遊び道具
家の庭に乱雑に自転車を転がし、玄関で靴を脱ぎ捨てる。階段を駆け上がり、自分の部屋へ。
押し入れの中に要らないものやら要るものやら様々なモノで埋め尽くされている。本当のことを言うと、あまり押し入れはいじくりたくない。捜し物をするだけで、部屋に余計なモノが流れ込んで来ることが容易に予想することが出来る。しかし、遊び道具はここに詰め込まれている。
「開けるしかないか」
独り言を言ってしまうほどに、ここを開けてしまうのは煩わしい。襖は噛み合わせが悪くなっており、角度を変えながら何度も引っ張らなければ、開放することが出来ない。何度も引っ張り、何とか襖を開けることに成功する。
洋服や本、箪笥、ごみ箱など様々なモノが目に入ってくる。それらを押し入れから取り出し、床に置く。作業を繰り返すと同時に、部屋が足の置場も無くなっていく。わかってはいても、うんざりしてくる。
押し入れにスペースが空き、奥に古くて大きな段ボールが見えはじめた。
「なんで、こんな奥に片付けたかな」とぼやきながら、段ボールに手を伸ばす。
何かに引っ掛かっているようで、力を入れても引っ張り出すことが出来ない。無理矢理引っ張り出すと、押し入れの奥で豪快に崩れる音がした。僕はそんなことを気にはしない。
その段ボール箱の中身は、ケンダマやらベイゴマやらカルタが詰め込まれている。昔からの馴染み深い遊び道具。使い込まれた跡がしっかりと残っており、懐かしい。
僕はそれを一つ一つ持ち上げて、刷り込まれた思い出を取り出すかのように観察する。懐かしい、いつまでも忘れられない大切な宝物。僕はそれを心で感じながら、確信した。
「...そういうことか」
僕は一つ一つの思い出を感じながら、全ての意味をしる。涙が溢れてはこぼれ、拭ってはこぼれ、僕の思い出を濡らしていく。いつまでも、馬鹿騒ぎをして、ケンカして、仲直りして、また笑って、繰り返して、青春していきたかった。誰でも考えてしまう。このまま時が止まれと。
「みんなゴメン」
徐々に身体が消えていく。僕は全てを知ってしまった。それならば、僕は、もう続けることは出来ない。たとえ、みんなと遊ぶことが出来なくなっても、時を進めなければならない。このまま永遠の時間の中で居続けることはしてはならない。
「どれか、一つを持っていったって罰は当たらないよな」
僕の得意だった、ベイゴマを持って行く。
「僕は死んだんだな」
頬を涙が濡らす。僕の秘密基地まで届けてくれ。この思い出の詰まった段ボール箱を。
「みんなゴメン。僕は先に行く」
僕はゆっくりと永遠の時の針を進めた。いつまでも僕は、四人で居続けることは出来ないんだ。
身体がゆっくりと世界に溶けていく。光の粒子が流れて、あの場所へと続く。