第53話(累計 第99話) 人類がまとまるために。
「最初は、リリとヴィローと僕だけだった冒険が、とうとう人類すべての命を救う大冒険になって、こんなところまで来ちゃったんだね」
「うん、おにーちゃん」
僕はヴィローの全天周モニター越しに、眼下に広がる茶色くて大きな球を見ている。
球の他は、深淵の暗闇。
小さな光点が多く見えるが、大きく輝く太陽以外は小さく遠い。
そう僕らは今、惑星を離れて宇宙空間を飛行している。
「すっかりムード出しちゃっているけど、ここからが大変よ、二人とも。コクピットからは基本出られないし、今の低衛星軌道からさらに加速してL4付近まで行かなきゃいけないんだから」
「そうね。わたくしはモニター越しにしか貴方たちの顔を見えないけれど、ちゃんとするのよ。これは、人類全体の危機。わたくしが犯した罪を貴方がたまで巻き込んでしまった事は申し訳ありません」
「了解です、エヴァさん。プロトさんもお気になさらずです。貴方が最初に宇宙船に戦闘停止コマンドを撃ち込まなければ、僕たちは生まれる事すらできなかったのですから」
◆ ◇ ◆ ◇
播種移民船団の母船AIとの邂逅後。
僕らはラウドの街に帰り、待ち構えていた伯爵様、貴族連合、共和国らの関係者に全ての事情を説明した。
「つまり百年単位どころか、十年単位で落下する隕石、星の欠片があるのか?」
「はい、伯爵様。これ以上落下する隕石は無いように出来ましたが、一個は既にこの星への落下コースに入っているそうです。落ちてくる隕石、氷の固まりのサイズは直径約十キロ。これが落ちれば、着弾点は全て吹き飛び、舞い上がったチリで惑星全域にて太陽の光が来なくなります。最悪、全てが凍り付いた星になる可能性すらあるそうです」
伯爵様の公館で一番大きな宴会場。
そこを会見の間として、僕らは前で並び座っている要人たちに説明を開始した。
「では、もうどうにもならんというのか、トシ殿?」
「『今』の戦力では、星の向こう側にある隕石を破壊したり軌道をずらすことは残念ながらできません。ですが、それは今現在ということ。一年後には不可能では無くなる事です」
吉報を期待して集まった人々は絶望的な顔をするが、僕はなおも続ける。
まだ希望はあると。
……僕はエヴァさんから教えてもらった話を、丸覚えして話しているだけなんだけどね。衛星軌道の変更なんてチンプンカンプンだもの。
「では、ここからは詳しい人に説明をしてもらいます。プロトさん」
「はい、トシ様。では、ここからはわたくし、プロト00・ノルニルが解説いたします。わたくしの名前、姿でお察しの方が多くいらっしゃるかと思いますが、わたくしはリリちゃんの姉。地球の科学によって生み出された人造な女神です。今回の案件は全て、わたくしの過去が原因になっています。その事については謝罪します」
プロトさんは集まった要人の前に立ち、優雅に頭を下げる。
かつて傲慢に人類の上位種として君臨した女王はもう居ない。
ここにいるのは、かつての罪に悩み苦しみ、償おうとする一人の女性。
「オマエが歴史の陰で、結社やカレリアを背後から操っていた魔女か? 今更、表に出てきて罪滅ぼしでもする気か? そりゃ、支配する人類が誰もいない女王じゃ、意味はないな」
「貴族連合の方、貴方がたは自らの行動を操られていたのにお怒りなのは理解します。ですが、事態は急を要します。避難するにしろ、撃退するにしろ、彼女達。地球科学の結晶たるノルニルの力を借りてでもなんとかしようと、今我々は集まっているのでしょう?」
貴族らしき人はプロトさんを非難するが、共和国の人はそんな場合じゃないと説く。
確かに貴族連合は、プロトさんが暗躍した影響を大きく受け、被害も大きい。
怒るのも理解は出来る。
「その事につきましては、後日。個別に謝罪を行っていこうと思います。もちろん、せっかく今回の件で人類がまとまったのですから、現在の共栄体制が維持できて入ればですが? 共和国側も宜しいですわね」
「う。け、検討しておこう。その言葉、絶対に忘れるな!」
「こちらとしては申し分ございません。今後とも宜しくお願い致します」
上手く貴族連合側に共和国側との協力を取付させたプロトさん。
この辺りは、流石の政治力だろう。
「プロトおねーちゃん、カッコいいね。これで皆が仲良くできたら最高なの」
「そうだね、リリ」
リリが嬉しそうな顔で姉の姿を見るのは、僕も嬉しい。
「もちろん貴族連合にいきなり貴族を解散せよとは申しません。議会制民主主義の体制をとり、支配者ではなく領内の経営者、指導者として頑張っていただけたらと思いますわ。この辺りは、既に実行の計画を立てていますアルテュール・ファルマン伯爵様に御相談を」
「プロト殿、私にいきなり話を振らんでくれ。まあ、これからの事は事態が落ち着き次第、また考えようぞ」
少しいたずらっぽい顔で貴族連合側にもフォローするプロトさん。
伯爵様に話しを回すのは予定外であったが、既に共和国とも上手く付き合っている伯爵様なら問題はないだろう。
「では、皆さま。これより、迫りくる隕石に対しての作戦をお話します」
プロトさんはエヴァさんと一緒に、隕石を迎え撃つ作戦を話し出した。