第51話(累計 第97話) ラストバトル05:リリ視点 AIとのお話合い、開始。
わたしは、播種移民船団の母船の中。
おにーちゃんやプロトおねーちゃん、エヴァおねーちゃんに手伝ってもらい、船を制御しているメインAIとお話しできる部屋まで連れてきてもらった。
「任せて、リリちゃん。じゃあ、メインフレームと繋ぐ準備をするわ」
特殊なリクライニングシートに座り、手はグローブボックスの中。
全部の指を指輪みたいになっているところへ突っ込む。
頭の上に大きな半透明なバイザーが降りてきた
……おにーちゃん。自分が怪我していたのに、わたしのことを心配そうに見てるの。大丈夫だよ、わたし。
「今から繋ぐわ。リリちゃん、何かあったらすぐ声を出して。接続を解除するからね」
「うん。エヴァおねーちゃん、おにーちゃん、行ってきます」
わたしは二人に、「行ってきます」と言う。
もう一度、みんなに会って「ただいま」という為に。
「きゃ。う!」
頭の中にいっぱい、「何か」が飛びこんでくる。
「何か」の激しい流れに、わたしは何処かに吹き飛ばされそうになった。
「リリちゃん! 無理ならやめるよ」
エヴァおねーちゃんが心配そうな声を上げるけど、こんなとこで辞めたら、ここまで頑張ってくれた皆の努力が無駄になる。
……女はどきょーなの!
「だ、だいじょうぶぅ。くぅ、え、えいえいおー!」
わたしは気合を上げる。
そんな時、バイザー越しに泣きそうな顔のおにーちゃんが見え、わたしの手をグローブ越しにぎゅっと握ってくれた。
……わたし、頑張る!
「リリ。がんばれ!」
「うん! いけぇぇぇ!」
わたしは、おもいっきり叫ぶ。
すると、急に「何か」の流れが穏やかになって、すとんと楽になった。
けど、目の前が真っ暗になる。
「接続完了したわ、リリちゃん」
「リリ」
エヴァおねーちゃんやおにーちゃんの声が遠くから聞こえる。
……あれ? どうなったの? でも、おにーちゃんの手の暖かさは良く感じるの。
「リリちゃん。貴方は今、五感の一部。視覚と聴覚をコンピューターの中、電脳世界に繋いでいるわ。そのままじゃ何も見えないし、はっきり音も聞こえないから、眼を大きく開いてみて」
わたしは、遠くから聞こえるエヴァおねーちゃんの指示に従い、眼を開いてみる。
「うわぁ。色んな光が泳いでいるの!?」
わたしの目の前は、蒼く広がる透き通った海の中。
沢山の光が、まるで図鑑やヴィローの動画で見た魚の様に群れて泳いでいる。
「あれ? わたし、裸んぼ? でも、息は出来ているの」
見下ろすと、わたしの身体は裸で蒼い海の中に浮かんでいた。
「リリちゃん。今、貴方が見ているのは、電脳世界を貴方が分かりやすい形にしたものね。自我をデジタル変化したときに服まで想像できなかったのかも。海の中なら水着でも想像したらどうかしら?」
「うん、おねーちゃん」
わたしは、昔おにーちゃんと湖に泳ぎに行ったときの水着を思い出す。
すると裸だった身体の上に、白いワンピース型の水着が浮かんだ。
「で、わたしは、何処に行ったらいいの?」
「光の流れが大きい方へ行ってみて。その光が情報、データだと思うから」
「うん。じゃあ、あっちかな?」
わたしは、光の流れと一緒になって泳いでいった。
◆ ◇ ◆ ◇
【リリ01。貴方は、どうしてこんな最深部まで来たのだ? ワレは貴方とは話す事など無い。早く船内から出て行け! また外部で行われている戦闘も即時停止せよ。さもないと、更に力を行使する】
「えっと、貴方のお名前は何ですか? わたし、貴方とお話をいっぱいしたいと思って、ここまで来ました。その為に皆に助けてもらったんです。だから、まずはお話ししましょう」
わたしは随分と泳いでいき、頑丈なドアを空けて、やっと光が集まる場所。
大きな目が一つある、大きな大きな球のところまで来た。
そして大きな球さんは、話す間もなくわたしに出て行けと叫ぶ。
【リリ01。ワレは、貴方とは話す事は一切ない。ワレは、マスターやプロト00から受けた最後の命令を実行中である。船内に眠る多くの受精卵、遺伝子バンクを守り人類の再生をすべく!】
「だから、プロトおねーちゃんも一緒に来てるの、気が付かないの? さっき、『命令なんて、くそくらえ!』って行ったの聞こえていないの?」
【あれがプロト00とは確認されていない。ただ、声紋は似ていたので躊躇しただけだ】
どうも、目の前の球体は酷く頑固者で、他人の話を聞く気が無いらしい。
自分が最後に受けた命令をただただ実行することだけに、頭がいっぱい。
命令を実行するのに邪魔をすれば暴力も辞さない様だ。
……今のAIさんの話からしたら、宇宙船の中にはまだ眠っている人が沢山いるっぽいの。宇宙船を壊すのは最終手段だね。
「もー。AIさんの馬鹿ぁ。エヴァおねーちゃん、話をプロトおねーちゃんに繋いで。AIさん、プロトおねーちゃんの最後の命令に従っているって言い張るの」
「分かったわ、リリちゃん。今から繋ぐわ」
「上」で話を聞いているだろうエヴァおねーちゃんに、プロトおねーちゃんとお話を出来る様にお願いした。
この、分からず屋を止めるには、おねーちゃんが叱らないとだけだと思ったから。
「リリちゃん、プロトよ。今、戦闘中で忙しいけど何?」
「あのね、おねーちゃん。ここのAIさんがおねーちゃんの最後の命令で動いていて止まらないっていうの。お話をしてくれないかな?」
「可愛いリリちゃんの頼みならしょうがないわね、さて、分からず屋のAIさん。命令を再度するわ。『一旦、攻撃を辞めなさい。そして話し合いをしましょう』」
おねーちゃん、戦っているからか。
声にいつもの余裕、優雅さがない。
少し怒り調子でAIさんに命令を送った。
【ワレ、承認できぬ。其方がプロト00という証拠はない。今、送られてきたバイオメトリーは、かつて我がデーターベースに記録されているものと一致しない。声紋波長もやや低音だ】
……どうして、プロトおねーちゃんだって信じないのよー!?
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