美月
待って。待ってよ。
手を伸ばしても届かなくなることはわかっていた。わたしの場所は此処しかない。誰かが気づくまで、私は孤独。長い間、暗闇を漂い、泳ぎ、それにも飽きて、眠る。いつか誰かが私を目覚めさせると信じていた。でも、いつまでも光が照らすことはなかった。
待って。待ってよ。
長く眠りつづけることに苦痛を伴い、足掻く。しかし、足が無いことに気づく。私は死んだんだな。死ぬことはこんなに辛いものなのかな。泣こうとしても目がないことに気づく。久しぶりに呼吸をしてみようとするも口や鼻が無いことに気づく。耳を済ましても心臓の心地好いテンポが伝わらないことに気づく。私が動かせるのは左手だけであることに気づく。痛くはない。私は一瞬で身体の大部分を失った。痛みを感じる前に黒の世界へと行くことが出来た。こんた、あなたのおかげ。それでもわたしは眠る。
だから、待って。待ってよ!
手に何年ぶりかの刺激が走った。久しぶりに感じた痛みに、私の意識は水をかけられたかのように覚醒する。白の世界から手が伸びてくる。私はその手を握ることをしてもいいのだろうか?
迷うわけにはいかない。その手が白の世界に戻って行く前に、掴まなければならない。私をまた引っ張りあげてくれるかもしれない。私は無我夢中でその手を握った。体温を感じた。懐かしい体温だ。
握った手を話すことが出来ない。だけどその手は、強い力で振りほどき、私を置いて白の世界へと戻っていった。こんたの手だ。きっとこんたの手だった。
この暗闇に黒の世界に光が満ちはじめた。
こんたが、何かを落としていった。四角い物体だ。適当に操作をする。人の声が聞こえてくる、不思議な物体。わたしは適当に操作を続ける。また、声が漏れはじめる。漏れてきたそれは、わたしの声と似ている、いいえ、これはわたしの声ではないだろうか? わたしはこの子と会ってみたい。わたしの居場所をこの子に伝えた。
久しぶりにお話をするのは酷く疲れた。わたしの伝えたいことをわかってくれただろうか?
あなたと会えれば、わたしはきっと、こんたと繋がる。