過去
僕は小学生の頃に、女の子に出会った。引っ越して間もなく、春休みを終えて初登校日を迎える一日前。学校の校門前に女の子が立ち尽くしていた。
どうして僕が校門前にいるかというと、一度だけ僕が通う学内を探検してみたかったからだ。もちろん春休み最後の一日である。学校には生徒の姿など目につかず、活気は無い。しかし、それがまた雰囲気をだしており、冒険しがいがあるのだ。だけど先客がいた。
麦藁帽子を深く被り俯く女の子。学校の存在をまるで目には写さず、足元の影を睨む。
どうしたのだろうか? 気になってしまう僕がいた。でも、女の子は苦手だ。うるさくてうるさくて。何であんなに耳につく声なんだろう。女の子の高く鋭い声が苦手だった。
「わたしと交代してよ」
奇妙な言葉をつぶやく。
校門前の桜の花びらが舞う。桜の木が綺麗だ、と今頃気づいて顔を上げる。同時に僕に気づいた女の子は、こちらに目線を移す。
「あなたは人を殺したことあるのー」
人ではなく何か他の生き物のように儚げだった。
桜の花びらが地面に落ちると同時に、校門前の女の子は消えていた。
後ろから声が掛かる。その声は頭を優しく巡る。
「あなたはだーれ?」
麦藁帽子を被る女の子。初めての真佐美との出会いだった。第一印象は綺麗な声だな、と思った。
「僕は岩城根太、ここに引っ越してきたんだ」
声音は高すぎず、少し掠れる声。
「わたしは飛田真佐美だよー」
ゆっくりと手を僕に差し伸べる、真佐美と名乗る女の子。
「うん。よろしく」
「よろしくー」
その手は温かかった。