第52話(累計 第98話) ラストバトル06:リリ視点 頑固者のAIさん。
【ワレ、承認できぬ。其方がプロト00という証拠はない。今、送られてきたバイオメトリーは、かつて我がデーターベースに記録されているものと一致しない。声紋波長もやや低音だ】
何処までも続く蒼い海のような電脳世界。
その真ん中に浮いていて、沢山の光を受けたり出したりしている大きな一つ目のボール。
この宇宙船のAIさんは、とっても頑固者で分からず屋さん。
頑張ってここまで来たわたしの話どころか、かつて命令をうけたプロトおねーちゃんの話すら聞こうともしない。
「どーして信じないのよー! おねーちゃんはおねーちゃんだよ?」
【うるさい、リリ01。早くここから退場せねば電子的にも攻撃を開始する】
「そういう事なら、わたしにも考えあるの。エヴァおねーちゃん、聞こえているよね。ここで、わたしが殴ったらAIさんって、壊れる?」
「そうねぇ。補助AIが他にもあって、多分眠っている人達の事はそちらで守っているみたい。だから、ここで貴方がパンチで壊しちゃっても大丈夫」
【なにぃ! リ、リリ01。オマエにワレを壊す権限は、な、無い。だ、だから、その光る拳をワレに向けるのは辞めよ!】
さっきも頑丈な扉が開かなかったから、パンチで壊したんだけれど、あれと同じ事がこのAIさんにも効くらしい。
私が攻撃するって言い出したら、慌てだしたのは笑ってしまう。
「じゃあ、お話を聞いてよね。お話もしないで戦うのはぜーったいに間違っているもん!」
【わ、分かった。話し合おう。リリ01、オマエはワレに何を望むのだ?】
ようやく話を聞いてくれる姿勢を見せてくれたAIさん。
最初から頑固な事を言わなければ、わたしだって力を見せつける様な事はしなかった。
……そういえば、おにーちゃんも言ってたっけ? 話の席に持ち込むのにも、力を見せる必要があるって。伯爵様、アルおじちゃんも共和国の偉い人も、ヴィローとわたしの力を見て話し合うようになったもんね。
「AIさん。まずは、戦うのを辞めよう。わたし達は貴方を壊しに来たんじゃないの。話し合いに来たから、貴方から攻撃を止めてくれたら、これ以上わたし達は戦わないよ」
【わ、分かった。これ以上、船を破壊されてはワレも今後に支障が出る。直ちに戦闘を終了しよう】
「うん、ありがと」
わたしは、拳に込めていた力を解放した。
大きな目玉のAIさん、わたしの拳が怖かったらしい。
さっきまで、ブルブル震えていたのがキモ可愛かったのは、後でおにーちゃんに教えてあげようと思った。
「こちら、プロトお姉ちゃんよ。敵機が攻撃を止めたわ。流石はわたくしの妹ね。リリちゃん、ありがとう」
「リリちゃん。船外での戦闘も止まったってレダちゃん達から連絡が入ったわ。まずは第一段階、完了ね」
二人のおねーちゃんから、戦闘が止まった事がわたしに聞こえた。
これで、まずは一安心だ。
「さっき言ってたけど、どうしてプロトおねーちゃんを信じなかったの? 昔のデータってどのくらい前の物?」
【ワレの中にあるプロト00のデータだが、この星に着陸する寸前のもの。あれから幾数年たったであろうか?】
「えー! それって数千年前じゃないの!? その頃だったら、おねーちゃんは子供だよ? 大人になった今とデータが違うのも当たり前よ?」
「あらあら。このAIってボケ老人なのね。リリちゃんの事は分かったんだから、わたくしの事も信じてね。さて、わたくしが最後に出した命令って何かしら? 残念だけど、わたくし。あの頃は幼くてあまり覚えていないの」
頑固なだけじゃなく、ボケていたらしいAIさん。
まさか、幼い頃のプロトおねーちゃんのデータと比較していたなんて思わなかった。
わたしのデーターは昔通りだったから、信じてくれたみたいだけれど。
……あれ? じゃあ、その時のわたしは今と同じ姿だったの? もしかして、もうわたしは大きくなれないし、歳を取らないの? ずっとおにーちゃんと一緒に居られないじゃないの!?
「あれ、リリちゃん。心が乱れてるわよ。今は落ち着いて話をしましょう」
「う、うん。エヴァおねーちゃん」
わたしは、おにーちゃんと生きていく時間が大きく違うかもしれない事に動揺したが、大きく深呼吸をして心を落ち着かせた。
……大丈夫。おにーちゃんと一緒に歳をとれないだけだから……。わたしから離れなきゃ、おにーちゃんと一緒だもん。
わたしは、おにーちゃんが年老いて先に旅立ってしまうだろう事を頭の中から一旦追い出した。
【ワレがマスター。移民船団の船団長やプロト00より最後に受けた命令は、この惑星をヒトがより住みやすい様にする事。砂漠惑星に水を沢山増やさねばならない。なので、今も氷隕石の準備をしていた】
「隕石? 今落としたら、ここに住む人々がたくさん死んじゃうよ!」
【この惑星に既に人が住んでいるのか? ワレは、この船内で冷凍睡眠をしている者、凍結受精卵以外は認識しておらぬ。もしや、他の船の乗員の子孫なのか? 現在の予定では、十年以内に直径十キロメートルほどの枯れた彗星を惑星の南極付近に落とす。既に惑星-衛星のラグランジュ点L4にかつて置いてあったものを軌道変化させている】
「えー! それ、早く止めてぇ」
【残念だが、小惑星は既に惑星落下コースに乗っている】
「ど、どうしよう? おねーちゃん、このままじゃ皆死んじゃうのぉ!」
……このままじゃ、わたし達やおにーちゃん。おじちゃんも街の人達も。皆、みんな死んじゃうの。どうしたらいいのぉ?
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