3 帰ってこない斥侯
「クナイ様、そろそろ斥侯を出すべきではないでしょうか」
「あぁ、私もそう思ってる」
ルヤマーの提案にクナイは了承する
「あれが選ばれました4人です」
「はっ、魔王様!お目に書かれて光栄であります」
牛の顔をした男、豚の顔をした男など人間とは全く見た目が違う
「忠告しよう。もし敵に見つかっても攻撃されない限りこちらから手を出すな」
「な、何故でしょう魔王様!」
「我々はこの世界に避難してきているのだ。ここで争いを起こすわけにはいかない」
「そう言う事ですか」
「作戦は本日の日没後だ。捕まっても魔王様の名に恥じないように振る舞え」
ルヤマーの言葉に4人はやる気が上がる
「城の外は湖か・・・それとも海なのか?」
「どちらでも良いでしょう。とても防衛に有利な土地だ」
スバルビーが手を広げる
「このスバルビー、如何なる敵がやってこようとも必ず魔王城を守り抜きますよ」
そんな彼を無視して沈む夕日を見つめていたクナイ
「あれは・・・?」
琵琶湖の先に広がる明かり
大津市や草津市などの街の明かりだ
「人が居るという事でしょう」
「かなりの規模だ」
「えぇ・・・怖いのですか?」
スバルビーがクナイを見ると、微かに手が震えているのが見えた
「い、いや・・・」
「大丈夫です魔王様。我々は魔族ですぞ。それにこのスバルビーが居るではありませんか」
「・・・そうだな」
クナイは顔を緩める
それを見たスバルビーは顔を背ける
(あなたの笑顔はどんな男も堕としてしまう威力なんですから自覚してほしいですねぇ)
「では、私は用事があるのでこれで」
そう言ってスバルビーは去っていく
■
「ご無事で」
ルヤマーがフードを被った4人を見送る
「右左どちらに進む?」
「ここは右だろう」
「いや、左だ」
「俺も右だ」
4人のうち2人が右と言ったことで、一行は右に進んでいく
「森か」
木々が生い茂る中をかき分ける
「かなりきつい坂だ」
「おい、人がいる。数は数人だ」
「分かってる。無視して進むぞ」
「なんだこれは・・・」
「なんという素材だろうか。レンガか?いや違うな・・・」
アスファルトを手で触る斥侯
4人は周囲を確認しながら進んでいく
「これは鉄か」
「そのようだ。贅沢に使っているな」
ガードレールを触りながら話す
「これほど鉄をふんだんに使う国とは恐ろしいものだ」
「魔王様の判断は正しいのか?」
「そんなことよりさっきの奴らずっとついてきて気味が悪りぃ」
「あぁ。確かに。ほんとに人か?魔物じゃないのか?」
「す、進もう」
4人は困惑しながらも道を進んでいく
「!!・・・何か来る」
聞いたこともない音と共に光る何かが現れた
4人はよろける
「よせ!攻撃するな」
1人が攻撃態勢に入ったのを見て他の者が止める
「でも・・・」
「大丈夫だ。捕まっても魔王様が助けに来る」
周りを緑の服をきた人間が囲む
「何を向けているのだ」
「こいつら訳が分からん言語を喋っているぞ」
困惑している4人へ1人の男が近づいてくる
4人は警戒しながら男を見る
するとジェスチャーを始める
「ジェスチャーか?」
「皆、従おう。今できるのは従う事しかない」
4人は男の動きを真似て確保されるのであった
「帰ってこない・・・か・・・」
もう日も明けかなり立つ
あの4人が戻ってくることは無かった。
「どうしましょう?こうなると中隊規模での探索という事になりますが」
スバルビーがそう提案するが、クナイは首を縦に振らない
「いいや、あと1日待とう。あと1日だ」
「分かりました」
そう言ってスバルビーが下がる
「いいのですか?もしかすれば4人の命は助かりませんよ?」
「いいんだ。もしかしたら明日帰ってくるかもしれない」
■
封鎖されている道路のゲートが開く
待機していたマスコミやネット配信者は何事かとゲートに詰め寄るが、彼らの数を上回る機動隊員と自衛隊員が彼らを押しのけ無理やり道を作る
