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『佐藤一樹』の場合

異世界系について書いてみました。

全三話を予定しています。

 俺は確か、三股がバレて腹を刺されて死んだはずだった。だが、次に立たされていたのは、コンクリートの地面でも天国の雲の上でもなく、冷たい鉄の証言台の前だった。

 しかしながら、腹部に刺さったままの包丁を見るに死んだことは事実であることを物語っているようであったが、不思議と痛みはない。

 三股がバレたのは俺が間抜けだったわけではない、俺に嫉妬した男どもにバラされてしまったからだ。全く、男の嫉妬というのは醜いものだ。


「——以上が、被検体……失礼、被告人『佐藤一樹』の現世におけるログだ。確認を」


 左側から抑揚のなく、文章を読み上げるだけの声が聞こえる。

 あたりを見渡すと、テレビなどでたまに見かけた裁判所に似ている場所であった。

 目の前――裁判官が座っている席にいたのは人などではなく巨大な目玉がこちらをぎょろりと見ていた。

 驚きのあまり声を上げてしまうが、音は出ず、ただただ荒くなった呼吸音だけが頭の中で響いていく。

 どういうことなのか考えていると右側の席にいるスーツ姿の女が勢いよく立ち上がる。

 白のロングヘアを束ね、黒縁の眼鏡をかけており、真面目な印象ではあったが、あまり知性を感じられない言葉を放つ。


「さて、今回の転生先についてですが、ここは原点に返る意味も込めてファンタジー世界でハーレム無双!これで行きたいと思います」


 ハーレム?無双?

 突拍子もないことに理解が追い付いていないが、これは、異世界転生をする前のチートを貰うとかそういうものなのか?

 ならばと声を上げようとするが、いくら話そうとしても声は出ない。まるで死刑執行を待つ囚人のような気分になってしまう。


「却下だ。そもそもハーレム系は総数が多くても大体の流れが同じで神々を飽き飽きしている。それに無双といってもいくつの世界が放置されたと思う」


 左側の席、こちらも同じようにスーツ姿の女が座っている。右側とは違い、黒髪のショートヘア。鋭い目つきをしており、彼女は厳しい視点で精査をする――そんな立場を表しているかのようであった。

 二人とも人とは思えないぐらいの美貌を兼ね備えているが、話し合っていることは俺をどのような世界へ送り込むのか、まるで初めて買ったペットをどうお世話するのか言い争っている。そんな雰囲気だ。


「しかし、被告人は定番の女性経験のない男性――童貞ではなく、どちらかといえばヤリチン。そしてそんな彼を侯爵令嬢なんかにしてめくるめく百合の花を~という具合ではどうでしょうか」

「なるほどな……だが、無双の部分はどうするつもりだ。行き当たりばったりのアイデアで満足させられるのか?」

「そこは、貴族の責務として魔物と戦う世界であれば、そこで魔法を使って無双!そして美少女ハーレム!完璧です」

「百合無双か……だが、それだけではまだ弱い。無双するための代償があったほうが面白い。例えば『男との接触をしなければ魔法が使えない』なんていうのはどうだろうか。定番どころで言えば『キス』だな」


 おいおい、何言ってんだこの女、俺が男とキスだと?ふざけんな!俺は女としかやる気はねーよ!

 そう抗議しようにも声は出せず証言台から出ることも許されない。

「いいですねそれ!百合ハーレムだけど力を使うには男との接触が必要不可欠。そしてだんだんと……精神的BLも人気ですからね!」


 その言葉に後ろからざわめきが聞こえる。振り返ってみると、人の姿をしているものもいれば何とも言えない姿であったりと裁判を眺める傍聴人のごとくひしめいていた。


『おいおい、ちゃんと精神面の表現はされるんだろうな?』

『単なるハーレムなんて3話切りだぞ』

『そろそろ投票システムとかも入れようぜ』


 あまりにも理解から離れた光景に、証言台から滑り落ちそうになったが、謎の見えない壁のようなものに阻まれてしまう。

 人気だからって何だよそれ!ふざけるな!必死に証言台を叩いて抗議するとこちらをちらりとだけ見る。しかしながら見るだけで何かしてくれるわけではないみたいだった。

 漫画やアニメならこっちの要望を聞いて好きな能力、そして好きな世界に飛ばしてくれるというのが定番だろうが!

 そう、心の中で悪態をついていると、突然脳内に直接語り掛けるような声が響いてくる。


『両者、被告人が発言を求めているようだ。一つだけ発言を許してやろうではないか』


 その言葉と共に喉元につっかえていたような感覚がなくなる。


「一体ここは何なんだ!お前らは俺をどうするつもりなんだ!俺を元の場所に戻せ!」


 一息で言い切ると両脇の二人はあきれたような目でこちらを見つめてくる。


「やれやれ、裁判神様の言ったことを守れないとは、これだから人間は……、天の神、あなたちゃんと事前に説明はしたはずじゃないの?」

「ちゃんと説明しましたって。地の神、そもそも意識がはっきりしないうちに裁判を始めたのはそちらでしょう?」


 双方で責任の押し付け合いが始まる。しかしすぐに脳内に声が響く。


『どうやらこちらに不手際があったようだ。質問には全て答えよう。まずここは転生裁判所、無作為に選ばれた死んだ者が転生先を決められる場所だ。次に、貴様は神々の娯楽を提供するため、決められた世界に転生することになる。最後に、元に戻すことは不可能だ、最初に言った通り死んだ者がここに来る。話は以上。次の人生を楽しむがいい』


 それだけを言い終ると、また声が出せなくなった。二人は目の前の目玉に深く礼をしている。

 たった、それだけ、何も現状を解決解決しないことに貴重な発言権を行使してしまったらしい。

 乾いた声も出なく、膝から崩れ落ちた俺はそのあとのことをよく覚えていない。

 俺の人生をまるでキャラクター作成かのような手軽さで進められていく、わかりやすいようにモニターに転生先の容姿、世界についてと。

 そしてわざとなのかあえてなのかわからないが、小さく見づらい色でクリア条件と書かれてたがいくら目を凝らしても読めることがなかった。

 全てが決まり、最後に聞いたのは脳に響いた声であった。


『被告人、佐藤一樹の転生先は第104魔導大戦世界。侯爵令嬢として前世の記憶を持ったまま転生。付与能力、異性との粘膜接触によりエネルギー供給とする。特記事項として転生は15歳の姿で行われるものとする』


 まばゆい光と共に体の感覚が消えていった。





「さて、彼…いや彼女はどれぐらい頑張って楽しませてくれるでしょうか」

「もってせいぜい10年程度でしょ?……ん?天の神あなた寿命設定ミスっているわよ?」

「ミスしてないですよ。1000年寿命なら長く楽しめるし、老いも緩やかだから見栄えもするし」

 まるで娯楽を楽しむかのような会話をしている二人の声を彼、佐藤一樹が知ることは永遠に訪れないのである。

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