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9 魔王クナイ、日本料理を食べる

4月の中盤

日本の至る所でピンクの花が咲き誇る

日本を象徴するモノの一つだ

この景色を見るために海外から来る人もいるぐらいだ


「綺麗だ・・・」

「向こうの世界ではこんな花ありませんでしたね」

クナイとルヤマーが窓から遠くに見える満開の桜を眺める

(もっと近くで見たい・・・)


「ーー様、クナイ様!」

「あ、あぁマール。すまない。見とれていた」

「しっかりしてください。これから試食会です、既に迎えの者が来ております」

「直ぐに向かう」


今回の試食会はマールと魔王、そして護衛の兵士2人が同行する


城下町を囲む門が大きな音をかけてゆっくりと開く


その先には外交官の向井、通訳の市川

そして3台の黒塗りの防弾ベンツと1台のマイクロバスが待機していた


「お久しぶりですマールさん、そして・・・」

「こちらは魔王クナイ様」

「へ?魔王?」

市川が間の抜けた声をだす

「えぇ、魔王クナイと申します。よろしくお願いするわ」


魔王とは思えないビジュアルとその丁寧な作法に2人は驚く

「ではこちらのマイクロバスにご乗車ください」

「感謝します」



4台の車列はいつの間にか整備されていた未舗装道路を進み、舗装された道路に接続する



「敬礼!」

仮駐屯地の門に車列は差し掛かる

警備隊は車列に向けて敬礼する


その様子をバスの中から興味深そうに見つめる4人


「上本2等陸佐、アレが到着しました」

「予定よりも早くないか?それはいいとして、川松はどこいった」

「さぁ・・・分かりません」



「あれが魔王の国とか言うやつの使者か・・・」

川松は業務そっちのけで自前のカメラを構えて、4人を撮影する

そこへ上本がやってきて、敬礼、握手を交わす


本来川松は駐屯地内の警備を割り当てられていたが、部下に秘密の任務ができたと言ってすべてを投げ捨て、カメラで彼女らの姿をレンズに収めていた

「女子が2人・・・堕とせるかな?」

パシャっとシャッターを切り確認に移る

「もう一発撮っておこう」

そうして再びカメラを構える

しかし一瞬、奥の柵から何かが反射したような気がした

「・・・」

川松が柵の奥をズームする

「侵入者みーつけた」



「では試食されるのは1人なので?」

向井が困惑する

「えぇ、魔王様が試食されます。絶対に毒などを混ぜないように!」

護衛の1人が圧を掛ける


「お待たせしました。まず日本の伝統的な茶、緑茶をお渡しします。熱いので気を付けてください」

まず魔王の前には緑色の茶が置かれる

料理人の言葉を市川が翻訳して伝える


静岡で生産されている最高級の茶葉を使ったものである


(ぬーっ・・・なんだこのお茶は!!)

緑色の茶

元居た世界ではそんなもの存在しなかった

紅茶、コーヒー、牛乳

だいたいこの3つが定番の飲み物である

どれも美しくて鮮やか

そして何よりも身近なものであるため、拒絶反応が起こることは無い


(しかしここは魔王たる私が・・・!)

クナイは湯飲みを掴み、一気に体へ流し込む

「に、にがっ!」

それを聞いてその場にいた日本人たちは背筋が凍る

「・・・だが悪くはない」

それを聞いて周りは腕をなでおろす


そしてお皿が用意され、その上におにぎりが置かれる

「これは・・・?」

「それはおにぎりといって、この国の主食であるコメという穀物を手で握った食べ物です」

「なるほど」

「今回は塩で味付けしております」


これなら・・・とクナイはおにぎりを手に取り一口

噛むとコメのうまみが広がり、そこに加わる塩のしょっぱい味。

だがしょっぱすぎず、コメのうまみをしっかり味わうことが出来る


「と、とてもおいしい・・・」


彼女の頭の中は

(な、なんだこのおいしさは!今回は塩で味付けしていると言ってた・・・ということは他の味もあるってこと!?)


