第50話(累計 第96話) ラストバトル04:コントロールルームにて。
「早く、このドアの中に入って!」
「中の安全は確保済みよ、リリちゃん」
「うん!」
巨大な宇宙船の中。
広い廊下を走る僕とエヴァさんとリリ。
機材保管庫らしきところで一旦ヴィローを降り、そこからは人用の通路を一路、メインコンソールがある部屋に向かっている。
「しっかし、人用の通路でも対人用ギガス出してくるのは困るね。それもマザーさんが使っている端末と同じだから、心情的に撃ちにくいよ」
「といいつつ、ちゃんと敵を倒せているじゃないの、トシ。もう少しのはずだから頑張ろね」
「そーなの、おにーちゃん。わたしも頑張るからね」
ヴィローのコクピット内に装備していたアサルトタイプのショットガンを撃ち、対人ギガスを破壊する僕。
エヴァさんは、先行して道案内をしながら要所要所の魔法攻撃で僕を支援。
リリは僕の後ろを警戒しつつ、声援を送ってくれている。
「この角の向こう側。そのドアを開けた先が目的地ね。でも、手前に結構たむろってるわ」
目的地前、最後の曲がり角で一旦止まって、鏡を使い角の先を確認中の僕ら。
ここで作戦会議を一旦して、目的地に突入を目指す。
「じゃあ、僕が手榴弾を投げるからエヴァさんが雷撃系でダメ押し。その後、僕がドアの向こうに飛び込むから、リリは僕の後ろから離れないで」
「うん、おにーちゃん!」
僕は二人に指でタイミングを示しながら、手榴弾を小型ギガスの中央に放り込む。
ズドンと鈍い爆発が起きたのと同時に角から身体を出し、僕はショットガンを乱射した。
◆ ◇ ◆ ◇
「はぁはぁ。エヴァさん、外はどう?」
「今、隔壁を一部閉めたから何とか時間は稼げそうね。リリちゃん、そっちのコンソールは使えそう?」
「なんとなく分かるから、多分いけそう。おにーちゃんこそ、怪我していないの?」
僕は息を切らして、脂汗を流しながらも床にへたり込む。
迫りくる敵をなんとか撃破して、メインコンソール室に入る事が出来た。
……うう、リリたちに気が付かれない様にしなきゃ。多分、跳弾したときの破片が刺さっているんだろうけど。抜いたら大量出血しても嫌だから、本格的な治療をするまではこのままにしよう。
「だ、大丈夫だよ。そんな事より、リリは自分の事を心配しなきゃ」
血が滲み、酷く痛む腹をリリ達に気が付かせない様にしつつ、僕はもう一度腰を上げた。
「そう? 我慢できなくなったら、ちゃんとわたしかエヴァおねーちゃんに言ってね、やせ我慢のおにーちゃん。わたし、怪我しているの分かっているんだけど?」
「まったく、男がカッコつけるのは困りものよ。そこで倒れてもらっても困るから、さっさとお腹見せなさい。あら、これは痛そう。刺さっているのを抜くけど、少々我慢しなさいね」
「ぎゃ! 痛ーい」
「はい、治ったよ。止血と表面を蓋しただけだから、無茶はしないでね。トシ」
僕の演技なんて二人にはすっかりバレバレだったらしく、エヴァさんにひっ捕まって治療された僕だった。
「ううぅ。二人には余計な魔力を使ってほしくなかったのにぃ」
「このくらいの魔力消費なら、おにーちゃんを治した方が安心していっぱい頑張れるからね。おにーちゃんは、しばらくそこで休んでおくの。さー、行くよ! エヴァおねーちゃん、フォローお願い」
「任せて、リリちゃん。じゃあ、メインフレームと繋ぐ準備をするわ」
僕には、良く分からない操作が行われている。
エヴァさんは、ヴィロ―の操作パネルと似たコンソールを操作している。
しかし、リリは豪華なリクライニングシートっぽい椅子に背もたれを深く降ろして座り、大きなバイザーを被っている。
「エヴァさん。リリ、大丈夫? なんか、妙な椅子に座っているけど、何をしているの?」
「リリちゃんをフォローしながらだから、ざっとした説明になるけど良い、トシ? あれはね、メインフレーム。この宇宙船の中枢コンピューターの中、電脳空間に直接アクセスするための特別な椅子なの」
忙しそうに画面を見つつ、キーを叩くエヴァさん。
彼女は大変そうにしながらも、僕に説明をしてくれる。
「ここのシステム。ノルニルの子達は全員ある程度のアクセス権を持っているけど、深い部分。システムの根幹に入るには最上級の『鍵』が必要。そして、それを持っているのがリリちゃんなの。今、リリちゃんの遺伝子とバイオメトリクスを読み込んでいるわ」
僕には難しい話だが、リリという生きた存在そのものを『鍵』にしているそうだ。
「どうしてプロトさんじゃなくてリリが『鍵』なんだろうね」
「そこはわたしにも分からないわ。ただ、システムを作った時とリリの遺伝子設計をしたタイミングが一緒だったのかもって気はするの。プロト姉さまは初期の試作モデルということで、余計なものを盛り込めなかったからだと思う」
エヴァさん、僕と話しているうちに初期設定が終わった様だ。
「今から繋ぐわ。リリちゃん、何かあったらすぐ声を出して。接続を解除するからね」
「うん。エヴァおねーちゃん、おにーちゃん、行ってきます」
機械の動く音が大きくなる。
そしてリリが座っている椅子に付いているランプが明滅を始めた。
「きゃ。う!」
「リリちゃん! 無理ならやめるよ」
「だ、だいじょうぶぅ。くぅ、え、えいえいおー!」
リリが苦しそうな顔をしているのが半透明なバイザー越しに見える。
僕は思わずリリに寄り添って、グローブボックスの指輪部分に指を突っ込んでいるリリの手を上から抱きしめた。
「リリ。がんばれ!」
「うん! いけぇぇぇ!」
リリが叫んだあと、椅子のモニターランプが緑色になり、機械から出る音が滑らかになった。
「接続完了したわ、リリちゃん」
無事、リリは母船AIと接続出来た様だ。
「リリ」
僕はぎゅっと暖かくて小さなリリの手を握った。
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