く上回ってる。

 この分だと、全身が呑まれるまで2分程か。


「そういえば、有里という字が名前に使われているという理由でアリアに近づいたんだったな。今になって思うと、あれは大正解だな」

「何急に語り出してるの。気持ち悪いよ」

「セルフ走馬灯。私の走馬灯をアリアにも感じて欲しくて」

「莫迦なこと言ってる場合じゃないでしょ。僕、まだ死にたくないし」

「いや、この影の向こうには酒池肉林が待ってるかもしれないじゃないか。そう考えるとワクワクしてきたぞ、私」

「随分と楽観的だね」

「悲観的になって何になるんだ。人生楽しまないと損だぞ」

「その人生が終わるかもしれないときに何言ってるんだよ。……酒池肉林って、どんな?」

「おいおい、結局話に乗ってくるんじゃないか」

「うるさいな。呑みこむのが遅いんだよ、これ」

「多分、遺言を残せってことじゃないか?ああ、きっとそうだよ」

「結局死んでるじゃないか」

「まあまあ……来世は、どうしたい?」

「とりあえず、“目つきを何とかしてくれればいいよ”」

「そうか。私は、またアリアと一緒に居たいな」

「何それ、愛の告白ですか?」

「うん、まあ、そうなるのかな。なら、“アリアは女の子として生まれてきて欲しいな”」

「僕みたいに目つきの悪い女の子がいたら、悲劇だよ」

「ああ、喜劇だね」


 体が、呑まれていく。


「おお、顔半分が無くなったぞ!これは面白い!」

「……面白い?」

「消えるのに、消える瞬間が見えるんだ。とっても不思議じゃないか」

「……ねえ、ユーリ」

「ん。何だ?」

「友達になってくれて、ありがとうね」

「おお、最後の最後でデレか!可愛いなぁ」

「いや、この目でも友達になってくれた奴って、ユーリとケンだけだからね」

「おお、そうだ。ケン、完全に放置だな」


 落としたケータイから、お気に入りのインストが流れ出す。


「今鳴ってる着信、ケンからのだ」

「出てあげなよ」

「両手呑まれてるのにどう出るんだよ」

「確かに。それじゃあ、来世で会おう」

「死ぬの確定か。まあ、仕方ない。痛みのない死で良かったということにしよう」


 妙に冷静だな、僕。

 まあ、そんなもんか。


 影に体が呑み込まれ。

 意識が黒に塗り潰された。















「……続いてのニュースです。日本国内で謎の影に呑み込まれるという怪事件が相次いで発生しており……」

「……アホらし。そんな変な話ニュースで流すなや。このテレビ局正気かホンマ。そんなんどうせデマに決まってるやん。殺人事件の後にそんなん流れたら気ィ緩むで。……なんや、アリアまで出えへんやん。あいつらケータイ失くしたんか?……こんなんやったら、“俺もあいつらんとこに行ったら良かったんかな”」















 頭が痛い。

 何か体が変わったような、ムズ痒い感覚。


「……んぅ……」


 光が、差し込む。

 少しづつ、頭が覚醒していく。

 瞼を開けて最初に見えたものは、ユーリの胸と二つの太陽だった。


「……え?」

「ん、目が覚めたか」

「……うん」


 頭を上げる。

 どうやら僕は、ユーリに膝枕をされてたみたいだ。

 あと、自分の声が高い。

 ユーリを見ると、凄くニコニコしていた。



「どうだ、気分は」

「……頭が痛い」

「そうか。……どうだ、気分は」


 ああ、分かるよ。

 何が言いたいのか物凄く分かるよ。

 確実に、ユーリは。

 女になった気分を聞きたいんだろう。


「……喪失感」

「ん。それはアレを失くしてしまったことからかい?」

「……多分」

「……もっと驚くだろう、普通は」


 寝惚けていてよく分かってないからだと思う。


「……顔、見るか?」

「……うん」


 頷くと、近くの湖までおんぶで連れて行かれた。

 おんぶされているというのに、寝惚けているからか羞恥心が全く働かない。

 湖に顔を覗かせると、一瞬で僕の眠気は霧散した。


 そこには、美少女が映っていた。

 ユーリに似て艶やかな黒髪を腰まで伸ばした160後半はある体に、健康的な肌。

 勝気な容貌の、スポーツ少女といったところか。

 ユーリと並べば姉妹と思われてもおかしくはないだろう。


 ……いや、そんなところはどうでもいい。

 別に男だろうが女だろうがどうでもいいのだ。

 もっと大切な部分があるじゃないか。


 僕の目が。

 僕の目が!

 殺人鬼の目とまで言われた僕の目が!

 可愛らしい目になっているではないか!

 キツめの目ではあるけど、前の目に比べたら天使だよ、天使!

 幸せとは今のことを言うんじゃないだろうか!


「僕の夢が叶ったぞ!やった!」

「私の夢も叶ったぞ!やった!」


 僕とユーリは手を取り合って、クルクルと。

 今、恥も外聞もなく叫びたい。

 神様、本当にありがとうと。


 心を落ち着かせるために20分も費やしたけど、それ程の歓喜に満ち溢れていた訳で。

 いったん冷静になってみると、かなり意味不明な状況に置かれていることに気が付いた。


「アリアが女になるという夢も現実になり、アリアの目つきがマシになるという夢も叶ったところで、今の状況を整理しようじゃないかアリアちゃん」


 僕を腕の中に抱いて、ユーリが話す。


「うん、その前にアリアちゃんはやめよう。あと、抱きかかえる必要もないよね」

「いいじゃないか。私の夢が叶わなかったら、アリアの夢も叶わなかった訳だからね。ちゃん付けはやめるから、抱いてても構わないだろ?」

「あ、うん。……あれ?」

「まあまあ……ほら、状況整理だアリア」

「うん。……状況整理したところで全く理解できないけどね」

「まあ、あの影がカギを握っているんだろうな。だから何だって話ではあるけども」

「僕的にはそんな終わったことより、今見ている風景をどうにかして欲しいんだけど」

「ああ、あれか。中々のセンスをしているねアリアは」


 そう言ってギュッと僕を抱きしめるユーリ。

 いや、冗談じゃないですよ、洒落になってませんよコレ。


 遠くからでも見える大きな城。

 お嬢様が住んでいそうなメルヘンチックなお城。

 ……の隣に矩形のビルが建ち並ぶ。

 澄んだ空には赤の太陽に青の太陽。

 美しい空を悠々と飛び交う赤いドラゴン達。

 ……の下を走る電車。


 ……ちょっと、世界観どうなってるんですかー!

あなたの感想と評価が、私の糧となります。

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