1 苦渋の決断
魔王国
「クナイ様!」
「どうした!」
「第一軍が人間に敗北、将軍は討ち取られ敗走中です!」
「な、なんだと!?」
(北の守りであった第一軍もやられたか)
既に西の第二軍、南の第三軍もやられており、魔王城はピンチだ
「何か策を考えないといけませんぞ」
「爺や、何か使える策はないか!」
爺やと言われた魔族の男は首を横に振る
「残念ながら・・・」
魔王クナイ
先代の魔王の娘であり、現魔王。彼女が爺やと呼ぶ男はルヤマーという。かつては世話人。現在は彼女の秘書として活躍している魔族だ
彼女が統治を始めてから3年。統治は上手く言っているとは思えなかった
そしてその隙をついた人間が一斉に軍事侵攻を開始
そして今に至る
「父上ならどうするだろうか・・・」
彼女はベットに寝転がり、天井を眺める
そういえばかつて異世界に行った時の話をしてもらったことがある
『今日は異世界に行った時の話をしてやろう』
「どんな話なの?」
『あぁ、日の本と言う国に行って天下を取ろうとした話だ』
「なにそれー」
『最高に楽しかった。敵が作戦に上手く引っかかった時のこと、敵が敗走していく様子!』
「結局勝てたの?」
『いや、あと一歩のところで部下の下剋上にあったんだ。これはやられた!俺はそう思った。悔しい気持ちもありながら、裏切りはいつ起きるか分からないと勉強になったぞ』
「もういけないの?」
『いや、魔法陣は書物庫にあるはずだ。お前も成長してみたら行ってみるがよい。いいところであるぞ!日の本は!』
「これだ!」
彼女はベットから起き上がると直ぐに書物庫へと向かう
「魔王様、このような時間に・・・」
書物庫の警備兵が彼女の身を案じて寝るように促すが、それを一蹴する
「うるさい。とっとと開けろ」
彼女は1日かけて書物庫を探し回る
「これだ!」
【日の本への魔法陣の書き方】
「我が娘よ。もしこれを見ているという事は、日の本に行く気になったのだろう。我が日の本にいた時に作った城に行けるように魔法陣は設定されている」
彼女がページをめくる
「これがその城の周辺図だ。そして帰りの魔法陣。これは魔王城から外れた場所に移動できるように設定されているものだ。無茶はするな」
「おい、爺や」
「何か策でも思いつきましたか?」
「この魔法陣を部下に書かせよ。城壁を囲うようにな」
「な、なんと!か、書けたとしても起動するのにはかなりの魔力が・・・」
「私を誰だと思っている!魔王クナイ様だ!」
魔法陣は1日かけて城壁の周りに作られた
「魔王様は遂に頭がおかしくなられたのか?」
「近衛師団長、その発言は不味いですよ」
「聞かなかったことにしろルヤマー」
「分かってますよ」
近衛師団長と呼ばれた男はゴブリン族である
名をスバルビーと言う
その巨体から振り下ろされる棍棒は途轍もない威力を誇る
巷では人肉製造機と呼ばれているそうだ
■
「近衛兵!前へ」
スバルビーが棍棒を上へと突き上げる
それに倣って近衛兵が抜刀する
「オオォォォォォ!」
「この世界の悪!魔族どもを今日ここで蹴散らす!」
人間軍の司令が馬にまたがり抜刀する
「オオォォォォォ!」
両軍が魔王城の前で衝突する
魔王クナイは城から遠くで繰り広げられる合戦を見ている
その表情は自信のない。これからの未来に絶望している顔だ
「もう人間の軍が来ていたとは・・・」
明らかな劣勢
これ以上の犠牲を出すことはできない
「爺や、アレを使う」
「軍に撤退を命じさせるということですか?」
「そうだ。直ちに撤退させろ」
「分かりました」
ルヤマーは直ぐに近くにあった電話を取る
「私だ。撤退命令がでた。直ぐに撤退させよ」
「撤退だ!急げ!」
クナイは城門へと走る
彼女を避けるように軍が走って城内へと逃げていく
そして彼女は城壁の前にある書きかけの魔法陣を完成させていく
■
「いたぞ魔王だ!討ち取るぞ」
(不味い!)
長髪の騎士が馬に乗ってクナイの元へと走る
「急げ急げ急げ!」
(手が震えてしっかり描けない!)
彼の振り下ろした剣を避けてその場から離れる
「ぐっ!」
そして隙をついて騎士に蹴りを入れる
「があっ!」
再び魔法陣を書き、魔法を込め始める
「魔王様ぁー!」
スバルビーがクナイを守ろうと棍棒を振り上げて騎士へと向かう
「今から強大な魔法を放つつもりか・・・愚か」
(不味い!スバルビーの援護も間に合わんか!)
彼女は目を瞑る
その瞬間だった
「覚悟おぉーっ!」
長髪の騎士が振り下ろした剣が魔王の首に当たる瞬間
魔法陣が光りはじめる
そして光の壁が辺りを包み込む
「うっ・・・!!」
クナイが光りで後ろへ転ぶ
「はっ、は・・・はぁ」
クナイはその場に倒れ込む
「魔王様!」
スバルビーが彼女に駆け寄る
「大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ・・・成功したか」
「はい!人間軍は居ません!」
「そうか、そうか。やったのか・・・」
クナイは魔力不足で意識が遠ざかっていく
月明かりが魔王城を照らす
先ほどまで目の前が戦場だったのが嘘のように静かである
「クナイ様。お見事ですぞ・・・」ルヤマーがそうつぶやくのであった
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