『エリシア・フローレンス』の場合
「大罪人、エリシア・フローレンス。前へ進め」
足を引きずりながら私は、断頭台へと一歩、また一歩と歩みを進めていく。
首を固定されて、あとは処刑を待つだけである。
私はいつものように神に祈りを捧げながらその瞬間を待つ。
「エリシア・フローレンス、最後に一言何かあるか」
死刑執行人が最後に尋ねる。どうやら最後に一言話すことは許されるらしい。私は口を開いた。
「この世界に、どうか平穏があらんことを…」
それが、私、聖女であった『エリシア・フローレンス』の最後の記憶だった。
次に私が目覚めたのは見たことのない綺麗な、それでいて荘厳な空間だった。
どういうことなのかと周りを見渡そうとしたが、動かない。それもそのはず、私は首だけになっていた。
恐怖よりも先に、「ああ、処刑は確かに終わったのだ」と静かな納得があった。
一体どういうことなのかと考えていると左右から修道服を着た女性が近づいてきた。
一方は絹のような白い髪に合わせた、以前の私と同じ白い聖女のような恰好をしており、もう一方はそれとは真逆の普通の修道服を着ていた。
「さて、今回の被告人は『エリシア・フローレンス』。聖女として生まれてから世界のために祈りを捧げていました。ですが、突然、偽物の聖女であると言われ、いわれもない罪をかぶせられ、人々を陥れた大罪人として処刑されてしまいました」
白の彼女は私の人生を、たった一行程度に簡単にまとめる。確かにその通りである。
「だが、今回は傍聴神々たちからの強い要望があり、特別措置として彼女の要望をできるだけくみ取り、平和な世界へ転生させるということになりました」
黒の彼女は強い口調で話を進めていく。
「私のオススメとしては、日本に転生してJKとしておいしいもの食べたりとか可愛いもの集めたりとか~」
「待ちなさい、天の神。彼女の要望を聞く。それが今回の主な部分よ。それに判決を加えるのが私たちの仕事。それにそんなことを言っても彼女には何も理解はできていないわ」
その通り、日本というのもJKというのも今まで生きてきて一度も聞いたことのない言葉である。
「だから、傍聴神が考えた4つの選択肢。それを決めてもらい、あとは彼女の要望を混ぜてあげる。それが判決として十分と思うわ」
音が鳴り、私の目の前に文字が浮かび上がる。今までに魔法というものを見たことがあるがここまではっきりと見えたのは初めてだった。
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1. 元の世界へ生まれ直す
・元の世界に『エリシア・フローレンス』として生まれ直す。二度目の人生であれば断罪を回避することも容易になります。
苦労するかもしれませんが貴女にとってよく知った世界です。
オススメ度:☆☆★★★
2. 2000年代の日本に生まれ直す
・日本と呼ばれる島国の子供として生まれ直す。特段戦争などはないが、魔法も奇跡も存在しない世界です。
退屈かもしれませんが、文化レベルは元の世界よりもはるかに上になります。
オススメ度:☆☆☆☆★
3. 元の世界へ生き返る
・元の世界で断罪直後に蘇ります。特典として世界を破壊する魔王同等の能力を特典として与えます。
これで偽物の聖女と疑った人々に粛清を下すことも可能です。
※代償として半魔化します
オススメ度:★★★★★
4. 信じた神の管理する世界へ生まれ直す
・神の管理する世界の何処かへ生まれ直します。どのような世界になるのかは神のみぞ知ります。
しかし、あなたはとても気に入られているのできっと悪い世界にはならないでしょう。
オススメ度:☆☆☆★★
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「さて、地の神としてオススメなのは三番の元の世界へ生き返り、復讐を行うこと。神々の間でもそういうものの流行がありますからね」
「いやいや、やはり日本でのスローライフものも良いものですよ。最近過激なものが多いからマンネリ気味ですし」
双方からそれぞれ提案を受ける。どうやらオススメ度というのは彼女たちが判断している指標らしい。
しかしながら、私の答えは決まっています。
「私は十分に生きました。どうかこのまま神のみもとに帰らせてください」
祈る手はないが、いつものように祈る。すると周りからざわめきが聞こえる。
『転生を断るだと…』
『ここまで高貴な魂は滅多にないぞ』
『三番へ送れ!』
「もし、生まれ直したとしても、すぐに自死し、神のみもとに帰ります」
再び宣言すると双方の二人はかなり気まずい表情になってしまっていた。
「どうします地の神。このまま転生させてもすぐに死なれるとこちらの責任問題にもなりますよ」
「そうですね天の神。不死の特典を与えても良いのですが、ここまでだと無限に死を選びかねませんからね」
あーでもないこーでもないと言い合っていると、この場にいた誰とも違う気配が背後から迫ってきて、後ろから私の頭を抱えられる。
その腕はたくましく、昔、神父様に抱きしめてもらったことをふと思い出してしまう。
私を小脇に抱えたままの神は高らかに宣言をした。
「私が管理する世界でこのような清らかで美しい人の子がいようとは、貴様たちの娯楽ための道具にするなど許さん。私の世界へ連れ帰る」
静寂が空間を支配する。沈黙を破ったのは天の神と呼ばれた彼女だった。
「それであれば四番、ということになりますね。特典としてはー…あなたが見守っていてくれるということで解決ですね」
「確かに、神が人の子を見守るものも需要は高いから問題はなさそうです。裁量権は彼に一任するとして、裁判神様いかがでしょうか」
その言葉と共に、正面に大きな目玉が飛び出してくる。全てを見通すかのような目は全体を見渡した後、声を発する。厳密には音ではなく直接話しかけられているようだった。
『問題なしとする。ただし、過度な干渉をするのであれば神の座から下ろし、かのものと同じく生きると思え』
「ああ、寛大な処置に感謝する。では、細かい話は俺の神室でしようではないか。なに、転生までの期間は十二分にある」
「いえ、ですから私は…」
小脇に抱えられたまま、部屋を後にすることになった。彼女がどのような世界にどのような転生をしたのか、それは神のみぞ知ることになるだろう。
被告人がいなくなった裁判所は少し静かになったが、すぐに木槌を叩く音がする。
「はいはい、解散解散。結果は後日通達しますので本日は閉廷になります」
やれやれといった感じで二人は後片付けを始める。傍聴神たちは各々消えるように帰ってく。
「……やれやれ。まさか現場の管理神が、被検体を拉致して私物化するなんてね。天の神、これ始末書の書き方が分からないわよ?」
「でもまあ、『神が寵愛しすぎて、自ら世界に降りて見守る』っていうのも、特定の層にはバカ受けするジャンルだから、結果的には視聴率は取れるでしょうね。……さあ、次の仕事をしましょうか」




