表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

選択

 走る。足が溝に埋まり、バランスを崩す。手をつき、身体を立て直す。蝉が泣きはじめる。これからが夏が始まるんだ。四人の秘密基地を作り、形を残す。ダレのために? 僕はただの暇つぶしのつもりだった。でも、それには大きな意味があると、気づかせてくれた。鬱陶しい草を払いのける。

 僕たちの秘密基地を作る場所にたどり着く。

「勝人、和博」

 息が詰まり、荒く、大きく呼吸する。そこには勝人と和博がいた。

 振り向く二人は、僕を見て驚く。

「どうした? そんなに慌てて」

「幽霊でもみたんじゃないのか? 」

 膝に手をつき、心臓を落ち着かせる。

「ま...」

 声が出ない。

「真佐美は? 」

 顔をあげて、二人に尋ねる。

「真佐美? 真佐美がどうかしたのか? 」首を傾げて答える勝人。

「それより、こんなに朝早くからどうした? 」嫌らしい笑い方をしながら言い、そして僕に聞き返す和博。

「そんなに秘密基地作りが楽しみだったのか? 」

「それよりも、真佐美は?」

 焦りながらも感情を抑えて、再度尋ねる。

 勝人が僕の空気を察して、僅かに顔を厳しくする。

「何があったか聞きたい」

 僕は美月にあった。真佐美と同じ顔、同じ声。どれもが真佐美と似通い、だけど確実に違う。説明は出来そうにもない。だけど、ここにたった一つの希望がある。

「勝人、和博、どいてくれ」

 僕は勝人と和博で隠れた穴を確認するために駆け寄る。

「あ...穴が無い?」昨日までは確かにあった、その場所に膝をつく。

「どうした? 根太、お前変だぞ?」勝人が心配して、僕の背中に声を掛ける。

 ゆっくりと風が流れる。木々が揺れ、一つ、二つ、小枝や枯れ葉を踏み歩くリズムが聞こえはじめた。

 僕はまだ地面を見下ろし、動くことは出来ない。

「お、真佐美か」勝人が驚いた顔をする。

「なんで真佐美もこんな朝っぱらから来てんだよ」と含み笑いをしながら言う和博。

 僕も背中越しに、顔だけを後ろへ向ける。足元からゆっくりと見上げる。

「美月...?」

 勝人も和博もわかんないのか? あれは美月だ。僕がおかしくなっているのだろうか?

「おはよー」

 なんて、明るい笑顔だ。穴があったはずの地面をかく。柔らかく暖かい泥を握る。

「朝早くから山で秘密基地作りとか」心持ち肩を降ろす勝人。

「ま、受験生のやることじゃないな」と続ける和博。

 いつまでも、表情をさらけ出してはいられない。僕はどちらかの行動を選択しなければならない。

 この目の前の女の子を美月と認識するか、真佐美と認識するか。僕は。

「お早う。真佐美」

 こうするしかない。僕がキチガイになってしまったんだ。

「さっきも挨拶したよー」

 真佐美の笑顔が、酷く歪んで見える。

「こんた、まだ水汲み終わってないでしょ?」

「...うん」

 秘密基地の入り口から出て行く真佐美。

「一緒に帰るよー」

 僕は誘われるようにその場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