「お次は日本の伝統的なスープであります。こちらは味噌汁と言います」

そしてお椀の横に箸とスプーンが置かれる

「この2本の棒は箸と言いまして、このようにして使い、ご飯を食べます。使いにくければそちらのスプーンでお食べください」


クナイは箸を使わず、スプーンでわかめと豆腐を取ろうとするがうまくいかない

「お椀に口をつけて流し込みください。こちらではそれが普通です」

「で、では・・・」


魔王たちの中ではお皿に口をつけて食べるなど行儀が悪い、下品などと言われる

しかし魔王はそんなことを考える暇もなく、お椀に口をつけ、わかめと豆腐、そして汁を流し込む

その光景に残りの3人は唖然としていた


「お、美味しい。なんだこのスープは、どのように作るのだ?」

「味噌と呼ばれる食材を使って作ります。勿論別に出汁を取りますが・・・」


(魔王様・・・その食べ方は余りにも下品ですわ・・・)

マールが信じられないという目でクナイを見ていた


「お次は天ぷらでございます。食材に衣をつけ、高温の油でカリッと揚げたものです。サクサクしておりとてもおいしいですよ」


皿に盛られた4つの天ぷら

「右からエビ、かぼちゃ、ししとう、しいたけです。塩と天つゆと言う甘めのソースのどちらかにつけてお食べください」


(う、美しい)


黄金色の衣は食べるのが勿体ないほどである

その様子は日本人の誰が見ても完璧な揚げ加減

このような天ぷらを作れるものはほんの一握りであろう


クナイは塩につけてエビを一口

「・・・」

もう声にでない

次は天つゆにつけて一口


無言で食べ進めるその姿にマールが心配する

「ま、魔王様?」

「お、おいし・・・すぎます・・・」


サクサクの衣

その音と食感を味わうと次は

プリプリのエビの身が舌の上で踊る



あっという間に4つを食べ終わってしまった


(私も参加すればよかった・・・)


「まだお腹は空いてますか?」

「え、えぇ少し少ないかと・・・」

「そうだと思いまして、ここからはあなたに選択して頂こうかと」

そう言って料理人がメニュー表を渡す

写真付きで、市川が上から順に説明していく


「この中からご自由にお選びください。お付きの人もどうです?」

市川がマールを見て一緒にどうかと誘う

「で、では・・・」

「マール!?」


クナイは和牛のステーキ、マールはしょうが焼きを頼んだ


彼女らはその味を体験し、完全に日本の食文化に惚れこんでしまう


「それではデザートです。どら焼きと団子になります。甘い豆が中に入っております」

「甘い豆・・・」

(あっ、魔王様豆が嫌いだったー!!)

マールが食べるのかどうか不安な顔をしていた

しかしそんな不安とは裏腹にクナイはどら焼きと団子をパクパクと食べる

「こちら抹茶です。緑茶と違い、苦みが少なく甘いものに合いますよ」


クナイは躊躇なく湯飲みを取って飲む

「本当だ・・・」

それを見てマールも躊躇なく抹茶を飲む



川松が侵入者にバレないように迂回していく

そして目標が近づくと、ジャンプして柵に這い上がる

柵を超え、その勢いで下にいた侵入者にかかと落としを食らわせる


侵入者は「うーっ」とその場でもがき苦しむ

「なんだマスコミか・・・」


川松がカメラを拾い上げる

「よく侵入で来たね。どこの国の諜報員?」

「あ、朝光新聞の松岡です・・・」

「本名は?中国?アメリカ?」

「ち、違います!本当に日本人。ただの新聞記者ですって!」


川松が新聞記者を睨みつける

「カメラは没収で」

「ちゃんと返して・・・へ?」

そう言って地面に叩きつけた後、足でカメラを踏みつぶす

そして記者の顎に蹴りを入れその場気絶させる

「・・・しょーもな」

カメラを足で再び踏みつぶし、SDカードを取り出し、真っ二つに割った後に森の中へと投げ込む




「川松なぁ・・・よりにもよって新聞記者を・・・」


上本が机に頭を叩きつける

新聞に自衛隊員に殴られた!とか書かれたらひとたまりもない


「仕方がありません上本大隊長、これは正当な行為です。報道協定を破り、制限区域内に侵入した。それに撃ち殺せ!とか言ってたくせに」


そんなことは気にせず自分を正当する川松

それは正論であり反論の余地はない

「いや、まぁ責めてるわけではない。よくやった」

「ありがとうございます」


制限区域内侵入事案が発生したが、川松の迅速な対応により試食会は何事もなく続けられ、無事に終わることができた






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