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実家では虐げられてきましたが、可愛い婚約者の国でこれからはのんびり暮らします。  作者: 丹羽坂飛鳥


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3/6

正当な戦い

 二刀流らしい圧倒的な手数が、俺を襲い続けている。

 剣と体捌きでなんとかかわし続けるけれど、叩きつけられる一撃の重さも相まって、今は攻撃をいなすしか出来ない。


「っ、く」


 右から左から、二刀が振りかぶられる。

 妖精の体は、人間よりも優れていて強い。

 アルバ様の筋力やしなやかさも受け継いだチュルカ様は、不可思議な軌道すら描きながら剣を縦横無尽に動かした。


 捌いて、弾く。

 攻撃を受け続けて、反撃の機会を待つ。

 練兵場の砂地の上で何度も何度も打ち合いながら、接近戦を続けて一瞬の隙を狙った。


 ……子供の頃に陛下とともに大熊に襲われた時は、何も出来ずに震えるしか出来なかった。

 弱い俺は、泣くしか出来なかった。


(でもその悔しさのおかげで……あの頃よりずっと、強くなれたんだ!)


 避けても金の髪が、剣圧に散る。

 幾度も音が響く中、ついに自分からも攻撃を加え始めた。


 反撃を始めた俺に、チュルカ様はしかし冷静だ。

 剣を読んで、受けて、さらに一撃を入れようと薙ぐ。


「ふ……っ」


 まだ、相手の呼吸に合わせる。

 チュルカ様があまり空気を吸えないようにだけ、狙って剣戟を入れ続けた。


 どんな生物も、呼吸せずには動けない。

 それはたとえ妖精であろうとも、同じことだ。

 浅い呼吸を続けさせるため、あえて近づき、休ませない。


「っはぁっ」


 やがて、少し呼吸が乱れたのを見た。

 二刀を振り回す以上、運動量に見合うだけの酸素が必要になる。


 注意が散漫になった。

 わずかに大振りになる。


(今!)


 狙った鳩尾が空いたから、剣を突き出す。

 軽く突かれても痛む場所だ。

 相手も癒しの妖精で、医者だから知っている。


「……っ」


 覚悟しながら、それでもチュルカ様は反撃の剣を、俺の肩目掛けて横薙ぎにした。


 ガァンッ!!


 チュルカ様が驚いて、目を見張っている。

 気付けばアルバ様が、片手の剣を弾いて奪っていた。


「そこまで。……エリクセルの実力は見られた。

 チュルカにも負けないどころか、気遣って攻撃をやめたか。……近衛としての心構えも、十分だ」


 お互いに激しく呼吸しているけれど、チュルカ様が顔を上げて……戦う間ずっと厳しくしていた表情を崩す。

 練兵場は、暖かな拍手で湧いている。

 しかし婚約者は瞳をどんどん潤ませて、空いた手のひらで鳩尾を押さえている。


「ごめ、んね、えっちゃん……私のこと、突いて弾いても、いいんだよ……っ私、今、本気で……えっちゃんのこと、叩こうと、してた……っ」


「はあ、はあ……っそれは、真剣に戦った、証でしょう……でも俺には、チュルカ様を攻撃するなんて、出来ない……やはり戦っているとはいえ、あなたを守るために、ここに、きたので……つっ」


 隠したかったが、あまりにも強い攻撃を受け続けた利き手が傷んで声に出ていた。

 チュルカ様が剣を腰に穿き直し、慌てて俺の手を包むと、あたたかい力が入り込んでくる。

 痛みもすぐに引いて、労わる柔らかな手が俺を包むことだけを感じていた。


「っ、ごめんね、えっちゃん……っいっぱい叩いて痛かったよね、ごめんね……っ」


「いえ……戦いを望んだのは、俺ですから。

 チュルカ様に力を尽くしてもらえて、よかったです」


 暖かな拍手に、からかいの指笛も混じる。

 俺もチュルカ様の手を包むと、泣き顔を上げた彼女に笑いかけた。


「あなたをもう、泣かせたくない。

 ……俺はあなたを泣かせてばかりいた。

 だからこれからは、笑っていて欲しいんです」


 幼い頃、国に戻る決意を隠した。

 突然の別れを体験したチュルカ様を、ひどく泣かせた。

 パルムクルでは再び『離れたくない』と泣く彼女を見た。


「俺はこれから先の人生をずっと、あなたとともにいる。

 あなただけを愛し、チュルカ様らしい笑顔が溢れる毎日をそばにいたいんです」


 まだ十二歳の少女らしい泣き声が溢れて、練兵場に響く。

 大粒の涙を流し始めてしまったチュルカ様を見て、剣を先程まで握っていた手が赤いのを見て、俺にも癒しの力があれば良いのにと唇を付けた。


「っ!?」


 息を呑んだチュルカ様の涙が、止まる。

 柔らかな親指と人差し指の間に、付け根に唇を触れさせた。

 滅多にない行為に、黒目を丸くした姫は一気に頬を染めている。


「残念な称号ですが。

 ……俺の父、レイトは『稀代の女たらし』として知られているそうです」


 英雄王として国内でも名高い父を尊敬しているが、父はラフィネル陛下相手でも手を出そうとした。……アルバ様とシャグマ様に取り押さえられるのを、俺も見たことがある。


「しかし女性を愛し、慰めるための所作を習ったことを、今はありがたく感じている。

 目を合わせて、指など敏感な場所に唇を触れさせる……よかった、泣き止んでくださいましたね」


「あわ、あわわ」


 可愛らしい婚約者は目を回しながら、縦に首を振っている。

 アルバ様が固まったチュルカ様を剥がすと、溜息を吐いた。


「似なくていいところまでレイトに似るな。……チュルカは医者として堂々としているようで、その実、初心な娘なんだ。

 これからはボクの部下として、レイト以上に鍛えてやる。覚悟するように」


「はいっ」


 憧れのアルバ様に認めてもらえた嬉しさに、エルタニア式の胸に手を当てる礼を返す。

 こうして俺は、近衛への正式入隊を果たした。

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