第46話(累計 第92話) 迫りくる惑星規模の災害。
「その後の事は、あまり覚えていないけれど。宇宙船たちの軌道がズレて全部この惑星に落ちていくのを見たわ」
【オデッセアに早く降りたい人達と、もっとよい環境に改造してから降りたいという人達が争ったのは、私にも記録されています。プロト様が全ての宇宙船のメインフレイムに干渉をし、戦闘を止めるのと同時に惑星への着陸プログラムを起動したとログにありました】
「最後に覚えているのは、育成カプセルにママに押し込まれた事。ママは血濡れで苦しい中、わたくしに微笑んでくれたのは記憶に焼き付いてますの。そこから長い間、わたくしはカプセルの中で眠り、起きたのは、百年程前でした。人類の変わらなさ、愚かさに、更に絶望しましたわ」
僕らはプロトさんから、彼女が人類に怒りと絶望を覚えた話。
移民船団の最期を聞いた。
「お、おねぇったーん。怖かったんだよね、悲しかったんだよね、つらかったんだよねぇー!」
「あら。貴方が泣いてどうするの、リリちゃん。そんなに泣いたらせっかくの美人さんが台無しよ。よしよし。もう、わたくしは絶望なんてしていないから、安心してね」
本当なら泣きわめきたいだろうプロトさんに飛びついて、抱きしめながら大泣きしているリリ。
そんなリリを慈母の表情で抱きしめるプロトさん。
「まったくぅ。リリちゃんが絡めば、何でもこーなっちゃうのよね。流石は我が妹、天然アホ娘。なんでも同情して先に泣いちゃうから、自分の怒りが何処かにいっちゃうの。わたしの時も、そうだったわ」
いつのまにか僕に寄り添うエヴァさんも、慈母な雰囲気でリリを見ていた。
……少し気になる事を、プロトさんは言ってたな。起きてから百年って。つまり、同じノルニルなリリも同じく歳をあまり取らない可能性が高い。僕とずっと同じ時間は生きれないのかも……。
「ねえ、本題に入ったらどうかしら、マザーさん? リリちゃんが『鍵』だってのは、どういう意味? リリちゃんが危険になるのなら、わたしは許さないの?」
【はい。お話を続けます。母船はこの星の北極付近に着陸。今も稼働し続けており、誰も寄せ付けない様に防衛型無人ギガスを展開しています】
「それは、わたくしも直接目撃したわ。ヴリトラでも接近できませんでした」
【その母船ですが、最後に通信をした際、こんな命令を出していました。『惑星改造計画を続行する』と。この惑星オデッセア。水の少ない砂漠惑星。人類が生存するには魔法とプラントを併用しないと難しいのはご存じですよね】
マザーさんは、過去の話をするのだが、それがリリとどうつながるのかが、見えない。
「はい、知ってはいますが、それとリリにどう関係があるのですか?」
【惑星改造、この星のような気温が高く水が少ない。しかし地磁気や重力、酸素がそこそこある星では、氷隕石。彗星を落とすことが多いです。この星にも移民船団が到着後、いくつもの氷小惑星が落とされました】
「ええ。それはわたくしも覚えていますの。それとリリちゃんに何の関係がありますのかしら?」
【その改造プログラムの停止、もしくは変更キーがリリ様の遺伝子情報だとしたら、どうしますか?】
「えっと? リリが宇宙船に行ったら、そのなんとかプログラムを止められるの、お母さん?」
マザーさんの発言に、今ままでプロトさんに抱きついて黙っていたリリが疑問を訪ねた。
【ええ。ですが……。も、もう貴方が行く必要はありません、リリちゃん。貴方は貴方の人生を歩むべきです。確かに最初、トシ様には母船に向かえと申しましたが、あの発言は無しに……】
「マザーさん。もしかして、母船との接触は護衛機以外にもリリに危険が及ぶんですか?」
【……。あくまで支援AIの私には、その事について発言する権限は残念なからありません。ですので、母船へ向かえと言う話は聞かなかった事になさってください。】
僕の疑問に、言えないと悲しそうに拒否行動をするマザーさん。
どうやら、行けばリリは只ですまないらしい。
……これ、一体どうしたら良いんだよ? まだプロジェクトが動いているのが悪いとも良いとも知識のない僕には分からないし。
「では、移民船団において更に上位たるわたくし、プロト00が支援AIに強制命令を送ります。現在、母船で可動中の惑星改造計画の全貌、及びその停止プロセス。それにおけるリリ01の役目と負担を全て提示しなさい。いますぐ!」
リリを抱きしめているプロトさんが、高らかに命令を下す。
その姿は、先日までの復讐しか頭にない狂信者では無く、愛を語る女神に僕は見えた。
「もしかして、母船は今もこの惑星に氷隕石。それも大きなものを落とす気なのかしら? そうなれば、わたくし達は全て死んでしまう可能性もあります。知らないではすまされないのです!」
「そうなの、プロトおねーちゃん。もし、皆が危ないのなら、わたし行って止めなきゃ!」
「ちょっと待って。リリ、行ったら危ないんだよ? もしかしたら死んじゃうかもしれないんだぞ? マザーさんが言えないってのは、余程のことがあるに違いない」
いつものようにリリは、脳天気でお人好し、自分の安全を考えない発言をする。
そんなリリが心配になり、僕はリリを掴んで叫んでしまった。
「おにーちゃん、痛いよ」
「あ、ごめん、リリ」
「うん、良いよ。おにーちゃんや皆は、リリの事を心配してくれてるからなのは、分かってるから」
リリは、プロトさんの過去話で泣き晴らした赤い眼で僕に微笑んでくれる。
「トシ殿。今は、マザーから話を聞きましょう。わたくしも、リリちゃんを守りますから」
【皆様、リリちゃんを愛して下さり、ありがとうございます。……プロト様の命令で情報ロックが解除されました。皆さまがご心配なさっている通りです。現在、オデッセアと月のラグランジュ点L4とL5にいくつか氷小惑星が置かれています。置かれてからすでに千年以上経過していますので、表面部分はかなり揮発をして彗星のように尾を流す事はありませんが】
「わたしが以前マスター、ワイズマン様から教えてもらったのでは、ラグランジュ点でも1から3は比較的安定していますが、4と5は不安定と聞いていますの。千年単位で軌道が狂う事はあり得ませんか、マザーさん」
僕が理解できない話を、代わりにエヴァさんが聞いてくれる。
僕の方を見て、「貴方は分かっていないでしょ、代わりに聞いてあげるわ」っていたずらっぽい顔をしたのは、可愛いく見えた。
【……エヴァ様のいうとおり、いくつかは安定軌道を外れました。いくつかは衛星軌道から惑星軌道へと向かい、いくつかは月へと衝突しました】
「オデッセアへ落ちる軌道の物もある訳ね」
【はい、エヴァ様。もちろん今すぐという事は無く、おそらく百年単位の未来にはなりますが】
話は、僕の理解できる範疇をどんどん越えていった。
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