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爽やかな朝

 目を開ければ、染みが広がる古い木造の天井。部屋のベッドで目を覚ます。

 懐かしくて暖かい夢を見ていた気がする。いつまでも漂っていたい夢だった。

 上半身をあげるも、目がかすみぼんやりとしている。頭を振り無理矢理に覚醒する。しばらくベッドで微睡み、ようやく地に足を下ろす。頭の回転は悪いけど、気分は良い。

 自分の部屋を出て、階段を下りる。リビングに入ると、お父さんが新聞を眺めながらコーヒーを飲んでいる。

「おはよう、お父さん」

 お父さんは新聞を綴じてこちらを見る。心なしかすごく嬉しそうな表情だ。

「何? 朝ご飯を食べるのがそんなに珍しい?」

 視線を新聞に戻し、コーヒーを飲む。

「いや、本当にめずらしくてね」

 挑発には乗らず、自分でご飯をよそいで、テーブルに置く。味噌汁を暖めるためにコンロに火をつける。僕もコーヒー飲もうか飲まないか悩む。結局、味噌汁が温まり、湯気を出しはじめたのでコーヒーを諦めて、お父さんの席の前で朝食を取る。

 新聞をめくり、覗くようにして僕を見る。

「身体の調子は大丈夫か?」

 一瞬、何を尋ねているのか分からなくなる。

「どうして?」

 確認のために僕は聞き返す。新聞を机のうえに置き答える。

「いや、なんでもない」

 寂しそうな表情を見せる。お父さんは席を立ち革のバッグを肩に掛ける。

「じゃ、出かけて来るよ」

「うん。いってらっしゃい」

 いってらっしゃい。久しぶりにこの言葉を口にした気がする。お父さんは残ったコーヒーを飲み干し。玄関に向かう。

 僕も出かける準備をしなければならない。爽やかな朝だ。だけど、小骨がどこかに引っ掛かるている違和感が残りつづける。忘れようと思えば、すぐに忘れられる、そんな違和感。

 洗面所へと向かい、顔を洗う。鏡に映る僕の顔がぼやけて見えた気がした。

 洗面所を出て、またすぐに着替える。今朝は早く起きたし、二度寝も至福な夏休みだろう。豪快に顔を洗いすっきりしたところで、自分の部屋へと戻るため階段に足を掛ける。

「涌き水、汲みに行ってきなさいよー」

 響く母の声。回れ右をして、玄関へと向かう。こうなることはわかってはいたんだけれど。

 自転車のカゴにペットボトルを4本入れて、庭から外へと押し出す。

 自転車に跨がり、母への恩返しをする高校息子。付け加えるなら、借金している自分が悪いんだけど。

 初動のペダルを一際力を入れて踏み、一気に心のギアを入れ替えた。



 川が光を受けながら様々な射影を生み出す。その川沿いを一気に駆け抜けていく。そして見えてくる角を曲がれば、坂道が目前に立ちはだかる。スピードにのって登る。

「くっ...はっ...]

 少しずつペダルに重しが掛かり回すのに苦労をする。中盤まで来れば、後は意地との勝負。体力が切れたら負けだ。

 後、少しだ。後少しで目前の坂道が終わる。

「こんたー、おはよー」

 後ろから前へ、ベルの音が追い抜いていく。

 坂道を登っているのは、女の子。立ち漕ぎすらしていない。涼しい顔で僕を追い抜いていく。

 ハンドルを離してしまい、虚しく自転車はアスファルトを削った。


 ゆっくりと自転車を押しての到着。

「登りきれなかったねー」

 電動自転車が日光を浴びて光を放つ。くやしくなんかない。

「電動自転車くれ、美月」

 そう、彼女の名前は美月。頭の中に染みが広がっていく感覚。

 僕は今、何て言った? 美月、みつき? どうしたのだろう、頭が痛い。どうしてこうなったのだろう。

「ダメだよー。高かったんだからー」

 当たり前だ。そんな簡単に譲るモノではない。そう、普通は。

 美月は笑っている。なんでこんなにも眩しいのだろう。僕はなんで気づかないんだ。

 名前がでてこない。大切な名前なんだ。

「こんた?」

 僕は行かなければいけない。自転車を路上に転がし、山へと向かった。おかしい、何かがおかしい。

 僕自信がおかしいのか?

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