パトカーを先頭に、機動隊バス、LAVの順にゲートから出ていく
車列が向かったのは近江八幡警察署
ある部屋に4人まとめて座らされた
小銃を持った自衛隊員と警察官複数人で囲み、刑事が彼らの向かいに座る
その横で別の刑事がパソコンとスマートフォンを置く
「ほんとに人間じゃないんだな・・・」
刑事が彼らを見て引き気味に答える
「まずは何か喋ってもらおうか」
そう言って口をパクパクさせながら声をだし、口を指さす
しかし彼らはポカーンとしただけ
刑事は少し考えた後、何かを持ってくるように指示した
それは日本語の話せない外国人のための絵文字会話シートだ
まずは何処の国から来たかと言う絵文字を見せるが反応はない
すると、1人がある絵文字を指さす
それは腹痛を表す絵文字だった
「お腹が痛い?」
そう言うと彼はうなづく
しかしどこも痛そうには見えない
トイレのマークを指さしてみるが反応が無い
「お腹が痛いのではなく、お腹が空いたのでは?」
隣の刑事がそう言うと「なるほど」とモヤモヤが晴れた様子でかつ丼を持ってくる
勿論箸と言う文化は無いだろうから、箸に加え、スプーンも持ってきていた
すると1人がバクバクと食べ始める。それを他の3人が羨ましそうにしていたので、腹痛を表す絵文字を刑事が指さすと3人はうなづく
4人がかつ丼をあっという間に平らげたのを見て、刑事は満足そうに見る
「これはどうかな?」
刑事は自作した絵文字を見せる
それは2人の人間が会話する様子。つまりお話を表す絵文字だ
そのあとにリンゴの絵を見せる
すると、何か発音したので、スマホの翻訳機のスイッチを入れて再び発音させる
「リンゴはこう発音するのね」
「水はこう発音するのか」
「太陽はこうか」
そんなことを繰り返していると、外務省と言語学者が入室する
「刑事さんお疲れ様です」
「あぁ、お疲れ様です」
「様子は?」
「えぇ、何とか。話す絵文字を見せた後にものを指さすと発音してくれます。翻訳機は役には立ちませんでした」
「そうですか。あとは言語のプロを連れてきましたのでお任せください」
「はい。お任せします」
約4時間に及ぶ取り調べで、ある程度の言語を理解することができた
言語学者はすべての発音をノートに書き、机の上にあるリンゴを食べている人の絵を見せて、文法がどのようになっているのかとか、調べたところ、文法はSVOを使う英語ではなく、日本語のSOV型を使用していると分かった。
「文法などが日本語に似ているという事は分かった。挨拶の言葉も分かった。発音はそこまで早くない」
「次はあの建造物から来たことを確認させて、もしさらに人が居るなら接触したい旨を伝えることはできますか?」
「はい。彼らは我々が敵対的ではないと分かっているようですし、紙とペンがあれば多少の交流は可能です」
「ではお願いします」
そこから次の日までぶっ通しで交流を続け、彼らが寝ることができたのは午前1時である
言語学者はある程度喋れることができるようになっていた
「彼らの言葉はある程度分かりました。これが発音帳です。そちらで整理して何冊か作ってください」
「分かりました。直ぐに整理して複製、ある程度話せる外交官を育成します」
「あ、あとは頼みます」
「いいえ野中さん、彼らとの接触は早めに行いたい。外交官を育成してからじゃ遅いでしょう。直ぐに準備してください。防衛省の方が護衛をつけてくれるとのことなのでご安心ください」
「ま、まぁ一回だけならいいですよ」
「ありがとうございます。今日の14時、再びここに集合で。それまでは外務省が近くのホテルに案内します。そこでごゆっくりお過ごしください」
「お気遣いに感謝します」
「いえいえ、疲れていては戦はできませんから」
そう言って彼は去っていった
野中はそれを見ながら「今日、無事に帰れるかな」と呟くのであった