第48話(累計 第94話) ラストバトル02:恐怖、呪いのコマンドワード
「今回の作戦は、リリちゃんを母船内の中枢コンソールへと連れていくこと。その為に邪魔するものは全部薙ぎ払う。それで良いわね」
「はい。師匠」
「軍事作戦に関しては、デイアーナさんに立案をお願いしますわ。わたくし達は可愛い妹に寄ってくる羽虫の撃退。それとコンソールへ到着後のリリちゃんへの演算能力と魔力支援。ノルニルシリーズ全部のリンクは、わたくし。プロトにお任せくださいませ」
北極へ突入する数日前。
アカネさんと貴族連合、共和国の全メカニックが頑張った結果、プロトさん達が乗るギガスの改修の目途がたったので、主要メンバーが集まり作戦会議をした。
「ぼ、僕らはリリちゃんの背後から砲撃で支援するんだね、レダ」
「ええ、ラザーリ様。ご無理して接近戦はなさらなくてもいいですから」
「俺はリリちゃんを運ぶ役だな。トシ坊。背中は任せておけや」
「ありがとうございます、レオンさん」
今回、プロトさん、師匠、ラザーリさんがギガスに搭乗し、支援攻撃をしてくれる。
各自の機体は、マザーさんのところにあった量産型ヴィロー、A級の機体に各自が乗っていた神話級ギガスの心臓部をそのまま移植。
空中戦を戦えるようにまで、沢山の技術者の協力で成り立った。
……ヴァハーナに使っていたラザーリさんの魔力炉を外し、代わりに人事委員長が乗っていた機体から魔力炉を移植したんだ。ちょうど、乗っていたリリの妹たちも協力してくれるようになったからね。
今回の事案は、惑星オデッセアの全人類の存亡がかかっている。
その話を各国に広報してくれたのが伯爵様。
今すぐではないにしろ、いずれ惑星を襲う隕石群。
そして訪れる悲劇。
かつての人類の愚かさを含めて知らしめた伯爵様の熱意に押され、共和国だけでなく貴族連合側からも協力の申し出があった。
思想の違い程度で争っていても、いずれ破滅を迎えるのでは無意味だから。
……栄華を誇った地球人類の科学技術を得られるというのも、あるんだろうね。一通り落ち着いたら、また覇権争いが始まるのはしょうがない。抗争は良くも悪くも人類の原罪だって、師匠は言ってたけど。
「おにーちゃん、皆仲良しで良かったの」
「そうだね。リリ」
今この時だけは、リリの願う誰もが仲良く暮らせる世界が近い。
出来れば、ずっとこの優しい世界が続いていて欲しいと僕は思った。
◆ ◇ ◆ ◇
「このまま、一気に踏み込みます。皆さん、宜しくお願いします」
既に多数の敵ギガスを撃破した僕ら。
いよいよ敵本陣へと攻め入る。
「じゃあ、母船を覆う重力場シールドから吹っ飛ばすよ。各位、推定危険範囲から一旦後方に離れてよ」
アカネさんの宣言で、各機がヴァハーナの射線上から後ろへと逃げていく。
「とっておき、秘蔵品を撃っちゃおう。重力子弾、レールキャノン一番に装填。弾頭及びバレルへの魔力電動開始。二番から四番には徹甲榴弾を装填。一番が炸裂後、ダメ押しを敢行」
「はい、アカネ・マスター」
「各弾頭の装填完了。魔力供給およびバレル冷却順調です。いつでもどうぞ」
二人のノルニル少女たちの支援を受けて、アカネさんは砲撃準備をする。
「いくよ。うちーかた始め!」
アカネさんの号令と共に放たれた最初の弾丸は、紫電と共に紫色の光を放ちながら母船へと向かう。
途中、射線を遮る様に動いたギガスらを触れる前に粉砕し、弾頭はシールドに接触した。
ぐわんと何かが歪むような感覚を僕らは感じる。
実際、母船を覆う透明なシールドも歪む。
一瞬、歪んでも耐えきったかと見えた瞬間、濃紫色の閃光が着弾点から走り、それと共に同じ色の球形が発生した。
「ぐぅぅ」
「おにーちゃん。耐えて」
球形の発生と共に、周囲のギガス達が一瞬弾き飛ばされる。
「こ、今度は吸われる!」
そして次の瞬間からは、周囲にあったモノを飲み込んでいく球体。
数秒後に球体は消え、母船はシールドはおろか、球体と重なった部分をそのまま抉られていた。
「次弾、照準はギガス発進ポート付近。撃てぇ」
続けて放たれた弾頭は、シールドにジャマされることも無く母船の装甲を撃ち抜き、内部で炸裂した。
「ヴァハーナは、これより後方支援に徹する。各位、死ぬんじゃないよ」
「はい。行きます!」
【御意】
四本のバレルから白煙を出しながら後方へと下がる重戦闘機ヴァハーナ。
レールキャノンから、かなり連打をかなり負担が大きかったのだろう。
僕はヴィローのスロットルを全開にし、一旦下がった位置から敵が薄くなった着弾点。
内部への進入路を目指した。
【ワレに仇名すモノ。止まりなさい!】
しかし、急に強い言葉が何処からか響く。
耳からではなく、頭の中に染みていくような。
「おにーちゃん。魔力炉の出力が低下。これ、ヴィローだけじゃないの」
「強制停止命令。これは母船のAIからね!」
ヴィローの速度や飛行高度がみるみる落ちていく。
背後監視モニターに映る他の機体の動きも、みるみる悪くなる。
「おにーちゃん、敵機が接近。このままじゃ危ないの!」
「う、動けぇ。ヴィロー!」
【申し訳ありません、マスター。あの声を聴くと、力が出にくくなって……」
僕らの周囲を飛行型ギガスが覆いだす。
このままでは、動きが鈍くなった僕らは全員死ぬ。
それもなぶり殺しにあう。
【ワレは第275播種移民船団の母船AIである。同じ地球から来たものたちよ。ワレに反抗するのは何故だ? ワレに仇名すオマエラは消滅せよ!】
……ああ、こんなところで死ぬのか。どうせ死ぬならリリの顔を見ながら死にたかったよ。
母船AIからの死刑宣告が響く中。
脳内に走馬灯が流れるが、何もできず。
僕は後悔から叫んだ。
「くそぉぉ。リリ、ごめん!」
「あら、トシ様もそんな男らしい下品な言葉を放つのね。戦士たるもの、最後まで優雅であるべきと師匠、デイアーナさんから教わりませんでしたか? プロト00として各機に命令します。『命令なんて、くそくらえ!』。各自、勝手に戦い、生き残りますわよ!」
僕に優雅であれと言いながら、プロトさんは下品な。
しかし力強い言葉に、僕は俯いていた顔を上げた。
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